第13話 私と悠人⑬
「落ち着いたみたいだね、良かった」
微笑みながら言う彼に、私も微笑み返すと、今度は私から抱きついていった。
そうすると、悠人もそれに応えるように抱きしめてくれて、幸せな気分に浸ることができたわ。
それからしばらくの間、二人で抱き合っていたのだけど、不意に悠人が口を開いた。
「あのさ、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が頭をよぎったけれど、聞かないわけにはいかないと思い、恐る恐る聞き返すことにしたの。
すると、予想通りの内容だったので、思わず絶句してしまったわ。
どうやら、近いうちに転勤することになりそうなんだって。
しかも、行き先はアメリカだっていうから、さすがに驚きを隠しきれなかったわよ。
だって、そんなの急に言われても困るじゃない?
「どうしよう……」
不安でいっぱいになりながら呟くと、悠人が優しく慰めてくれたわ。
だけど、それで気分が晴れるはずもなく、むしろ余計に憂鬱な気分になっただけだったけどね……。
そんなことを考えていたら、いつの間にか涙が溢れ出していたみたいで、
悠人に見られたくないと思って慌てて顔を背けようとしたんだけど、その前に彼に捕まってしまったわ。
そして、そのままキスをされたのよね。最初は抵抗しようとしたんだけど、結局されるがままになってしまっていたわ。
しばらくして唇が離れた後で、お互いに見つめ合っていると、なんだか恥ずかしくなってきてしまったので視線を逸らすことにしたの。
そしたら、今度は向こうから近づいてきて、再び口づけを交わしました。
さっきよりも激しいものだったけど、不思議と嫌な感じはしなかったわね。
それどころか、どんどん興奮していってしまって、気づいた時には完全にスイッチが入ってしまっていたみたい。
その後は、ひたすらお互いを求め合い続けていました。
もう何度目になるか分からない絶頂を迎えた後で、ようやく冷静さを取り戻した私は、
自分のしたことを思い返して恥ずかしくなったわ。
(私ったらなんてことしてたんだろう!)
そう思いながら頭を抱えていると、不意に名前を呼ばれたような気がしたので顔を上げると、
そこには優しい笑顔を浮かべた悠人の姿があったわ。
その笑顔を見た瞬間、胸が高鳴るのを感じたわ。
彼はゆっくりとこちらに近づいてくると、そっと抱きしめながら言った。
「ありがとう、俺を受け入れてくれて嬉しかったよ」
そう言って微笑む姿に、キュンとなってしまった私は、
「うん……私もすごく幸せだよ♡」
と答えることしかできなかったわ。
それからしばらく余韻に浸っていたのだけれど、不意に悠人がこんなことを言い出したの。
「ねえ、俺たち付き合わない? もちろん結婚を前提に考えてほしいんだけどどうかな?」
その言葉に、嬉しさが込み上げてくると同時に、恥ずかしさも感じていたわ。
それでも、断る理由なんて無いと思った私は、迷わずOKすることにしたのよ。
こうして、私たちの交際が始まったわけなんだけど、特にこれといって変わったことはなかったわ。
強いて言えば、前より頻繁に会うようになったことくらいかしらね。
まあ、それも嬉しいことだったんだけどね♡
ただ、一つだけ気になることがあったので、思い切って聞いてみることにしたわ。
それは、どうして私のことを好きになってくれたのかってことだったんだけど、返ってきた答えは意外なものだったわ。
実は、以前から私のことを知っていたらしくて、何度か見かけたことがあるらしいのよね。
その時は、綺麗な人だなーって思うくらいで、それ以上の感情は持っていなかったみたいなんだけど、ある日偶然街中でばったり出くわして、
その時に運命を感じたんだってさ。
だから、私に一目惚れしたって言ってもらえた時は、本当に嬉しかったなぁ、それ以来、毎日欠かさずメールや電話をくれるようになって、
今では毎日のように顔を合わせているくらいだし、このままいけばいずれ結婚することになるだろうと思ってる。
そうなったらいいなぁーって思ってるけど、今はまだどうなるか分からないわね。
もしかしたら、他の人に取られちゃうかもしれないし、ひょっとしたら私の方から告白するかもしれないものね。
ふふっ、どうなるかは分からないけど、楽しみでもあるのよね♪
そんなことを考えながら、私は今日も仕事に向かうのだった。
翌日、いつものように出勤した私は、早速仕事に取り掛かることにした。
今日は、新しいプロジェクトの責任者として、上司から指名されたからだ。
正直言ってプレッシャーはあるけど、それ以上にやりがいのある仕事だとも思うので、気合を入れて頑張ろうと思っている。
まずは、現在の進捗状況を確認して、問題点を洗い出すことから始めることにした。
その結果、いくつかの課題が見えてきたため、それらを解決するための計画を立てることにした。
幸い、資料やデータは揃っていたので、それを元に計画を練り上げていくことにする。
「よしっ!」
気合いを入れ直すために小さく声を出して立ち上がると、さっそく作業に取り掛かったのだった。
数時間後、一通りの仕事を終えたところで時計を見ると、ちょうどお昼時になっていたことに気づいた私は、休憩も兼ねて昼食を食べに行くことにした。
オフィスを出ると、エレベーターに乗って一階まで降りると、エントランスを抜けて外に出たところで、
見知った人物の姿を見つけたので声をかけた。
その人物とは、私の彼氏である悠人だった。彼も今から昼食を食べるところだったらしく、
一緒に行くことになったのだが、その際にふと気になったことを聞いてみたところ、
「ああ、それなら大丈夫だよ」
と答えたのでホッとしたのだった。
その後、近くのカフェに入って注文を済ませると、料理が出てくるまでの間、雑談をしていたのだけど、その中で私が何気なく口にした一言に対して、
彼が返してきた答えを聞いて驚いたのよね。
何故なら、その内容があまりにも衝撃的だったからなのよ。
というのも、まさかそんなことを言われるなんて思ってなかったからなんだけど、それを聞いた瞬間、思わず固まってしまったほどだったわ。
しかし、そんな彼の言葉を聞いているうちに段々と冷静になっていったおかげで、落ち着きを取り戻すことができたわ。
そして、改めて考えてみると、確かにその通りだと思ったので、素直に認めることにしたの。
「ごめんなさい、その通りです」
すると、悠人は苦笑しながら言った。
「いや、謝らなくてもいいよ、別に気にしてないからさ」
そう言いながら、頭を撫でてくれた。それがとても心地良く感じられたせいか、つい甘えたくなる衝動に駆られたが、なんとか我慢して我慢した。
それからしばらくして、ようやく料理が出てきたので、私達はそれを食べ始めた。
食べている間、ずっと無言だったが、不思議と気まずくはなかった。
むしろ、心地よいとさえ思えたほどだ。
食事を終えると、会計を済ませてから店を出た。
その際、悠人が奢ってくれたことに対してお礼を言うと、
気にするなと言われたので、それ以上は何も言えなかった。
「さて、そろそろ戻るか」
と悠人が言ったので、それに同意する形で会社に戻ることにしたのである。
帰り際、悠人から手を繋がれたので、私もそれに応えるようにして握り返したのだった。
その瞬間、胸の奥が熱くなるような感覚に襲われたものの、同時に安心感を覚えることができたのは何故だろうか?
自分でもよく分からない感情ではあったが、決して不快なものではなかったことだけは確かだと思う。
むしろ、心地良いとすら思えるほどであった。
それからというもの、私は悠人と行動を共にする機会が増えたように思う。
もちろん、仕事の時も一緒なのだが、それ以外の時間も一緒にいることが多くなり、
周りからも冷やかされるようになっていったのだ。
そんなある日のこと、突然上司から呼び出されたかと思うと、こう告げられた。
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