第12話 私と悠人⑫
しばらくして目が覚めると、隣で寝ていたはずの彼がいなかったので少し焦ったのだけど、
よく考えたら今は会社に行く時間なので当たり前よね。
そう思った瞬間、寂しさが込み上げてきたわ。
でもいつまでもこうしていても仕方がないし、そろそろ起きないといけないと思って身体を起こそうとした時、
後ろから声が聞こえてきた気がしたんだけど気のせいかしらね?
そう思って振り返ってみると、そこに居たのはなんと夫の悠人だったのだからビックリしちゃったわよ!
どうやら起こしに来てくれたみたいだけど、それなら起こしてくれればいいのにって思いながら文句を言うと苦笑いされてしまったわ。
それから一緒に朝食を食べて、支度を終えると玄関先で見送ってもらうことになったのだけれど、
その時、彼からあるものを手渡されて思わず固まってしまったの。
それは綺麗にラッピングされた小包だったので、何だろうと思って開けてみると、中にはネックレスが入っていたわ。
それを見て驚いていると、悠人が照れ臭そうにしながら説明してくれた。
なんでも、昨日のうちにこっそり買っておいたんだって、それでサプライズとして渡すつもりだったらしいんだけど、
タイミングを逃してしまったので仕方なく自分で渡しに来たということらしかった。
それを聞いて嬉しくなった私は、早速身につけることにしたんだけど、その前に彼にお願いしたいことがあったので、それを伝えることにしたの。
それは、帰ってきたら真っ先に会いに来て欲しいってことなんだけど、それに対して悠人は快く承諾してくれたわ。
だから安心して出かけることができたんだけどね、やっぱり心配なものは心配なのよ。
無事に帰ってくるまでは、ずっとそわそわしたまま過ごしていたと思うわ。
そして、ついにその日がやってきたわけだけど、仕事中も上の空だったせいで上司に怒られちゃったりしたのよね、まったく、迷惑しちゃうわ、もうっ!
それでも何とか仕事を終わらせて帰る準備をしていると、同僚の子が声をかけてきたの。
「どうしたの、なんか元気ないじゃん?」
そう言われて初めて気づいたんだけど、確かにあまり気分は良くなかったかもしれないわね。
というのも、ここ最近はずっと帰りが遅くなってしまっているせいもあって、悠人に寂しい思いをさせてしまっていたからだ。
それなのに、今日もまた待たせることになると思うと、申し訳なくて仕方が無かったのよ。
すると、彼女は心配そうに顔を覗き込んできたかと思うと、こんなことを言ってきたの。
「ねぇ、何かあったなら相談に乗るよ?」
その申し出はとてもありがたかったのだけれど、さすがに話すわけにはいかなかったのでやんわりと断るしかなかったわ。
その後、私は足早に退社すると、真っ直ぐに自宅へと向かったわ。
早く帰ってあげないと悠人が可哀想だからね、急がないと……そう思っていたら自然と足が速くなってしまうほどだったわ。
そしてようやく家が見えてきた時、ふと違和感を覚えたの。
(あれ? 電気がついてない……?)
不思議に思って首を傾げていると、不意に嫌な予感が頭をよぎったため、慌てて駆け出した私は玄関の鍵を開けて中に入ると、
そのままリビングへと向かうことにした。
しかし、そこには誰の姿もなく、ただ静寂だけが広がっていた。
その光景を見た途端、全身から力が抜けてしまい、その場にへたり込んでしまった私は、
呆然としたまましばらく動くことができなかったわ。
どれくらいの間そうしていただろうか、ふと我に返った私は、慌てて悠人の携帯に電話をかけてみることにしたのだが、
何度かけてみても繋がらなかった。
もしかして、事故にでも遭ったのではないかと思った私は、居ても立っても居られなくなって、
急いで家を飛び出したところで、ちょうど帰宅した悠人と鉢合わせすることになった。
彼は驚いたように目を見開いていたが、すぐに笑顔になると、私を抱きしめるようにして出迎えてくれた。
悠人は、私が泣いていることに気づいていたと思うが、何も聞かずに優しく頭を撫でてくれたおかげで落ち着きを取り戻すことができたようだ。
そして、彼が言うには仕事が長引いてしまい、帰宅する時間が遅くなったのだということが分かったので、ひとまず安心することが出来た。
だが、それと同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、何度も謝罪の言葉を口にしていると、突然キスされてしまった。驚いて固まっていると、今度は耳元で囁かれたのでビクッと反応してしまう。
「そんなに謝らなくてもいいよ、俺は大丈夫だからさ」
そう言って微笑む彼の顔を見ていると、胸が高鳴るのを感じた。
そこで、改めて自分がどれだけ彼のことが好きなのかを再認識した私は、思い切って自分の気持ちを伝えようと決心するのだった。
結局その日は、お互いに疲れていたので早めに寝ることにして、ベッドに入った後もなかなか寝付けずに悶々としていたが、
気づけば眠りに落ちていたようで、気がつくと朝になっていた。
隣を見ると、悠人は既に起きていたらしく、キッチンの方から音が聞こえてきたので、そちらに向かうことにした。
そこにはエプロンを着けて朝食の準備をしている彼の姿があり、思わず見惚れてしまうほどの格好良さにドキドキしてしまった私は、
平静を装って挨拶をすることにする。
おはよう、と言うと、彼も笑顔で返してくれたのでホッとしたのだが、その直後、不意に後ろから抱きしめられたので、
心臓が止まりそうになった。
びっくりして硬直していると、彼は私の首筋にキスをしてきたので、さらに動揺してしまうことになる。
どうしていいか分からずにいると、彼は悪戯っぽく笑いながらこう言った。
「ごめん、驚かせちゃったかな? でも、こうしていると落ち着くんだ」
それを聞いた瞬間、顔が熱くなるのを感じたが、同時に胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚が襲ってきた。
(ああ、もうダメかも……)
そう思った時には、既に手遅れだった。
気がつくと、私は彼の胸に飛び込んでいた。
彼は一瞬驚いたような表情を浮かべた後で、私を受け止めてくれた。
それが嬉しくてたまらなかった私は、自分から唇を重ねていった。
最初は軽く触れるだけのつもりだったのだが、次第にエスカレートしていき、
最終的には舌を入れる濃厚なディープキスへと発展していった。
お互いの唾液を交換し合うようにして、何度も何度も繰り返すうちに、
頭がぼーっとしてきて何も考えられなくなるくらい気持ちよくなってきた。
「美咲、もっとキスしよう」
そう言われると、素直に従ってしまう自分がいることに気づいた。
気がつくと、私達はお互いを求めあうように激しく求め合っていた。
やがて、どちらからともなく離れると、名残惜しそうな表情を浮かべながら見つめ合った後、
もう一度だけ軽いキスをした後で、私たちはそれぞれの仕事に向かったのだった。
あれから数日が経過したある日のこと、私は悠人と喧嘩をしてしまい、気まずい雰囲気が続いていた。
原因は、些細なことだったと思う。
でも、その時の私には余裕がなかったこともあって、つい感情的になってしまったのだ。
そのせいで、余計に溝が深くなってしまったような気がして、自己嫌悪に陥っていると、悠人が話しかけてきた。
「……あのさ、この前はごめんな、俺が悪かったよ」
そう言うと、申し訳なさそうに頭を下げてきた。
それを見て、私の方こそ申し訳なく思ったので、すぐに謝ったんだけど、
その後も気まずくて話を切り出すことができないまま時間が過ぎていくだけだったわ。
そんな状態だったからか、私はついついため息をついてしまった。
それを見た悠人が心配して声をかけてくれたんだけど、うまく返事ができなかったのよね。
すると、何を思ったのかいきなり抱き寄せられてしまったの!
突然のことで戸惑っているうちに、悠人の腕の中にすっぽりとおさまってしまった私は、身動きが取れなくなってしまったわ。
その間、ずっと頭を撫でられ続けていたせいで、だんだん気持ちが落ち着いてくるのが分かったの。
しばらくして解放される頃には、すっかりリラックスできていたわ。
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