第7話 私と悠人⑦
「悠人、おはよう」
翌朝、目を覚まして隣を見ると、悠人は既に起きていたようで、こちらを見て微笑んでいた。
「おはよ、よく眠れたかい?」
そう言われて、昨夜のことを思い出してしまった私は、恥ずかしくなって俯いてしまった。
その様子を見た悠人は、クスクス笑いながら、頭を撫でてくる。
それが心地良くて、つい身を委ねてしまう。
暫くの間、されるがままになっていたが、ふと視線を上げると、悠人と目が合ってしまい、慌てて顔を逸らした。
(うぅ……恥ずかしいよぉ……)
心の中で呟くと同時に、顔が熱くなるのを感じた。
きっと真っ赤になっているだろうと思いながらも、どうすることもできずにいると、
突然、後ろから抱きしめられたかと思うと、うなじ辺りにキスをされた感触が伝わってきた。
驚いて振り向くと、今度は唇にキスされる。
舌が入ってくる感覚に戸惑いつつも、それに応えるように絡ませる。
しばらくすると唇が離れていき、名残惜しく思っていると、耳元で囁かれた言葉にドキッとした。
それは愛の言葉だったの。
嬉しくて泣きそうになりながらも、なんとか堪えることができた私は、お返しとばかりに自分からキスをすることにした。
最初は軽く触れるだけのつもりだったのだが、次第にエスカレートしていき、最終的にはディープなものになってしまったが、
それも嫌ではなかったし、むしろ嬉しかったくらいだった。
こうして幸せな気分に浸っていたところで、ふと時計を見ると、もう起きる時間になっていたことに気づいたので、仕方なく離れることにした。
それから支度を済ませた後、玄関に向かう前にもう一度キスをしてから出発したのだった。
職場に着くと、同僚達に挨拶をしながら席に着くなり、早速仕事に取り掛かったわけだが、その間も頭の中は彼のことでいっぱいだった。
(はぁ……悠人に会いたいなぁ……)
そんなことを思いながら溜息を漏らすと、隣の席にいた後輩の女性社員が声をかけてきた。
彼女は私が入社した時の教育係を担当してくれた人で、今でもお世話になっている人だ。
名前は藤崎さんという。
年齢は30代前半で、とても綺麗な顔立ちをしている美人さんだ。
スタイルもよく、胸の大きさもかなりのものだと思う。
身長は170cm近くありそうで、足も長いためモデルのようだと感じることもあるくらいだ。
おまけに頭も良いらしく、仕事では常にトップの成績を維持している優秀な人材でもあるらしい。
そんな彼女が何故私の教育係に任命されたかというと、単純に仕事の要領が悪かったからである。
何度教えても覚えられず、ミスばかりしてしまうので見かねた上司によって命じられたのだそうだ。
当初は迷惑そうな表情を浮かべていた彼女だったが、実際に仕事を教えてみると飲み込みが早いことがわかったので、
それ以降は積極的に教えてくれるようになったのである。
おかげで今では一人でこなせるようになり、周りからも一人前扱いされるようになったというわけだ。
そんな経緯もあって、彼女には本当に感謝している。
だからこそ、迷惑をかけたくないという思いが強く、少しでも早く一人前になれるように努力を重ねているのだが、
なかなか上手くいかないというのが現状であったりする。
そんなある日のこと、いつものように仕事をしていると、突然声をかけられたので振り返ると、そこには藤崎さんが立っていた。
どうしたのだろうと首を傾げていると、彼女は笑顔を浮かべながら話しかけてきた。
「ねえ、今日この後予定あるかしら? もしよかったら飲みに行かない?」
突然のお誘いを受けて驚いたものの、特に断る理由もなかったので承諾することにした。
その後、仕事を片付けてから退社した後、二人で居酒屋に向かったのだが、そこで色々な話をしたりしているうちにすっかり意気投合してしまい、
気がついた時には終電の時間なので切り上げて、終電に乗車に乗り、私は愛する悠人が待つ家へ帰る。
「ただいまー!」
玄関のドアを開けて声をかけると、奥からパタパタという足音が聞こえてくる。そして、エプロン姿の悠人が出迎えてくれた。
笑顔で迎えてくれる彼に癒されつつ、靴を脱いで上がると、そのままリビングへと向かう。
ソファに腰掛けると、悠人が隣に座ってきたため、肩を抱かれながら頭を撫でられる。
その手つきはとても優しくて、心地よい気分になることができたので、思わず目を細めると、額にキスを落とされた。
不意打ちだったので驚いて固まっていると、今度は頬に口づけられる。
しかも、一度だけではなく、何度も繰り返されたため、恥ずかしくて俯いてしまう。
それでも構わず続けられるので、とうとう耐えきれなくなった私は、悠人の胸に顔を埋めると、背中に手を回して抱きついた。
すると、彼もそれに応えるように抱きしめてくれたので、しばらくの間、抱き合っていたのだが、不意に悠人が口を開いた。
「ねえ、今日はこのまま泊まっていくでしょ?」
その言葉に、一瞬戸惑ったものの、すぐに首を縦に振った。
もう我慢できないと思ったからだ。だから、悠人に手を引かれるまま寝室へと向かい、ベッドに押し倒される形で倒れ込むことになったのだが、
そこから先はどうなったのかわからない。ただ、朝起きた時には裸になっていて、隣には同じく裸の悠人が眠っていたことだけは覚えている。
結局、その日は一日中、ベッドで過ごした後、一緒にお風呂に入ったりした後で帰宅したわけだが、
その際、玄関先で再び襲われそうになったので、必死に抵抗した結果、何とか逃れることができた。
その後は何事もなく一日を終えたわけだが、次の日の朝になると、またしても同じ状況に陥ってしまったのだった。
その後、何度か同じことを繰り返した結果、私は完全に悠人の虜になってしまったようだ。
今では毎日のように求めてしまっている始末である。
自分でもどうかしていると思わなくもないが、どうしても止められないのだから仕方ないと思うことにするしかなかった。
そんなわけで、今日も朝から求められてしまったわけなのだが、さすがにこれ以上続けるわけにはいかないと思い、何とか押し留めると、
渋々といった感じではあったが諦めてくれたようだった。
ホッと胸を撫で下ろしていると、不意に抱きしめられたので、
驚きつつも抱きしめ返すと、キスされてしまった。
「んっ……ちゅっ……」
最初は軽いものだったが、徐々に激しくなっていくにつれて、息が苦しくなってくる。
それでも構わず続けているうちに、頭がボーッとしてきたところで解放された。
「ぷはっ! はぁ……はぁ……」
呼吸を整えるために深呼吸を繰り返す。その間にも悠人は何度もキスをしてくるので、その度に応えていたが、やがて満足したのか、ようやく解放してくれた。
それから朝食を食べて、出勤する準備を済ませた後、家を出ることにした。
玄関まで見送りにきた悠人に向かって手を振ると、彼は微笑みながら手を振り返してくれた。
それだけで幸せな気分になり、自然と笑みがこぼれてしまう。
外に出て、エレベーターを待っている間、ふと自分の唇に触れると、悠人とのことを思い出してしまい、顔が熱くなるのを感じた。
(うぅ……また思い出しちゃったよぉ……)
恥ずかしさのあまり、その場に蹲ってしまいそうになるが、何とか堪えることに成功した。
その時、ちょうどエレベーターが来たので乗り込むと、一階に着くまでの間、ずっとドキドキしていた。
外に出ると、眩しい太陽の光を浴びて、思わず目を細めた。
しかし、それも束の間のことで、次の瞬間には笑顔になっていた。
何故なら、そこには最愛の人がいるからだ。
その人に向かって駆け寄り、抱きつくと、彼もそれに応えるように抱きしめてくれた。
それだけで幸せな気分になれるのだから不思議だと思う。
そんなことを考えながら、しばらく抱き合った後、ゆっくりと離れると、彼と手を繋いで歩き出す。
「えへへ、幸せだなぁ」
つい口に出してしまった言葉に、彼が微笑んでくれるのを見て、ますます嬉しくなった。
職場に到着するまでの間、私達は終始無言だったが、不思議と気まずさを感じることはなかった。
むしろ心地良さすら感じていたくらいだ。
そして、職場に到着したところで、名残惜しくも手を離すことになるのだが、この時だけは寂しさを感じずにはいられなかった。
だが、それもほんの一瞬のことだった。何故なら、仕事が終わればまた会えるのだから、
それまでの辛抱だと自分に言い聞かせることで耐えることが出来たのだ。
その後、いつも通り仕事をこなすと、定時になったので帰宅することにした。
帰り支度を済ませて玄関に向かうと、悠人は既に待ってくれていたようで、
「お疲れ様でした!」
という声と共に抱きしめられた。
突然のことに戸惑いつつも、私もそれに応えるようにして抱きしめ返した後、キスをした後に別れたのだった。
家に帰る途中、ふと空を見上げると星が瞬いていたのが見えたので、立ち止まって眺めていたら、後ろから声をかけられたので振り向くと、そこには見知った顔があった。
それは幼馴染の和人だった。どうやら私のことを待っていたらしい。
何の用だろうかと思いつつも尋ねると、意外な答えが返ってきた。
その内容とは……?
「……あのさ、俺と付き合わないか?」
いきなり何を言い出すんだと思ったが、よくよく考えてみれば悪くない話かもしれないと思ったので了承することにした。
それからというもの、私達は恋人同士として付き合うことになったのだが、
「なぁ、今夜空いてるか? よかったら飲みに行こうぜ」
と言われたので、特に予定もなかったのでOKした。
こうして、私たちはデートすることになったわけだが、どこに行くか迷った挙句、結局居酒屋に行くことになった。店内に入ると、
店員に案内された席に座ってメニューを開くと、早速注文することにした。
料理やお酒が次々と運ばれてくる中、それらをつまみながら他愛もない話をしていたが、途中で話が途切れてしまったため、
「そういえば、最近はどうなの?」
と聞いてみると、少し考えた後で、こう返してきた。
「どうって、何が?」
「いや、ほら、好きな人とかいないのかなって思って」
そう聞くと、和人は黙り込んでしまった。
しばらくして、小さな声で何かを呟いたような気がしたのだが、よく聞き取れなかったので聞き返すと、今度は大きな声で言ってきた。
「そんなの、いるに決まってるだろ!」
それを聞いて、私は何故かホッとした気持ちになった。
というのも、ここ最近、彼と一緒にいる時間が減ってきているような気がしていたからである。
以前は毎日のように遊んでいたのだが、最近ではあまり誘ってくれなくなってしまったし、会話も減っているような気がするのだ。
だから、不安を感じていたのだけれど、今の返答を聞いて安心した自分がいることに気付いて驚くと同時に恥ずかしくもあった。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか時間が過ぎていたらしく、そろそろ帰ろうということになった。
会計を済ませた後、店を出て駅の方へ向かって歩いていく。
その間、特に会話をすることはなかったが、気まずいとは思わなかった。
むしろ、心地よい雰囲気に包まれているような気分だったほどだ。
やがて駅の改札口に着くと、そこで別れることになった。
ホームで電車が来るのを待っている間に、何気なくスマホを取り出して画面を見ると、一件の通知が入っていたことに気付く。
何だろうと思って見てみると、それは悠人からのメッセージだった。
内容は、今から会えないかというものだったので、私は迷わず返信すると、待ち合わせ場所を伝えるために電話を掛けた。
「もしもし? 今どこ?」
電話に出た途端、慌てた様子で聞いてくる彼に苦笑しながら答えると、すぐに向かうと言って電話を切った。
それから数分後、やってきた彼を出迎えると、そのまま近くの喫茶店に入った。
席に着いて飲み物を注文した後、改めて向かい合う形になると、何だか照れ臭くなってしまい、まともに顔を見ることができなくなってしまった。
そんな私の様子に気付いたのか、彼は優しく微笑みかけてくれた後、頭を撫でてくれた。
「大丈夫、落ち着いて話してごらん?」
その言葉を聞いた瞬間、涙が溢れてきて止まらなくなった。
それでも何とか堪えようとしたが、無理だった。
結局、泣き出してしまった私を、彼は何も言わずに抱きしめてくれた。
その温もりを感じながら、少しずつ落ち着きを取り戻していくことができたため、ようやく話せるようになった頃には涙も止まっていた。
その後、私はこれまでの経緯を全て話した後で謝罪の言葉を口にしたが、それに対して返ってきた言葉は意外なものだった。
「謝らなくていいよ、俺の方こそごめんな」
そう言って頭を下げる悠人に、私は慌ててしまう。
どうして彼が謝る必要があるのだろうかと考えているうちに、一つの結論に至った。
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