第6話 箱庭(2)


「じゃあ、アテナ……」


 お願いするよ――そんな俺の言葉に、


「ういっ♪」


 と元気に返事をするアテナ。ふわりと宙に浮いたまま前進する。

 そして、両手をかかげた。すると光の粒子が降り注ぐ。


 ここは村の中央の噴水ふんすい

 当然、俺たちが村に来た時は水が出ていなかった。


 星霊がいなくなったため、水がれ、放置されていたようだ。

 俺が星霊石キューブを修復し、水路を直した。


 星霊の力により、水が流れるようになる。

 後は妖精たちが勝手に整備メンテナンスしてくれるだろう。


 かすかだが、星霊の力も戻ってきているようだ。

 次に誰かがおとずれる頃には、新しい星霊が生まれているのかもしれない。


 村には花壇かだんもあったので、きっと多くの花が咲いているハズだ。

 俺たちは村人たちに感謝されつつ、村を後にした。


何故なぜ、ハクは人と関わろうとするのですか?」


 とアストレア。『白夜びゃくや』は発音が難しいのだろうか?

 アテナは分かるが、彼女まで、すっかり俺のことを『ハク』と呼んでいる。


 そんなアストレアの質問に、


「この星霊王ヘスティアもとに連れて行くだけなら、難しいことじゃないと思う……」


 それだけなら、俺は必要ないよ――そう言って、前置きを入れた後、


「ただ、それで、このが次の星霊王ヘスティアになった時……」


 この世界を『どう思うのか?』と思ってね――と答える。

 恐らく『星霊王ヘスティアもとへ星霊を連れて行く』ということは『彼女が次の星霊王ヘスティアになるのだ』と俺は考えていた。


 俺の言葉に対し『なるほどぉ……』と感心するような表情のアストレア。

 そんな俺たちの様子を見比べて、


「うりゅ?」


 とアテナは首をかしげるのだった。

 会話の内容をまだ理解できていないらしい。


「世界がこのを必要としても、このが世界を愛していなければ、また不幸が生まれると思ったんだ」


 『人は誰かを愛し、誰かに愛されるために生まれてくるのだ』と、俺は思っている。また『誰かを憎み、理由もなく殺すこともあるのだ』という事も知っている。


勿論もちろんなにも知らないこと、考えないことは幸せなのかもしれない」


 それでも『誰かを愛し、愛されることを知ること』は大切なのだと考えている。


「村で過ごして分かったけれど、髪も爪も伸びてはいない」


 と言って、俺は自分の前髪をつままむ。

 村にとどまった理由の一つだ。


 この世界では、成長がまってしまうのではないか?

 そんな仮説を立て、俺は検証した。


 根本的なところで、俺はこの世界の人間とは相容あいいれない存在のようだ。

 地球とは、時間の流れが違うことの証明でもある。


「旅は続けられそうだよ」


 その言葉にアストレアは喜びの表情を浮かべる。

 俺の言葉にある、本当の意味には気が付いていないようだ。


 『星喰いカズム』と呼ばれる怪物。

 あれは、この世界で暮らす人々の罪の形なのかもしれない。


 大切なモノと引き換えに、悠久の時を選び取った人間への警告。

 ならば俺は、その理由を解き明かさなくてはならない。


 そう、探偵は真実を白日の下にさらすのが使命である。

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