第5話 箱庭(1)


 空の色は青ではなく白だった。

 太陽が存在しないので、その所為せいだろう。


 当然、夕焼けもない。

 俺たちは、自動で動く乗り物を使って移動をしていた。


 えていうのなら、ボートなのだろうか?

 俺は遺産アーティファクトと呼称し、地面に転がっていたモノを修理した。


 形状は舟なのだが、水上を移動するのが目的ではなさそうだ。道沿いに移動するのだが、自動車ほどの速度スピードはでないし、車輪も付いてはいない。


 空中を浮遊し、揺れることもなく、一定の速度スピードで決まった場所を行き来する。

 歩くよりはマシ――という程度のモノだ。


 役割としては都市間をつなぐ、電車やバスのようにも思えるが、出入り口が付いているワケではないので、乗り降りはいつでも自由だ。


 雨が降っている間は機能を停止するらしい。

 これは箱庭の中の気候が管理されているためだろう。


 この舟は箱庭を管理するシステムと『連携が取れている』と考えていい。

 つまりは機械テクノロジーだ。


 ただ、動かすためには星霊の力が必要となる。

 星霊の力が『電気やガソリンの代わり』というワケだ。


 この箱庭は星霊王ヘスティアから離れている場所にあるため、星霊の力が弱い。

 現状はアテナが居なければ無用の長物となる。


 また、起動や操作には円環術アニュラスを使用しなければならない。

 円環術アニュラスは『魔法のようなモノだ』と考えるのがいいだろう。


 俺からすると機械語プロブラムなのだが、使うにはある一定以上の知識と経験が必要なようだ。そのため、円環術アニュラスの使い手は少ない。


 アストレアを見る限り、箱庭のシステムに対し、疑問や好奇心を抱かないよう教育されているのだろう。


 ちなみみに円環術アニュラスは、星霊石キューブと呼ばれる四角い物体に対し、使用するのが一般的である。水を生成するにしても――


 〈起動ブート〉〈書換リライト〉〈属性エレメント〈冷水〉コールドウォーター決定デシジョン〉〈生成クリエイト〉。


 みたいな感じなので、非常に面倒だ。アストレアの話によると『妖精フェアリー』と呼ばれる様々な種類と形状を持つ生物マシンが、世話メンテナンスをしてくれているらしい。


 これらの情報から、この世界の人間たちは与えられた環境の中で管理され『生かされている』と推測できる。


 幸せなのは、その事実に気が付いていないことだ。

 よって、たまに俺のような人間が外からまねかれるのだろう。


 世界を維持するための潤滑剤じゅんかつざいのような役割らしい。

 永劫回帰えいごうかいきを意味する星霊使いウロボロスとは言ったモノだ。


 星の力を正しく循環じゅんかんさせるのが俺の役目であり、アテナが俺を選んだ理由なのだろう。だとするなら、星霊の力とはなんのか?


 俺たちが移動の手段に使っている、この乗り物も『なぜ動くのか?』については解明されていないらしい。


 アストレアの話によると、もっと大きな舟も存在するそうだ。

 星霊王ヘスティアへ近づくほどに、箱庭が大きくなっていた気がする。


 やはり、動力エネルギーとなる星霊の力が大きいほど『大きな箱庭を運用できる』と考えていい。


 それが世界の中心に近づけば近づくほど、箱庭が大きく理由だ。

 現状は『星喰いカズム』により、多くの星霊が失われてしまってる。


 アテナを星霊王ヘスティアもとへ連れて行くことも大切だが、次の星霊が育つように環境を整備するのも大切なことだ。俺一人では荷が重い。


(もっと、多くの仲間が必要だな……)


 俺たちは小さな村へ辿たどり着くと、村の手伝いをしながら過ごす事にした。

 星霊の少女であるアテナを連れているためか、待遇がいい。


 ただ、村に住んでいるのは人間ではなく、モコモコの毛玉のような生き物だった。

 会話コミュニケーションを行える程には知能が高い。


 この世界は星霊の力によって成り立っているので、アテナは信仰の対象となっているようだ。


 アストレアは口には出さなかったが、村にとどまることに対して反対のようだった。

 早く星霊王ヘスティアもとへアテナを連れていきたいのだろう。


 俺は『あと一週間』という約束でなだめている。アストレアは、


「き、気にしないでくれ」


 と口では言っていたが、内心――ホッ!――としているのは見ていて、すぐに分かった。当然、俺が村にとどまったことには理由がある。


 一つは円環術アニュラスれることが目的だ。

 恐らくは星霊王ヘスティアもとへ近づくたびに、文明のレベルが上がるのだろう。


 そうなると、円環術アニュラスが複雑になることが予想される。

 能力を理解しないまま先に進むのは危険だ――と俺は判断した。


 また、ボートもそうだったが、村の周辺で壊れている遺産アーティファクトいくつか見付けた。

 円環術アニュラスの練習も兼ねて、俺はそれらの修理をこころみる。


 遺産アーティファクトが使えるようになることで、村の暮らしも便利になるだろう。

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