異世界

第4話 旅の始まり


 俺が目を覚ますと、


「あっ、気が付きましたね☆」


 女性にしては威勢のいい声が響く。

 『星霊の守り手テミス』にてして、この円環世界リングテイルを守護する騎士『アストレア』。


 長い金色の髪を持つ美人で、青い瞳をしている。

 最初に出会った時は成人だと思っていたのだが、年齢はまだ十代だという。


 日本でいうのなら高校生だ。

 良く言えば、実直じっちょくな性格で任務に対しては真面目まじめ


 悪く言えば、大人びた見た目に反して、子供っぽく直情的。

 長身で大柄おおがら。本人は筋肉質であることを自慢している。


 また、出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいた。

 遠目に見ている分には非常に魅力的な女性に映るだろう。


 まあ、そんな理由から、俺としては苦手な相手である。

 距離を取るためにえて『お姉さん』と呼んでいた。


「寝ていたのか……」


 と俺はつぶやく。いつの間にか眠っていたことにおどろきつつも――何故なぜかアストレアにひざまくらされている――そのことの方が不思議だ。


 『記憶にない』ということは、また勝手に俺を動かしたのだろう。

 どうにも俺を気に入っているようで、すぐにくっつきたがるから迷惑である。


 彼女が筋肉質の上、白いよろいまとっているから、多少の接触は平気だ。

 しかし『年上のお姉さんに甘やかされる』という、この状況は――正常な中学生男子にとって――非常に困るモノだった。


 そんな俺のお腹の上で、


「ハク、起きたのよ♡」


 と無邪気に声を上げ、抱き着いているのは星霊の少女『アテナ』だ。

 大きな瞳に無邪気むじゃきな笑顔。青とも緑とも取れる不思議な髪の色をしている。


 この場合は、例の洋館にいた『幽霊の正体』と言った方が分かりやすいのかもしれない。


 両手にスッポリと納まる大きさの幼い少女だが、不思議な力を持っている。

 空を浮遊ふゆうできるためか、体重はあってないようなモノだ。


 上に乗られても、寝苦しくはなかった。


「アテナ、おはよう」


 そう言って、俺は上半身をゆっくりと起こす。

 アテナは遊んで欲しいのかニコニコと微笑ほほえみ、両手を広げている。


 正直、寝覚めが悪いので、勘弁かんべんして欲しいところだ。


「調子が良くないようですね……」


 それはいけません!――と心配そうに俺の顔をのぞき込むアストレア。

 顔が近い。ひたいでも、くっつけたいのだろうか?


 俺はそんな彼女を手で押し退けつつ、片方の手でアテナを抱っこした。

 キャッキャッ♪――と喜ぶアテナに対し、


「そんなに恥ずかしがらなくても……」


 残念です――とアストレア。

 まったく、膝枕ひざまくらの件といい、油断もすきもあったモノではない。


「お姉さん達と初めて出会った時の夢を見たよ」


 と俺は告げる。正確には、彼女たちと出会う前の出来事だ。

 古びた洋館――そこで俺はアテナと出会い『星喰いカズム』と呼ばれる怪物と対峙たいじする。


 強い光が弱点であることは、すぐに理解したが、相手の数は二匹だ。

 逃げつつも、アテナにみちびかれ、飛び込んだ先が異世界への扉だった。


 異世界へと転移した俺たち。

 二匹の内、一匹だけが執拗しつように追ってきていた。


 アストレアが助けに来てくれなかったら、危なかっただろう。


「私たちの運命の出会いですね!」


 何故なぜか――フフン!――と得意気に胸を張るアストレア。

 楽しそうである。


 こっちはワケも分からず、逃げるのに必死だったので、まったくって、いい思い出ではない。どうやら、アストレアの記憶の中では美化されているようだ。


 俺はツッコミを入れるのはめ、


「運命か……」


 とつぶやきながら、指にめらた指輪リングを見る。

 賢者けんじゃと呼ばれていた存在――


(恐らくは、この星を管理するシステムなのだろう……)


 かろうじて生きていた端末たんまつを通して、たくされたモノだ。

 指輪を身につける事によって、俺は『不思議な力』と『世界の知識』を得た。


 結論から言えば、この世界は一つの大きな光――星霊王ヘスティアと呼ばれるエネルギーのかたまり――を中心に形成されている。


 光の周りをいくつもの箱が、円を描くように配置され、周回していた。

 その姿はまさに指輪リングのようだと言える。


 肝心の箱の中身だが、それは俺たちが今、存在している空間そのモノだ。

 箱の中に生物が暮らせる環境が用意されていて、箱の数だけ人々の暮らしがある。


 いつからか『円環世界リングテイル』と呼ばれるようになったらしい。

 俺たちの旅の目的は、その箱――いや、『箱庭モノガタリ』を渡り歩き、星霊の少女アテナを世界の中心にある光のもとへと届けることだ。


 世界の中心から最も遠い場所で生まれた少女が、多くの箱庭モノガタリめぐり、最後に世界の中心へ辿たどり着くことで、この世界は再生する。


 理屈は分からないが、賢者は俺のことを『星霊使いウロボロス』と呼んでいた。

 この場合は『星霊をみちびく存在だ』と考えるのが妥当だとうだろう。


 俺たちは――世界の中心にある光――星霊王ヘスティアに会わなければいけない。

 最後ははなばなれになると分かっているが、旅を続けている。


 ただ、この旅を邪魔じゃまする存在がいた。それが『星喰いカズム』と呼ばれる怪物であり、数多あまたいた星霊たちも、『星喰いカズム』に飲み込まれたのだという。


 すでに最初に遭遇そうぐうした『星喰いカズム』は倒したのだが、俺は『あれで終わりではない』と考えていた。


 複数いることが予想される。あの事件で解決したことにすると、アテナが危険な目にい、本当に寝覚めの悪いことになっていただろう。


 その時の経験により、この世界は俺の居た世界と時間の流れが違うことを知った。

 俺は夏休みを使い、異世界での旅を計画する。


 星霊の少女との箱庭モノガタリめぐる冒険の始まりだ。

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