45「狼」
7番は目を見開いた。彼女の真っ黒な瞳に反射したのは、腕を大きく振りかぶった神田の弟の姿だ。彼の手には牙が握られていた。割れたダウンライトに照らされた背中を丸め、宙で飛躍する彼の姿はまるで狼男のように彼女の瞳に映る。
7番の呼吸は止まっていた。ただし心拍の音は聞こえていたので、死んだわけではない。文字通り息が止まっていたのだ。声を出すことなく、彼女は神田の弟が迫ってくるのを眺めていた。しかし彼女は死を覚悟したわけではなさそうだと感じたのは彼女から、奥歯を噛みしめる音が聞こえたからだ。
──そう。まだ終わっていない。
狼男のような体格の神田の弟が腕を振り下ろし、7番の10代特有の幼さが漂う小柄な体を潰そうとする。その腕が落ちる瞬間、私は彼の方へ飛び込んだ。
目を瞑っていたせいで神田の弟が振り下ろした腕が7番を捉えなかったかどうかは分からなかった。
体当たりした私は、暴れる神田の弟の体を押さえつけるので必死だった。
私と彼はもみくちゃに転がる。そして仰向けの彼に馬乗りになる形で動きが止まった。
いや、正確に言えば同じ力で抵抗し合ったせいでお互い動くことが出来なかった。乱れた彼の前髪がどこか寂しさを含んだ眼差しを遮っていた。
一方、私は、顔面に垂れた黒髪のウィッグの隙間から彼の瞳を見つめようと試みる。
彼の黒目がほんの少し動いた。そして私は彼の目を見つめることに成功した。
しかし、彼の左目は少し右にずれていたので、きっと彼は私の右目を見つめているのだろう。私は彼の左目を見つめていたので正確には目は合っていないとも言えた。だが、そんな中でも彼の瞳の深淵はやはり神田の物と似ているなと私は感じていた。
ハウリングが聞こえるが、先ほどとは異なる音の波のように聞こえた。
さざ波のような微かなハウリング。それが意味するものは私や7番を殺すつもりがないのか、それとも殺意を向けるまでもないと認識しているのか。更に彼の寂しげな瞳が意味するものは何か。瀕死な状態の私に対して哀れんでいるのだろうか。
余計なことを考えてしまったせいで力が抜ける。そう認識した時には神田の弟が顔を歪ませ力を入れていた。
嫌な予感がした私は彼から離れようと試みる。しかし彼は掴んだ私の腕を離さない。
私は必死で両腕を動かした。神田の弟は一層、顎に力を入れ歯を食いしばった。そして私の鼓膜を揺らしたのは木の板が剥がれるような音だった。
その音を聴き、眉をしかめた私は目の前の彼の歯が、突如急成長し巨大な牙になっていく様を見て、呆然した。
巨大になりすぎた牙は彼の口腔内には収まりきらず、上下で噛み合わさったまま彼の口から溢れ出ていた。
彼の口から飛び出すほどに急成長した歯のせいで歯茎や口腔内が傷ついているのだろうか、剥き出した牙からは血液が滴り落ちていた。
もはや狂犬とも狼男とも表現できない彼の姿を目の前にした私は息を飲んだ。
化け物だ。そう思ったのは誇張でも比喩でもない。
異常な能力の持ち主を数多く見てきたが、ここまで肉体的に変化する殺し屋は初めて見た。こんな化け物を相手にしていたのだと思うと、ぞっとしてしまう。
いや、正しくは相手にはされておらず、一方的に遊ばれていたと言った方が正しいか。
彼の牙の隙間から滴り落ちる紅色の雫が私の頬に当たって弾けた。
反射的に私はまばたきをする。私の睫毛に彼の血液が付着してむず痒さを感じる。
私は顔を歪め睫毛についた血液を払おうとする。しかし、そうしている間にも彼が私の腕を掴む力は増す一方だった。そしてもちろん私の顔面にも彼の口腔から溢れ出る血液が降り注ぐ。
顔についた異物を振り払えないのはとてもつもなく不快だった。その鬱陶しさに私は声を上げたくなるが、そんな余裕を神田の弟が与えてくれるはずもなかった。
彼の牙の先が必死に抵抗する私の頬に触れる。彼の血液まみれの口は生臭く、そして獣臭さを孕んでいた。
彼の牙が私の頬を僅かに伝うだけで、その表面の細かい凹凸が私の皮膚を傷付ける。
刃物のような鋭利な傷口ではなく、コンクリートで引っ掻かれたような鈍い傷口は数cmに満たないものだったとしても、その大きさ以上の痛みを訴える。
自分の心拍が上がっていくのが手にとるように分かる。私はきっと彼を恐れているのだろう。
背筋が凍り、全身に鳥肌が立つ。しかし、自分が彼を恐れていることを受け入れた事で私はふと冷静になれた。
──大丈夫だ。まだこいつを恐れる力が私には残っている。
そう思える事が私の心と体をここに留めてくれた。私はゆっくりと息を吐く。
「──ねぇ、あなたの名前を聞いてもいい?」
私の掠れた声は彼の鼓膜をしっかりと揺らせた。それが分かったのは私の質問を聞いた彼の目が点になっていたからだ。
驚く彼の表情はやっぱり神田のものと似ている。
「……名前?」
発せられた言葉とともに彼の喉の奥がぐにゃっと動くのが見えた。その光景を目に入れた私は視線を彼の瞳に移す。
「そう。名前。神田さんの弟で、元3番だっけ?」
「……どういう意味かな?」
「名前は無いの? 『神田の弟』じゃ長いし、『元3番』っていうのもさぁ……。私だって元3番だし」
そう言いながら私は視線を逸らす。しかし、その行為は襲いかかる彼に圧倒されたからではなく、『元3番』という同じ称号を持つ彼に気まずさを覚えたからで、それを改めて口にした私が気恥ずかしさを感じたからだった。
「そんなことをいま気にしている場合なのか?」
視線を逸らした私に気付いた神田の弟は、なぜ私が視線を逸らしたのかという理由にも気付いたようだった。
「名前のこと? それとも元3番のこと?」
質問を辞めない私に彼は眉をひそめる。
「……どっちだっていい」
呆れたように呟く彼は、その口調とは裏腹に私の腕を掴む力をより一層強くしていった。
「うっ、……で、どうなの? ……名前は、……あるの?」
吐き気を催し、思わず呻き声が漏れてしまったが、私は平静を装い、彼への質問を続けた。
「……名前は、ない」
執拗に尋ねる私に観念したのか、彼はその大きすぎる口をもごもごと動かし答えた。
「そう。なんで?」
私は彼の腕力に顔をしかめながら平然と偽り尋ねる。
「……普通お前らみたいに名前があるほうが珍しいだろうに」
「そう? ……可哀そうに」
私は嘲笑う。しかし、彼は副社長と違って私の挑発には乗らなかった。
「可哀そう? じゃ、名前のある君は可哀そうじゃない、のか?」
「え?」
思いもよらぬ彼の言葉が耳に入ってきた私は、その問いを自動的に脳内で文字におこしてしまう。
私は、可哀そうじゃ、ない?
彼の言葉を反芻するも、その問いの答えがすらっと口に出来るほど、私は自分が可哀そうな人間なのか、それとも可哀そうな人間ではないのか、考えたこともなかった。
言葉が詰まる。というよりも、言葉が詰まるほど湧き上がってくることもなく、彼の問いだけが巡るばかりだった。
余計な思考に支配される前にどうにかしなければと考えた私は、頭のなかで収集の利かない彼の問いを打ち消すべく口を開いた。
「だったら私が名前が付けてあげようか?」
私の言葉に彼は表情を止めた。きっと頭の中で疑問符を浮かべているのかもしれない。
「名前。あなたの。……私が付けてあげる」
彼の瞳に映る私の顔は見るからに引き攣っていた。そんな私を鼻で笑うかのように神田の弟は目を細める。
「面白い。──が、くだらない」
止まっていた彼の表情が動き出し、私を嘲笑う。
「何? 嬉しくて笑ってんの?」
私は引き攣った顔を何とかして笑顔に切り替える。まるで壊れたブリキの人形のように、気ごちない私の笑顔が表れる。
しかし、神田の弟はそれに見向きもせず、強がって的外れな会話をする私のことを子供の話に付き合う親のような顔で眺めていた。
そんな彼の柔和な顔が、神田のいつもの表情と重なったのはいうまでもない。そして、反射的に神田に似た彼の表情を目に入れた私は、自分の心拍のテンポが下降していることに気付く。
なぜ心拍が下降しているのか疑問に思った私だったが、その答えは目の前にあった。
受け入れたくはないが、きっと私の目は彼の表情を神田のモノと勘違いしたのだろう。そして視界から得た情報により、私の脳は彼を神田が近くにいると認識し、私の体に安心感という産物を生み出したに違いない。だから私の心拍のテンポが下降していったのだろう。
体は正直だと言うが、この事実は私にとって腹立たしかった。
なにより私の目が、目の前の神田の弟を神田として勘違いをしていまった事が恥ずかしかったし、神田がいる事で安心感をもたらしている事実も気に食わない。
私はG.O.を抜け、伯父さんと二人で殺し屋をやってきた。G.O.に囚われず、私は自分自身の生き方を選んで歩んでいた自信があったし、なによりも自由でいられたと感じていた。だが、実際、G.O.を抜けた後でも、私の心中では神田という存在が安心感と結びついていたということになる。頼りになる存在として、今もなお、私の心の中に神田の姿があった。
今までの私を、というよりも、G.O.を抜けてから念願の自由を手にし、それを謳歌していた自分を否定されたように感じる。
私と伯父さんで築き上げてきた物が、目の前の神田もどきの人物の表情によってあっけなく壊され、ガラガラと音を立て落ちていった。
気付けば、私は近付く彼の顔に唾を吐きかけていた。
私の自由を奪ったといっても過言ではない彼に対し、拒絶よりも腹立たしさが勝ったことに、案外私も人間らしくなったのだなと気付かされ、さらには恥ずかしくなり視線を逸らし眉をしかめる。
血混じりの私の唾液はいくつもの水滴に分散しながら彼の顔に噴射された。
神田の弟はすぐさま目を閉じる。そして顔に他人の唾を吹きかけられるというパーソナルスペースのパの字もない行為が気に障ったのか、彼はゆっくりと溜め息をついた後で顔を背けた。
一方私はというと、他人に唾を吐くという行為をし、罪悪感に駆られなかったかと問われれば、そうだとは答えることができなかった。
神田の表情に似ていると勘違いしたのは自分のせいで、完全な八つ当たりだと反省しているからだろうか。
しかし、大前提として彼は私を殺そうとしているという事実がある。それを免罪符だと考えても、殺されかかってまでも彼の尊厳を保持しなくてはと考えている自分が不思議に思えた。
しかし、いつまでもそんなことを考えている時間は私にはなかった。
私の背徳的な行為に顔を背けた神田の弟のハウリングが一瞬揺らいだ。
私は、目をつぶりながら自分の額を思い切り、右に背けた彼の横顔に向かって突撃させた。
それは一瞬の好機を逃すまいという思いから起こした行動というよりも、唾を吐くという背徳的な行為をしてしまった手前、至近距離でいる彼の視線に耐えることができず攻撃的な行動に出ることで、物理的な距離、そして心理的な距離の二つを遠ざけるためであった。
私の額が彼の顎にぶつかる。
鈍い音は私と、そしておそらく彼の頭蓋骨の中で響き渡ったであろう。
頭突きをすると覚悟していた私は脳震盪を起こすことはなかったが、彼の顎の浮き出た骨は異常に硬く、私の頭蓋骨が割れたんじゃないだろうかと疑うほどだった。しかし、よく考えれば彼の強靭な牙を支える顎が通常の人間と同じ硬さなわけはなかったと気付く。だが、それに気付いたのは、彼が頭突きでよろめいた隙に、私が馬乗りになった彼を両足で蹴飛ばし、吹き飛んだ彼が空中で受け身をとる姿勢になったのを目に入れた瞬間であった。
彼は空中で態勢を変えるのと同時に、口元に手を当て、再び口腔内で成長させた牙を手に取っていた。
その姿を目にした私の耳を高鳴った彼のハウリングが劈く。
私はその場から起き上がろうとする。だが、体が思うように動かない。
空中で放たれた無数の牙が私に降り注いでくるのが見えた。それは高鳴るハウリングとともにスローモーションのように見えた。
「麻酔が……」
切れたのか?
このタイミングで? 私は自分の不運に眉をしかめ、歯を食いしばったその時だった。
轟音を立てながら、それは私の目の前を一瞬で通り過ぎた。
神田の弟が放った牙は通り過ぎたそれによって、弾かれ天井や床に突き刺さった。
「っ、7番!」
叫んだ私の声をかき消すように、7番は壁に突撃し凄まじい音を立て、高速回転を止めた。
地面に着地した神田の弟は、自身の牙が弾かれたことすら気にも留めず私へ飛び掛かってくる。
まるで餌を追い求める獣のような姿を目に入れた私だったが、なんの抵抗も出来ずにただ彼の餌になる運命を受け入れるしかなかった。しかし、私の耳は7番が大きく息を吸う音を感じ取っていた。
そして次の瞬間、襲い掛かってくる神田の弟の真横から高速で回転する何かが迫ってきていた。それが7番の斧だと私が把握できたのは、神田の弟がそれを避け、壁に突き刺さった様子を目に入れたからだった。
神田の弟は斧が投げられた方へ注意を向ける。すると7番は地面を踏み込んでいた。そして勢いよく地面を蹴り上げ、神田の弟の方へ飛び込む。
神田の弟は7番の姿を目に入れ警戒を強める。口に手を当てた彼は口腔内から鋭く尖った巨大な牙を一本手に取り、その拳の中で握った。
「7番!」
その様子を伝えようと私は声を上げる。だが一度飛び掛かった彼女は自分の勢いを止められることはなかった。
飛び掛かってくる彼女の体を神田の弟はすんなり避けてしまう。
地面に衝突した彼女は轟音と共に地面を叩き割った。そのせいで煙が舞う。だが、煙の中でも彼女の横についた神田の弟は手にしていた牙を突き刺すように大きく腕を振りかぶる様子が分かった。その時だった。
高速で回転する何かが神田の弟の脇腹を襲った。神田の弟はその衝撃に耐えることが出来ず、吹き飛ばされ地面に倒れこむ。
私は一瞬の出来事に唖然としていた。
地面に倒れた彼の脇腹には7番の斧が突き刺さっているのが見えた。
「斧?」
気づくと私は、目に入ってきたものをそのまま口に出していた。
「マ? 上手くいったわ」
息の多い彼女の声がし、徐々に煙が落ち着き彼女の姿が露になる。
「やっぱ、斧しか勝たんね」
そういう7番の顔は少し誇らしそうだった。
一方、状況の読めない私は目を丸くしたまま彼女の姿を眺めていた。
「……何、したの?」
私は彼女に尋ねる。すると7番は私に向け右手でピースマークを作った。
その意味が分からなかった私は、彼女と同じようにピースマークを作り彼女へ返す。しかし、私のピースマークは彼女のものよりも、指がだらしなく曲がっていてやけに不格好であり、そんな私のピースマークを目に入れた7番はぷっ、と噴き出した。
「いやほら、私の斧って二つあるっしょ? 一本を投げて、次にもう一本投げたの。で、そのあとに二本目の斧を追い越すスピードで私がこいつに飛び掛かったってわけ。そしたら、私の後ろから斧が飛んできて、あら不思議! っていう作戦なんだけど、やけくそでやってみたら思いのほか上手くいったよね。草生えるわ」
「……はぁ」
彼女の言っている意味が半分ほどしか理解できなかったのは、私の理解力が乏しいからではなく、きっと瀕死の状態であり頭が回っていないからだと思い込むことにし、体を起こそうと両手を地面につける。
すると7番は起きようとする私に手を差し出した。
彼女が差し出した手の意味が分からない私の耳たぶを、少しひんやりとした風音が触れる。
この世はこんなにも静かだったのかと気づいた私はハウリングの全くしないこの空間に気を取られ、彼女の手をただじっと眺めていた。
「何してんの? ほら早く」
彼女は急かす様に荒々しく私の腕を掴んだ。そして私の体をぐいっと持ち上げる。自分の体があまりにもすんなりと女子高生に持ち上げられたことにほんの少しショックを受けた私は、その後で、彼女が差し出した手が私を起こそうとして出した手だったと気付く。
7番に無理やり起こされた際にそれほど痛みを感じなかったのは、まだわずかに麻酔が効いている証拠であった。しかし、ふと自分の体を見下ろせば、至る所に生々しい傷跡が見えており、いまなおその無数の傷口から血液が滴っているのが分かった。
それを目に入れた瞬間に全身の力が抜ける感覚に陥る。神田の弟の戦闘で十分に溢れていたアドレナリンが一気に引いていくのが分かった。さすがに痛々しさまで麻痺させてくれるほどG.O.の麻酔薬は万能ではなかったなと私は思い出す。
嵐が過ぎ去ったような静けさの中で、私の耳の中では神田の弟のハウリングが残響していた。
そしてそんな私の体を、高速回転で斧を振り回し辺り一帯を粉々にしていく、まさに嵐のような7番が抱きかかえる。過ぎ去った嵐は温帯低気圧となってどこかへ消えたのではなく、私の体に密着し、支えてくれていた。
埃っぽさの中に、ふんわりとした甘い匂いが鼻腔をくすぐった。それは果実の甘さとは少し違う、生クリームで出来たお菓子のような軽い甘さだった。
私は7番の匂いを逃さないようにゆっくりと鼻で息を吸い、呼吸を止めた。しかし、その瞬間に私の鼻は彼女の匂いを感じなくなってしまう。その時、私はむかし神田から言われた言葉を思い出した。
「──匂いが消えたんじゃなくて、お前の鼻が匂いに慣れて感じ取れなくなっただけだ」
甘い匂いに慣れた私の鼻は、次に、周囲の埃臭さと血液の匂いを認識し、あっという間に現実に引き戻された。
すると7番が私の顔を覗き込んでくる。
「うわ……。ヤバいよ、血」
彼女の息の多い声色がよりいっそう吐息がかったように聞こえた。
「血?」
出血ぐらい、なにを今更……と思った私だったが何かが自分の鼻の横を伝ったのを感じたと同時に、その伝った道筋が乾いてひんやりとした感触を味わう。
不思議な感覚だったが、瞬時にどこかで感じたことのあるものだと私は思った。そして、その伝った道筋を指で擦った瞬間、私は既視感の正体に気付いた。
指に触れたのは血液だった。そして既視感の正体は鼻血だったことに気付く。意図しない形の血液の滴りは、不快でありながらも驚きと疑問が浮かぶ、鼻血のそれに全く似ていた。
私は顔に伝う血液の出処に検討をつけ、手を伸ばす。すると、私の丁度額辺りに手のひらが差し掛かったところで、私の手は異物に触れる。
私はその異物に対してその形を確かめるように優しく触れた。
触れるたびに、指だけでなく、手のひらにまでもべっとりとした液体が付着しているのが、文字通り手に取るように分かる。
しかし、その異物が何なのかは瞬時に理解できなかった。だが、手で触れて確かに感じられたことといえば、手についた物は私の血液であるということと、その異物は私の額にぐっさり突き刺さっているということだけだった。
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