30「目玉焼き」

 リビングのテーブルにつくとそこには目玉焼きとベーコンが3、4枚用意された大皿と、食パンが1枚並べられていた。

 すでに温かい白米の虜になっていた私は出された食事に落胆した。あの温かい白米が私を呼んでいると思っていたのに、とわざわざベッドから降りリビングに向かった体力を返してほしい気分になった。

 しかし良く見ると目玉焼きとベーコンからは小さな煙が立っており、食パンは茶色くなって香ばしい匂いを発していた。その食べ物から出る小さな煙が湯気で、食パンの茶色くなった部分が焦げ目であることは当時の私は知らなかった。

 当時の私が知っている洋風の朝食と少し趣が異なるこの食事に興味が湧き始めた私は、食パンを手に取る。

 一口齧ると食パンの表面だけが硬く中身がとても柔らかいことに驚いた。目を丸くし唖然とする私に、母は「パン、嫌いだった?」と投げかける。

 私にその質問に答えている暇は与えられていなかった。口にした食パンは香ばしい硬い部分とほんのり温かい柔らかな中身のコントラストを描き、心地の良い音を立て徐々に口の中で柔らかくなってくる。食パンの表面にしみ込んだバターが鼻腔をくすぐる。バターというものは知っていたが、こんなにも食パンに溶け込むものなのかと驚愕していた。

 食パンの香ばしい匂いはバターの濃厚な甘さと混ざり、私の胃の中に入っても匂ってくるようで何度口にしても手が止まらなかった。正しくは咀嚼する口が止まらなかった。

「G.O.」で出されていた食パンは冷え切っており、耳が古くなったゴムのように硬い。噛み切るのに時間がかかる時もある。くちゃくちゃと音を立てなければ咀嚼できない「それ」を、今の私は食パンとは呼ばないだろう。


 次に目玉焼きに手をつける。

 きらりと光りを反射させる黄色い物体は、まるで表面張力でその丸みを保っているかのように感じた。私はそれにフォークを突きつけた。

 突きつけたフォークには何の感触もなかった。まるで風船を割った瞬間のわずかな破裂が黄身が保っていた表面張力をすぐさま崩壊させたからだ。破れた黄身からは黄色の液体が漏れ出す。それが白身に溢れていく。その光景は当時の私にとっては衝撃的だった。

「G.O.」でも目玉焼きは出るが、こんなにも柔らかく儚い食べ物だと初めて知った。当時私の知っている目玉焼きの卵は冷え切った固ゆで状態だった。固く冷え切った目玉焼きは、彩りや飾りとしての役割だけを担っているような風貌で、壁に叩きつければその形状を保ったまま壁に張り付くのではないかと思えるほどだった。だから私は昔から目玉焼きが嫌いだった。黄身はぱさぱさしているし、白身はなんの味もないただのゼラチンのような「G.O.」の目玉焼きが嫌いだった。

 しかしこの時を境に、私は目玉焼きが好物になった。

 こんなにも視覚的に高揚する食べ物は初めてだった。さらに口に入れれば、その黄色い液体は唇や歯に絡みつき、舌の上で濃厚さを主張する。そしてもちろんその液体も温かい。フォークに滴り皿に落ちようとする残りの液体でさえも水のようにうまく流れない。その様子を捉えた私は逃すまいかとフォークを舐める。

 さらに食べ進めていくと口腔内でぷりぷりの白身と絡みつく黄味が絶妙なバランスを保っていく。

 私はベーコンをフォークで刺し、白身の上で溢れた黄身を掬い、口に運ぶ。

 まず驚いたのはベーコンがこんなにも柔らかいことだった。温かいのはもちろん、肉類がこんなに柔らかく食べやすいものだと当時の私は思ってもいなかった。ベーコンを咀嚼しようとすると自然に顎にちょうどいい力が入る。その度に唾液が分泌されるのが手に取るように分かる。

「G.O.」では、ベーコンを始めとする肉類はゴムのように硬く冷えた脂身がギトギトしていた。それが当たり前だと認識していた当時の私は、佐藤家で出された、ほどよい噛み心地のベーコンに文字通り、垂涎したままだった。


 外の世界の食事を知った私はもう「G.O.」の食事には戻れないと自覚していた。

 同時に任務で佐藤家と家族になったと勘違いしていた私は、当分この食事にありつけるんだと思うと純粋に嬉しくなった。

 まだ私の知らない食事が出てくるのだろうか。私の知っている「G.O.」の食事を覆してくれるものはまだたくさんあるのだろうか。次の食事はいつだろうか。明日の朝もこの目玉焼きとベーコンと食パンが出てくるのだろうか。白米でもいいなと思う。

 当時の私は明日が楽しみになっていた。その時に初めて「未来に希望を持っていた」のだが、そのことに気付いたのは大人になってからだった。


 朝食をすました私はリビングにかけてある時計に目をやった。時刻は11時45分を指していた。この時から私の朝食の時間は、一般的な朝食の時間よりも遅い時間に定義された。

 カーテンが揺れ光を波打たせ、そのしぶきが壁にかかっている時計に反射していた。陽光なんてものを感じたことのない私は昼前の太陽がこんな眩しいのかと知った。私は時計から目を離せなくなっていた。

 すると私の姿を見た母が口を開く。

「あ! そうだ。礼央の部屋、時計無かったわよね?」

 私はその声に驚き、母の顔を見る。

「うん」

 私は今、この人の娘として軽い返事が出来ただろうか。口を開くことなく発した二文字は光が波打つリビングのテーブルに落ちているようだった。

「じゃあ、買いに行こっか」

 母は私の目線に合わせるようにしゃがみ微笑む。こんな風に目線を合わせてくれる大人は私にとって二人目の人物だったので、どういう顔をしていいのか分からず視線を逸らしてしまった。

 見上げた時よりも距離が近い分、母の視線が痛く感じた。今まで、大人と話す時は見上げることがほとんどだったため、首が痛くなることが当たり前だった。テーブルに座って視線を逸らす私の痛みの無い首の感覚を、母の視線の痛さが紛らわせたような気がした。


 佐藤家のリビングのテーブルに座った私は、母の痛い視線から目を逸らした先でリビングのテーブルに落ちる揺らめく日の光を目に入れた。瞳の奥に届いた光は私の脳をほんのり温めたような気がした。そして私は、昨晩から感じた色んな「あたたかさ」を思い返す。白米の温かさ、床の暖かさ、カーテンの隙間から指す陽光の暖かさ、食パンと目玉焼き、ベーコンの温かさ、そしてテーブルに落ちる光の暖かさ。

 外の世界はこんなにもあたたかいのだと「G.O.」で同じ部屋に住んでいた紫仁に教えたくなる。

 私は目の前にいる母の痛い視線に耐えかね、母と視線を合わせた。

 ノイズやハウリングが聞こえないのは昨日と同じだ。そして視線を逸らしていた時に感じた母の視線の痛みは、目を合わせるとさっきまでの痛さが嘘のように、ふっと消えたように感じた。

 母は唖然とする私を不思議そうに見ていた。その瞳は昨日よりも綺麗に見えた。日の光が出ているからだろうか。その瞳に反射した陽光が私の瞳の奥に届いたような気がした。私の脳が先ほどと同じく温かさを感じる。それはテーブルに落ちた光から感じる暖かさよりも心地の良いものだった。そして何より母の瞳に反射する光の温かさは私の脳に届いたような気がしたのではなく確実に届いた。それは今思い返してもそうだったと自信を持って断言出来る。

 そして私はこの日以降も色んな種類の「あたたかさ」を感じることとなった。


 私の知らない速度で成長していた礼奈はすぐにリビングに降りてきた。保育器に入れられた生まれたばかりの礼奈を見た時のことを思い出した。一糸纏わない姿の彼女は「私、ここに見参!」といった具合でしきりに両手足を動かしていた。今では食事に降りてくるのにも一苦労なほど彼女の足は微動だにしない。

 そんな礼奈がすぐにリビングに降りてきたことに私は驚く。

「……今日は雪が降る」

 誰に言ったつもりでもなかったが、キッチンにいる母は吹き出したのを私の耳は感じ取った。さすがにこの距離で私の呟いた言葉は母には聞こえていないはずだと思い不思議に思った私はキッチンに目をやる。

 キッチンからリビングに戻ってきた母と目が合う。母は微笑みを私に送った。その瞳は初めて佐藤家にきた私に向けられたものとなんの遜色もない笑みだった。そして相変わらずその瞳は綺麗なままだった。

「私、耳がいいから聞こえるのよ」と母が私に自慢げに言う。

 何を言ってるんだかと私は鼻で笑った。私の耳の良さに比べれば一般人の聴覚の良さなど取るに足りない。私の耳の良さをひけらかし自慢げな母の鼻を折ってやろうかと思ったが、「礼央、すごいわね!」とテンションの上がる面倒くさい母の姿が目に浮かび、やめた。

 それに私が異常に耳がいいことも、その特技を使って殺し屋をしていることも母は知らない。5歳だった私がこの世界のあたたかさを知らないように、この世界の人間は「G.O.」の世界の冷たさを知らない。

 あたたかさは徐々に温度を失い、自然に冷たくなる。しかし冷たいものをいくら放置していても自然に温かくなることはない。あたたかさしか知らない者は冷たさを予想できるが、冷たさしか知らない者があたたかさを想像することは難儀だ。5歳からそれを私は知っている。

 食事が出されたテーブルには日の光が差し込んでいた。

「天気、いいわね」

 祖母が呟く。初めて会った時もリビングのテーブルの同じ場所に座っていた祖母は昔と同じく姿勢が良いままだ。その姿を見ているといつでも私は5歳児に戻れる気がしていた。

 食事を出す母を礼奈が手伝う。私も手伝おうとしたが「スーツが汚れるから止めなさい」と注意された。大人しくテーブルに着いた私は壁にかかった時計を見る。

 あの時と変わらないまま秒針を進める時計は、いつか神様が憑くのではないかと思うほど年季が入っていた。私はあの時計が止まったところを見たことがない。

 おそらく私が知らない間に電池が切れ秒針は立ち止まり、それに気付いた母や祖母が父や兄に伝え、父か兄が電池を入れ替え、秒針の背中を押し再び歩くように促しているのだろう。私がその光景を見たことは一度もなかった。あまり家にいないからだろうか。それともスマホが普及した世の中に染まった私が壁掛け時計を見ることが少なくなったからだろうか。どちらにせよ、あの日私を迎え入れてくれた時計が立ち止まっているのを見たことはないし、そもそも見たいとは思わなかった。それは、秒針が止まっているのを見た私が、あの時計が買い替えられ捨てられると同時に、私もいつかここから追い出されてしまうのではないかと思ってしまう気がしたからだ。

 一緒に頑張ろうな、と言葉を投げかける私に対して知らん顔の時計は秒針の歩みを止めず、12時34分の時刻を指していた。

 

 私の予想は的中したのか、もしくは礼奈の機嫌が起こした奇跡なのかは分からないが、夕方になると寒さと勢いを増した夕下風ゆうしたかぜみぞれを運んできた。

 夕方頃に伯父さんのマンションに向かおうとした私だったが、思わぬ悪天候に出鼻を挫かれてしまった。

 伯父さんに連絡しようとし、充電の終わった自分のスマホを取り出すと、すでに伯父さんから不在着信と留守電メッセージが入っていることに気付く。日付は今日の朝だった。留守電メッセージを使うところから、メールもLINEもする気のない伯父さんに多少の面倒くささを感じる。

 留守電メッセージを聞くと「留守電を聞いたら返事をくれ」とだけ残してあった。伯父さんの声を久しぶりに聞いた私だったが、懐かしさよりも留守電メッセージに対する苛立ちの方が勝った。

 そもそも留守電とは相手が電話に出られない時に何かの要件を吹き込んでおくものだろう。すぐに電話に出られない相手が、後で時間が出来た時に、着信相手からの電話の内容を把握するためのツールだろう。それなのに留守電に「返事をくれ」とはなんと非効率な要件だろうか。

 まず不在着信が残っている時点でかけ直すのは目に見えているだろう。それなのにわざわざ留守電のメッセージを聞く無駄な時間を設けてまで「返事をくれ」と連絡を急がす催促をするなんて本末転倒ではないか。この留守電を聞く時間があったらもっと早くに掛け直せていたのに。

 私は伯父さんのその非効率な文明の利器の使い方に苛立っていた。しかし、逆に言えばそれだけ大事な要件なのかも知れない。一旦苛立ちを部屋の隅に追いやった私は伯父さんに電話をかける。

「──もしもし」

 三度目のコールで伯父さんは出た。

「もしもし、私だけど」

「あぁ、知ってる。昔と違って携帯電話には登録した名前が出るからな。知らなかったのか」

 伯父さんは小馬鹿にするように言った後でぷっと吹き出した。唾が受話器から飛んでくる気がした。

 全く。このおっさんときたら。

 この世の中には電話だけじゃない連絡手段が山ほどあるし、留守電にかけ直しの催促をするなんて非常に効率が悪いってことを知らないの? と返してやろうと思ったが、ノイズのしない伯父さんの声から能天気さを感じ取った私は呆れかえってやめた。

 伯父さんの声からするとそこまで重大なことではなさそうだし、時間に追われているような様子も感じ取れない。なら、なぜ無駄な時間を消費してまで連絡を催促したのか謎と苛立ちは深まるばかりだった。

「要件って何?」

「あ? いや特にない」

 あっけらかんとした表情が電話越しでも分かった。

「は? じゃあなんで留守電なんか入れたの?」

 棘で出来た私の言葉にも伯父さんは能天気なままだった。

「いいだろ別に。最愛の姪っ子の声が聞きたくて何が悪い?」

 姪っ子と言う気持ちの悪い言い方に耳鳴りがしたように感じた。

「──あ、あと収穫があった」

「収穫?」

「お前が副社長の側近を始末しただろ? それでシンからの請求が来てな。請求書と一緒に面白いことを教えてくれた」

 伯父さんの声は先ほどのあっけらかんとした表情から一変し、何かこれから楽しいことが待ち構えているような子供のあどけなさを孕んでいた。

「シンさんが?」

「いや、神田が請求書を持ってきたんだよ。で、神田が言ってたんだけどな。どうやら副社長はお前を嫌ってるらしい」

「そう」

「あ? 驚かないのか?」

 驚かないのも無理はない。副社長が私に好意を持っていないのは先日の傭兵との戦闘と明太の話から考えて安易に想像がついている。しかし分からないのはその理由だった。

明太めんたから聞いた。私が倒れた後『G.O.』が来たのは副社長の命令だって。それだったら傭兵の二人が私を襲った理由もなんとなく分かってくるでしょ。副社長が私の始末を依頼して私を始末できたか確認するために『G.O.』を呼んだんじゃないの?」

「あぁ、俺もそう踏んでる。で、そこから新しい情報だ」

「新しい情報?」

「そう、神田からのな。多分これが副社長がお前を嫌ってる理由だ」

 さすが「G.O.」のトップだ。これだけあっけなく私が考えつかなかったことをあっさりと解決に導くとは。しかしこんなに有力な情報だったり私を助けてくれるのにも関わらず、神田を力強い味方だと思えないのはなぜだろうか。脳裏には神田の分厚いお面を被ったようなわざとらしい微笑みが浮かんだ。

「神田によると、奴の弟と副社長が本社から居なくなったらしい。俺達が神田の始末依頼を受けたあの時以来、副社長と秘書の姿が見えなくなってるんだと。奴は副社長の秘書だからな。きっと副社長が自分の秘書に神田の始末を依頼したと本社は思ってるし、おそらくそうだと俺も思う」

 神田の始末をともに協力した神田の弟が、副社長の依頼を受け神田を始末しようとしたとこも大体想像がついている。それで「働こGO」が副社長を警戒しているのも分かる。

「うん、だろうね」

「で、あれは結局失敗したろ? 俺らも含めて」

「うん」

「それを副社長はよく思っていないみたいだ。あの時、神田だけじゃなくお前も1番も、挙げ句の果てにはシンまであそこに居ただろ? 副社長はその想定外の面子があの場に居たことに相当眉をひそめたみたいだな。自分の秘書が神田に歯向かえば、いくら兄弟喧嘩だったとしても副社長が会社に怪しまれるのは目に見えているしな」

「神田の始末に邪魔が入ったからってこと? でもそれが私となんの関係が? 1番とシンに邪魔されたのは私達も同じだけど」

「まぁ、俺らからすればそうだ。けど副社長からしたら違う」

「どういうこと?」

「副社長目線で考えるとだな。神田を始末しようとしたら先客がいた、で、その先客は神田と深く関係のある人物だった。この時点で副社長が俺達を怪しむ余地は十分にある。もし俺らが依頼に全うに従っていたとしてもな。きっと副社長は俺達が神田を守るために神田を狙ったと考えてるんだろう」

「神田さんを守るために狙う? どういうこと? あの秘書の邪魔はしてないけど」

「……俺らは殺し屋だ。フリーランスの。副社長の側近と違って傭兵じゃない。つまり俺らには誰かの始末を依頼できても誰かを護衛する依頼は出来ない」

「……つまり表向きには神田さんの始末をしていると見せかけて護衛をしていたって思ってるってこと?」

「まぁそう考えてもおかしくはないだろう。実際俺らは神田との関わりは深いしな」

「……ちょっと待って。そもそも私達が受けた神田さんの始末依頼は誰からだったの?」

「細かいことは言えないが、あれは自衛組織みたいな連中からの依頼だ。『働こGO』の活動を知って、反社会的だと主張している組織があってな。そこからの依頼だった。神田からの依頼でもないし、『働こGO』からの依頼でもない。全部、副社長の絵空事なんだけどな」

 自衛組織? そんな組織と伯父さんが繋がっているなんてこれっぽちも知らなかった。殺し屋を反社会的だというならなぜ私達殺し屋に依頼したのか謎だが、これ以上深く探ることは話の本筋から逸れてしまう気がしてやめた。

「ということはつまり、副社長の勘違いで私は狙われてるってこと?」

「そういうことだ。それに神田の話によるとさっき『G.O.』の殺し屋が殺された。しかも『G.O.』の居住スペース内で」

 その言葉に私は一抹の不安を抱く。『G.O.』の殺し屋が殺されるのは滅多にないことだがありえないことじゃない。しかしそれは業務中に返り討ちに始末されてしまうことが大半で『G.O.』の施設内で起こることはありえないはずだった。

 おそらく副社長の部下や関係のある殺し屋の仕業であることは安易に想像出来る。しかし問題はそこからだ。

 誰が殺されたかと言うこと。

『G.O.』の施設内で同僚を殺すなんてリスクしかないことをやってのけたということは相当な覚悟か、もしくはよほど切迫した状況にあったと考える。副社長にとって現在邪魔な殺し屋は誰だ?副社長が今すぐに殺してメリットのある人物は誰だ?

 一人思い当たる人物がいた。

 私を狙っている副社長が今すぐにでも始末したい相手、それは紫仁しにだ。

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