第6話

「あ、紗夜ちゃん。それはこっちに持ってきて欲しいな。」


「あ、分かった。」


 日々は過ぎていって、今日は新入生の歓迎会の前日。あれから私は木下さんと共に準備をしていた。今は体育館を様々な装飾で飾り付けをしていた。新しい友達が出来て、今までより少し豊かな生活になったと感じて、心に安心感が満たされていた。


「紗夜ちゃーん? それもっと上だよー。」


「え? あ、そっか。」


 そう言いながら背筋をつんと伸ばして、お花紙を貼り付けていく。


「ふー。まあ、このくらいで大丈夫かな?」


「そうだね……。他の所も終わったみたい。」


 小休憩を挟んでいると、広い体育館からこだまする音が聞こえてきた。担任教師が来た。


「お疲れ、おお、凄いな。」


「ありがとうございます、先生。」


「いやー、木下も宮下もよく頑張ってるよ。」


 担任教師は私たちを見て有り難そうな顔をしていた。


「じゃあ、教室でみんないるから。早く戻って来なさい。」


 そう言うと担任教師は体育館を後にした。


「じゃあ戻ろっか。木下さん。」


「あ、その前に飲み物買いにいかない? 自動販売機。」


「あー、いいよ。」


「……うん。」


 休み時間ではなかったので、自動販売機の周りには誰もいなかった。


「紗夜ちゃん何飲む?」


「お茶が欲しい。」


「お茶? 炭酸とか飲まないの?」


「いや、私炭酸苦手だから……。」


「えーそうなんだ。でも、炭酸美味しいよ?」


「何か喉にいがいがを感じない? あれが無理で……。」


「あー、確かにね。何か意外だった、炭酸嫌いって。」


 そんな会話をしながらお金を入れて、お茶のボタンを押した。がらんころん。私は取り出し口からお茶を取り出そうとした。


「まあ……、私は紗夜ちゃんの事、好きだけどね。」


 一瞬、手が止まった。


「うん、私も好きだよ。木下さん。」


「いや、そういうのじゃなくて。」


「え?」


「……。人……、として。好きだよ。」


「……え?」


 突然の告白に耳を疑った。感じたことのない感触が身体中をうずめいた。ゆっくりと木下さんを見ると、真剣な目をしながら、こちらを見ないように俯いていた。ほんの少し、頬が赤らめていた。何よりタイミングが突然過ぎて、頭がこんがらがった。


「え、で、でも……、私たち女の子だよ……? 少し疲れてるんじゃない……?」


「……。ごめんなさい……。」


 そう言うと木下さんは走り出していってしまった。


「あっ、ちょっと待って!」


 追いかけようとしたけど、追いかけられなかった。彼女のちらっと見えた表情は、酷く、怯えた顔をしていた。その彼女を追うことが、私には出来なかった。教室に後から来たあと、木下さんは私に見向きもしようとせず、逃げるように帰ってしまった。私も彼女に話しかけられず、ただただ時間が過ぎていった。

 

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