第5話

 湖畔での蛙となってしまった王子の熱いプロポーズをいとも容易く王女は弾いた。王女の手に乗った蛙のひんやりとした触感が、白い手袋から伝わり、思わず投げ飛ばして、一言。

「蛙は醜いままでいいのよ。」

 そう言った王女の瞳は酷く冷たく、まるで、腐った魚のようだった。蛙は衝撃を受けながらも、王女を追いかけようとしたが、王女の歩幅は速く、風のように去っていってしまった。王子は暫くしてから決心した。「王女と結ばれない世界などいたくない。」そうして、冷たい水に潜り込んだ。けれども、当たり前のようにエラ呼吸で死ぬ事が出来ない。息を止めても、苦しみが満たされると息が漏れる。蛙は死にきれなかった。蛙は堪らずもう一つ漏らした。

「ああ、孤独な私をどうか殺してくれ。」

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 スタッフロールが流れる中、右隣に座っている木下さんはどこか落ち着いたような顔つきでスクリーンを眺めていた。あの、雨中の本屋で出くわした彼女のように、何かいつもの木下さんではないような、さっきみたいに太陽と形容するのが不思議なような感覚を感じた。自分は人をこういう人だとか評価するのが向いてないんだろう。そう割り切って、私もスタッフロール眺めた。一つ一つを見ると知らない名前がずらっと並んでいるけれど、ぼおっと眺めるとそれはそれは曖昧な白がただ滝のように流れていくようで、人生を形容してるように見えた。


「よかったね。」

 映画館を出て、そこそこの時間が経過してから、木下さんは話しかけてきた。「私ある程度落ち着かないと話したくない主義だからさ。」そう言う彼女の目はまたキラキラと輝いたように見えた。

「うん、面白かった。クライマックスが一番好きだった。」

「結局、人間ってなんか嫌な生き物だなって思うの。同族嫌悪じゃないけど、こんなに愚かになんだなって。本性って言うのかな。」

「なるほどね。私そう言う言語化?苦手だから紗夜ちゃん凄いと思う。うん。」

「うん……。」

「難しい話よく分からないからいいや。ねえねえ、甘いもの食べない?ケーキとか。」

「甘いもの? いいけど。」

「ほんとー? じゃあさ、タピオカミルクティー飲も。美味しいよ。」

 そう言って、連れていかれた店はどこもかしこもキラキラしていて、私一人じゃ到底行けないような所ばかりだった。木下さんは慣れた様子で「こっちこっち!」と私を連れ回してくれた。新体験にハードルを感じたけれど、それ以上に新しい事を知れるのは楽しくもあって、なんやかんや楽しく過ごせた。それ以上に、楽しそうに笑う木下さんの姿がとても可愛らしいと思っていた。ただ一つ、あんなに映画を真剣に見ていたように感じたのに、感想の一つもなかったのは違和感というか悲しいというか何だかなあという言葉があった。

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