第4話

 週末の日曜日がやってきた。友達と遊ぶのも滅多にないから、これでいいかと迷いながらも、外向きの服で自分を着飾った。「いってきまーす。」とドアを開けると、熱帯。その日の天気は青く、太陽がうるさいくらい響いていた。空は雲ひとつ見えず、薄い藍色が染まっていた。太陽の光が放射状に広がり、虹のようなベールを作って、私にまで熱波を送り付けてきた。

「ああ、暑い。」

 六月の湿気を帯びた熱波はサウナみたいで、すぐに汗が垂れてきて、ああしんどい、呟いた。

 ロータリーの赤く染められたアスファルトの際がいっそう濃い灰色で染まっている。昨日の雨のせいだろう。日陰に逃げて、冷気を吹きでる入口で待っていると、彼女は現れた。レースのような白いシャツに茶色のベストを重ねて、ピンクのポーチを肩にかけた少女。いつも通りの輝く笑顔を見て、ちょっと詩的に「太陽は二つあるんだ。」と思いついた。

「ごめんねーー。待った? 本当に暑いね。まだ六月だよ? 酷い話だよまったく。」

 少しぼーっと見とれた私は正気に戻って、

「あ、うん。大丈夫待ってないよ。暑いね。うん暑い。」

 と勢いでぎこちなさを乗り切った。木下さんから目線をずらして、ふと遠くを見ると、熱波でバスが揺らめいていた。

「じゃあ、いこっか。紗夜ちゃん。」

 喋ると同時に右腕を出した木下さんを見て、

「え、あ、うん。」

 と左手を出した私。木下さんは躊躇もなく、私の手と自分の手を触れさせて、繋いだ。自分の汗が相手に着いたら申し訳ない、と思う暇もなかった。幸い、手は熱で乾燥していた。

改札を過ぎて、ホームへ行くと、

「紗夜ちゃん、可愛いね。」

と木下さんが呟いた。自分より背の低い木下さんは上目遣いでそうこっちを向いてきて、むずむずとした気持ちになってしまった。

「い、いや、木下さんの方が可愛いよ。私なんか全然だめで……、」

どんどん自虐していると、木下さんは少しずつ笑顔が無くなっていって、

「あ……、木下さん? 大丈夫?」

ちょっと怒ったような顔になってしまった。

「自分のこと、悪く言うのよくないよ? 紗夜ちゃん。」

そう言って頬を膨らませた。

「もう少し前向きに、話してみようよ。その方が楽しいと思うよ?」

人差し指を振りながらそういう彼女は続けて、

「あと、私の事、露ちゃんって呼んで欲しいな。」

と私に話した。

「あ、ごめんなさい……。私あんまりそういうの分からなくて……。」

木下さんはそう聞くとまた笑顔に切り替わった。信号みたいでキリッキリッと変わるのがウサギか何かの小動物らしかった。

「じゃあ、紗夜ちゃんに色々、教えてあげるね。」

そう言う彼女は改めて手を繋いで、「ほら、遅れちゃうよ。映画。」と呟いた。

幸い、手は熱で乾燥していた。

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