第10話

「ち、父上! き、聞いて下さい! ち、違うんです!」


 デュランはなんとか父親に取り入ろうとしたのだが、


「黙れぇ! 言い訳なんぞ聞きたくもないわぁ!」


 激昂した父親は聞く耳を持たず更に殴られた。


「ぐはっ!」


「ハァ...ハァ...貴様にはとことん失望した...結婚すれば少しはマトモになるかと思ってこの屋敷まで与えたが、どうやら全ては無駄だったようだな...」


 父親は息を切らしながらガックリと項垂れた。しばらくして息を整えた後、厳かにこう告げた。


「伯爵家は弟のフィリップに継がせることとし、今日限りで貴様とは縁を切る。勘当だ。もう親でも無ければ子でも無い。この屋敷は売却するから、貴様は荷物を纏めてどこへなりと勝手に行くがいい。分かったな?」


 デュランは顔面蒼白になって元父親に必死に縋った。


「そ、そんな! ま、待って下さい! ち、父上! お、お願いですからそれだけは勘弁して下さい!」


「だから儂を父と呼ぶなぁ!」


 父親は最後にもう一度ステッキを振り上げた。


「ごふっ!」


 その一撃を食らったデュランはとうとう気を失った。



◇◇◇



「ふぁ~...良く寝た~」


 そんな騒ぎが起きていたことなど露ほども気付かなかったアイラは、ポリポリと頭を掻きながら呑気に寝室から出て来た。


 そして何気なく玄関の方を見てギョッとする。そこにはタコ殴り状態になって気を失っているデュランの姿があったからだ。


「えっ!? デュラン!? ど、どうしたのよ!? い、一体なにがあったっていうの!? デュラン! しっかりして!」


 アイラは慌てて駆け寄りデュランを抱き起こす。


「うぅ...痛たたた...」


 呻きながらデュランが目を覚ました。


「デュラン! 大丈夫!? 一体誰にやられたの!?」


「...父親...」


「へっ!?」


 絞り出すようにして答えたデュランの言葉に、アイラは訳が分からず間抜けな声を上げた。


「...サリアに対する仕打ちがバレた...僕は勘当されて無一文になった...」


「えっ!? なになに!? どういうこと!? ちゃんと一から説明してよ!?」


 ショックのあまり、色々と端折ったデュランの説明で理解できる訳がない。アイラはデュランに詳細な説明を促した。


 やがてデュランはポツリポツリと事ここに至った経緯を話し始めた。それを辛抱強く聞いていたアイラは、


「つまりあんたは離婚訴訟を起こされ、その上実家からも勘当され、この家からも追い出されるって訳ね。無一文で」


 そう結論付けてデュランに確認した。


「...あぁ、そうだ...アイラ、僕は」


 どうしたらいい? と続けようとしたデュランを遮るようにアイラは、


「それじゃもうあんたに利用価値は無いわ。さようなら。結構楽しかったわよ」


 そう言い残して去って行った。


 後には呆然としたデュランだけが取り残されていた。


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