第9話

「なるほどなるほど。要するに元婿殿は儂にウソを吐いていたということでよろしいかな?」


 黙り込んでしまったデュランの代わりに、先程から娘に場を譲って沈黙していた男爵がそう切り込んで来た。


「あぅ...そ、それはその...」


「こんの若造がぁ! 舐めた真似しくさりやがってぇ! ウチの娘を泣かすとはふてぇ野郎だ! よっぽど命が要らねぇと見えるな!」


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」


 いきなりガラッと口調を変えドスの効いた声で凄んで来た男爵に、堪らずデュランは恐怖で縮み上がってしまった。


「五体満足でここを出られると思うなよ! おい、てめえら! ちょっと遊んでやれ!」


『へい!』


 男爵の命令の元、デュランの周りを囲んでいた使用人達が一斉にデュランへと踊り掛かる。


「ま、待て! 待ってくれ! ぶひ! ぐあ! げきょ!」


 使用人達にボコボコにされ、無様な悲鳴を上げながら床を這いずり回ったデュランは、


「き、貴様ら! よ、良くも! た、たかが男爵家の分際で伯爵家の僕に対しなんたる暴挙! こ、こんなことが許されていいはずがない! お、覚えていろ! か、必ず後悔させてやるからな!」


 そう言って精一杯の虚勢を張った。


「伯爵家ねぇ。おい、若造。いいことを教えといてやる。ウチの寄親は侯爵家だ。ウチはその侯爵家から主に武の面で頼りにされている。今回の一件、侯爵家に知られたらどうなると思う?」


「そ、そんなまさか...こ、侯爵家...」


 知らなかったらしいデュランは茫然自失となってしまった。


「楽しみに待っていろ。おい、コイツを外に放り出せ!」


『へい!』


 デュランは使用人達に引き摺られ、ボロ雑巾のように屋敷の外へと捨てられた。


「さようなら、元旦那様。次は法廷でお会いしましょう」


 サリアは引き摺られて行くデュランに向かって最後にそう言い放った。



◇◇◇



 男爵家から放り出され、這う這うの体で自分の屋敷に戻ったデュランは、


「こんのバカ息子がぁ!」


「ぐへっ!?」


 玄関の所で待ち構えていた、実の父親である伯爵にいきなりステッキで殴られた。


「ち、父上!? な、なんでここに!? ってか、なんで僕を殴るんですか! 酷いじゃないですか! 痛いじゃないですか!」


「やっかましいわぁ! こんの大バカ者がぁ!」


「ぼへっ!」


 伯爵はもう一度ステッキを振り上げた。なぜ実の父親に何度も殴られなくてはならないのか? デュランには全く理解できなかった。


「貴様は我が伯爵家を潰すつもりかぁ!? よりによって侯爵家の覚えめでたい男爵家を怒らせるなんてぇ!」


 父親の言葉で全てを理解したデュランは絶望した。

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