第8話

 サリアにそう酷評されたデュランは悔し気に唇を噛み締めた。


「うぐ...か、仮に百歩譲ってそうだったとしてもだ、お前が引き取るなんておかしいだろう!? ぼ、僕は実の親なんだぞ!?」


 サリアはますます蔑んだ目でデュランを見下ろして、


「あなた、自分がなんて言ったかもう忘れたんですか? あなたは子育てを放棄したんですよ? 育児放棄は重罪です。あなたと、それからあの女も同罪ですね。離婚訴訟とは別に、私はあなた方を児童虐待として訴えるつもりですからね?」


「なっ!? う、訴えるってそんな!? ぼ、僕はただ、お前に子守りをするよう命じただけじゃないか!? そ、それなのになんでそんなことになるんだ!?」


 デュランは口から泡を飛ばしながら必死に訴えた。


「子育て経験皆無のこの私に、子守りなんて出来るはずがないじゃないですか? そんなことも分からないんですか? バカなんですか? アホなんですか?」


 サリアは心底バカにしたような表情でそう捲し立てた。


「うっ! い、いやあの...そ、それは...」


 途端にデュランの勢いが無くなった。上手い言い訳が思い付かなかったのだろう。


「私が実家の母を頼るのは当然じゃないですか? それなのになんです? あんな役に立たない見張りまで立てて、私を家から出さないようにするなんて。赤ん坊を抱いた女に遅れを取るような役立たずを何人も雇う金があるんなら、その金で乳母を雇えば良かったじゃないですか? なんでそうしなかったんです?」


「そ、それはだな...」


 サリアの厳しい追及に、答えに窮したデュランに代わってサリアが尚も続ける。


「当ててみましょうか? 結婚して私があなたの家に入ったら、最初っから乳母の代わりをやらせるつもりだった。だから乳母を雇う金を惜しんだんでしょう? 違いますか?」


「......」


 ついにデュランは黙り込んでしまった。サリアの追及はまだまだ続く。


「要するにあなたに取って私との結婚とは、まず第一に私の実家という金蔓を確保することが目的だった。更にそれだけじゃ飽き足らず、私のことを無償の使用人として扱き使いたかった。そういうことなんでしょう? 呆れ果てて物も言えませんよ...ねぇ、デュラン様、教えてくれません? 私、あなたに対してそんなに恨まれるようなことをなんかしました? 全く持って身に覚えが無いんですけど? 私なにも悪いことしてませんよね? だと言うのに、なんでこんな酷いことを平気で出来るんですか? あなたには人の心ってものが無いんですか?」


 サリアの辛辣な追及にデュランは口を噤んだままだった。

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