第11話
「おい、サリア。ちょっとこれに目を通してみろ。笑えるぞ?」
ある日、ステファニーをあやしていたサリアの元に、父親である男爵がやって来て何枚かの書類を渡した。
「なんですかこれ?」
「お前の元旦那の調査報告書だ。そろそろ離婚訴訟の裁判が始まるからな。事前準備をしておかないと」
「あぁ、なるほど。ではちょいと拝見...あらあらまぁまぁこれはこれは...」
「な? 笑えるだろ? 伯爵家を勘当されて家から追い出された挙げ句、女からも捨てられたなんてな。傑作だ。良い気味だな」
男爵は如何にも愉快そうに笑った
「まぁ因果応報ってことでしょうね。同情する気にもなれませんが、ちょっと笑えないですよ?」
だが男爵の予想に反してサリアの表情は冴えなかった。
「ん? どうしてだ? まさかとは思うが、まだあんなクズ男に未練が有るとでも?」
「有る訳無いでしょ? そんなもん微塵もありませんよ。そういうことじゃなくて。無一文で放り出されてしまったら、慰謝料も養育費も払えなくなっちゃうじゃないですか?」
サリアが心配していたのはお金のことだった。
「あぁ、それなら心配無い。良い職場を紹介してやるでな」
そう言って男爵はニヤリと嗤ったのだった。サリアは胡乱気な目付きで父親を見やって、
「なんですかそれは?」
「まぁそれは後のお楽しみということで。それよりもサリア、報告書の続きを読んでみろ?」
サリアは次のページを捲った。
「ふうん、あの女はやっぱり元娼婦だったんですね。道理であんなに扇情的で派手な格好していた訳だ」
そこにはアイラの素性が書かれていた。
「そういうことだ。あのクズ男は見事娼婦に手玉に取られたって訳だな」
「救いようが無いですね.. 救う気も無いけど...」
サリアは呆れ果てたような表情でそう呟いた。
「しかしこうなると、そのステファニーが本当にクズ男の子供なのかどうかも疑わしくなって来るな?」
「そんなこと関係ありませんよ。ステファニーはステファニーです。それ以上でもそれ以下でもありませんよ?」
サリアはキッパリと断言した。すると男爵は一転して困ったような表情を浮かべて、
「そうは言ってもサリア、誰の子かも定かではない子をお前が育てるっていうのは...」
「お父様、寧ろ私はあのクズ男の血が流れていない方がステファニーのためになるんではないか? 割と本気でそう思ってるくらいなんですよ?」
「そうか...そうだな...確かにお前の言う通りなのかも知れないな...」
大人達の事情など露知らず、あどけない笑顔を浮かべているステファニーを見詰めながら、男爵は諦観したように苦笑したのだった。
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