第4話

「これが火竜の巣」

 砂丘を越えた先にあったのは赤い岩でできた洞窟であった。

「入り口がすごく熱い……これ、このまま入っても大丈夫なの?」

「岩肌の温度を計測します。およそ二百度……現在の装備では危険数値にあたります」

 シュラが淡々と機械モードで返答する。

「さつき、少し待ってください。水の精霊よ、聖なる加護を我らに宿したまえ。アクアウォール!」

 シルフィが呪文を唱えるとさつきの肌の表面に水の膜が走り、全身を包みこむ。

「わっ、すごく涼しい」

「これがあれば多少の火の粉は問題ありません。熱さも防げるはずです」

「すごいのね、治療術師って」

「そ、そんなことはないです。僕はさつきのようには戦えないし、こんなことでしかお役に立てませんから……」

「洞窟の奥にバグを検知しました」

 そんなことない、とシルフィに言おうとした瞬間、案内板の自動音声のような声でシュラがドラゴンの位置を報告する。

「ここにドラゴンがいるのは間違いないみたいね。それじゃあ気合い入れて先に進みましょうか!」

「待ってください、さつきさん」

 さつきの言葉に神妙な顔つきのシルフィが待ったをかける。

「じ、実は……ここにはドラゴンだけじゃなくて、今までドラゴンに倒されてゾンビ化した人たちがたくさん……」

 シルフィが言い終わる前に洞窟の最奥からゾンビの群れが這い出てくる。

「あ、あんなにたくさんの人がドラゴンにやられたっていうの……」

「ふぅん、あのゾンビ達みんな騎士の格好をしているね。さしづめドラゴン退治にきた騎士団が返り討ちにあって壊滅、全員ゾンビになってしまったってところかな。ところでシルフィ、どうしてキミはそんなことを知っているんだい?」

「それは……その、僕はドラゴンを討伐する為の騎士団に所属する……治療魔術師だったからです」

 シルフィが震えながら、青い顔でそう告白する。

「じゃあ、あの人たちは全部シルフィの仲間だったのね」

「はい……僕は、仲間たちが次々倒されていくのが恐ろしくてあの森まで逃げ帰ってしまったんです。僕は彼らを治療して戦いの支援をしなければいけなかったのに……怖くて、怖くてたまらなくて、僕は……」

 涙を滲ませながら、シルフィは悔しそうに拳を握りしめる。

「だから最初、ドラゴン退治に行くって言った私を止めたんだ」

「ええ。でも今、彼らの変わり果てた姿を見て気持ちが変わりました。誰かがあのドラゴンを止めなければならないんだと」

「でもっあんな大勢のゾンビどうしたら……」

「さつきの剣じゃ一体やつけてる間に他のやつらにやられちゃうよ!」

「僕に任せてください」

「でもシルフィ、攻撃魔法は使えないんじゃ……」

「ええ、通常の魔物は僕には倒せない。でもアンデッドとなった彼らになら……癒しの精霊よ、僕の力となれ、ヒーリングフルケア!」

 シルフィの呪文の詠唱とともに洞穴いっぱいに癒しの波動が広がり、生きとし生ける者に祝福を与え癒していく。

「すごい、なんだか体に活力がわいてくるわ……!」

 しかし死者であるゾンビ達にその癒しの力は反転し、無惨にも体は朽ち果てていく。

「生きている間にあなた達を救えなかった僕を、許してください」

 涙ながらに仲間たちを見送るシルフィを励ますように、さつきは肩をポンとたたいた。

「すごいわシルフィ、これでドラゴンの所まで行けるわね!」

 三人で顔を見合わせて頷きあう。すると洞窟の奥から竜のうなり声が咆哮をあげた。

 それはまるでドラゴンを退治しにきた三人を歓迎するように洞窟内を反響していくのだった。

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