第2話
目が覚めると、そこにはなんだかでかい男の人が横たわっていた。
どのくらいでかいかというと……小学生の時に遠足で見た奈良の大仏様くらいの大きさだ。
そして周囲はまるで雲の中に迷い込んだように、なにもない真っ白な空間がはてしなく広がっている。
さつきはそこで巨人のような大男と二人きりになってしまっていた。
男は長い黒髪を三つ編みに結わえており、赤い瞳でこちらをみつめている。
まるで孫悟空になってお釈迦様の手のひらにいるような気分であった。
「目覚めたか、小娘よ」
「だっ誰なの、あなた。ここはいったい……」
自分は放課後に加奈と神社で必勝祈願のお参りをしていたはずなのに、大きな指につまみあげられて気づけばここにいた。
「まさかあの指、あなたの?」
「その通りだ。思ったより察しがよくて助かる」
「あなたもしかして……神様、とか?」
その大きさといい、神社で遭遇したことといい、さつきにはこの男の正体がそれくらいしか思い浮かばなかった。
「神?フフ……ああ、たしかにそうだな。そうかもしれない」
神様はひじをついて、しげしげとその切れ長の瞳でさつきの姿をのぞきこんでくる。
「神様が私になんの用だっていうの!?」
さつきは明日大事な大会を控えている身なのだから、こんな所で悠長にしている暇はないのだ。あんな連れ去り方をされて、きっと加奈だって心配しているにちがいない。加奈の為にも、一刻も早く家に帰りたかった。
「ただし俺はキミの世界を作った神様じゃない。キミが住んでいた世界とは違う、別の世界を作った神様なんだ」
「べつの世界?」
「隣の席の……いや、別の次元のよく似た世界の創造主。それが俺だ」
「どうして別の世界の神様が私に用があるのよ」
今までの人生で神様にまったく怒られない生き方をしてきただなんて自信はなかったけれど、別の世界の神様にまで咎められるような心当たりはなかった。
「それだ!キミがまったく別の世界の住人であるということに意味があるのさ」
自称、別の世界の神様は物憂げに語り始める。
「実は俺の作った世界はキミたちの世界に比べると少々劣るというか、とんだ粗悪品でね。欠陥だらけなんだ」
まつげを伏せながら、フゥと大きなため息をつく。
「その世界にいよいよ滅亡の危機が迫ってきている!そこでだ、内側から解決できないなら外側から解決策を持ち寄るべきだと思ってね。世界の危機を救うべく、優秀な隣の世界から人間をひとりお借りしたというわけ。それがキミさ!」
当選おめでとう、なんて適当な祝辞を述べていつの間にやら用意されたどこからぶら下がっているかわからないくす玉の紐を引く。
「はぁ!?世界の危機なんて……中学生の女の子が一人でどうにかできるわけないじゃない。というか明日は大事な試合があるの、早く私を家に帰らせてよ!」
「それはならん。ここまでのことをしてしまったからには俺も後にはひけないんだ。隣からデータをカットアンドペーストしたなんてバレたらどんなに怒られることか……とにかくならんったらならん!」
神様は神様で色々と鬼気迫る事情を抱えているようである。
「いや、心配することはない。こちらの世界を救ってくれたらまた同じようにつまんで元の世界に戻すから、というか救ってくれるまで戻してあげるつもりないし。つまりキミは俺の世界の救世主になるしかないんだよ」
そう言って神様はニッコリとほほえむ。
「理不尽!」
「神様なんてそんなものさ」
「だいたい神様だっていうなら、自分の世界の危機くらい自分で救ったらいいじゃない」
「それができたら苦労しない。なにもかもが俺の思い通りに育つわけじゃないんだ。最初のプログラミングでミスをしてしまえば、あとからあとからバグがみつかって、今じゃ俺の手に負えない……もう優秀なデバッガーを送り込んで中から修正してもらうしか手はないんだ」
「バグ……?」
「とにかく!キミに俺の課題の命運がかかっている!!」
「課題……」
「頼んだよ、さつき。正しい世界から招かれたキミなら、きっとバグだらけの世界を救うことができるはず!しのごのいわずにちゃちゃっと世界を救ってくれ!!」
神様がそう言うやいなや、さつきの足下の雲が割れ身体は自然と落下していく。
「俺の名前はアシュラ。キミの世界を作った神様の隣の席の友人さ。恨むならキミの世界を作った成績優秀なカミサマを恨むといい」
雲の合間からのぞき込むアシュラの悪魔のようなほほえみを最後に、さつきはバグだらけの世界に落ちていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます