放浪地区、ベルザンテ

 こんにちは、ノイです。今ちょっとドラゴンさんの背中に乗ってまして、お空からの中継です。……さて、どこから説明しましょうか?


 まずは行く場所の話から。今向かっているベルザンテというのは、ノスティアの近海にある小さい島です。この島の最大の特徴、それは「放浪地区」という2つ名の通り島そのものが常にちょっとづつ動いていることにあります。


 いや本当、年によって全然場所が違うのです。今日のようにドラゴンさんの助けが無ければ行けない場所にあるかと思えば、陸地から泳いでいけるくらい近いこともあるのだそう。今でもこの現象の仕組みはまだ解明されていません。


 そんでもってこの変な島ベルザンテですが、あのドラゴン・トラベル社の本拠地としても有名です。ご存じないですか?お金払って竜族さんの背中に乗り移動できるサービス、皆様方誰もが1度使ったことあるでしょう。あの類いは大体全部この会社の社員さんですよ。

 ノスティアーベルザンテ間の定期便があるので、現在それで移動しています。


 と、まあこんなところで。ドラゴンさんの背中にのって風を切るのはいつでも心地いいものでして、気持ちのいい日光を浴びながら綺麗すぎて飽き始めた海を見て波の音に耳を傾けていると、段々と島が見えてきました。もうすぐ到着です。





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 さて到着しました。久しぶりの地面です。空から見た時も思いましたが、この島意外と設備が整っています。いや確かに木がそこら中に生えていて自然に囲まれている感じはしますが、ジャングルかというと全く違います。理路整然とした趣があり、例えるなら都市のよく手入れされた自然公園のよう。30分で1週できるような小さな島の中に滞在用ホテルがいくつかあり、屋台も各所にありますね(準備中。夜間のみ営業が主とのこと)。


 今はお昼の時間ですから、宿舎の中の食堂で昼食としましょうか。

 私をここに運んできてくれたドラゴンさんと一緒に食べます。身長が私の3倍くらいある立派な火竜の方、カラルさんって名前だそうで。よろしくお願い致します。

 竜というのはとても多種なもの故、この食堂は王道からとんちきの類いまで揃っていまして、軽く見つけたのだとマンゴー味泥団子、痺れる辛さのラーメン(激辛痺れ粉入り毒竜用)、巨竜用そうめん(麺の直径3センチ)……これは特に訳分かんないですけどちゃんと普通のもあります。私はこのキノコソースのオムレツです。


 とろとろの卵生地にキノコ風味のソースを和えて食べると素敵な濃い味。キノコのちょっと苦い独特な味が卵の濃密さで打ち消されて風味だけが残る、そんな感じでしょうか、美味しいです。

 ところでカラルさんは何ですかそれ、ホットドックのソーセージから火が出てますけど。普通に火と一緒に飲み込んでるんですけど大丈夫?

 ……火に強いので大丈夫だそうです。


 食べ終わったら今度は泳ぎに行きます。何だって正真正銘の海ですよ、泳ぎ放題潜り放題!既に沢山の方がいて、海竜の皆さんだけでなく私のように旅に来ている方も結構います。私も適当なところでじゃぶじゃぶやりましょう、犬かきなら結構できますし。後は海竜さんの背にのってスイスイと。魚だって少し居ますから、じっくり潜って観察だってできます。

 上空からすごい音立てて落下着水してきたドラゴンが一匹。カラル君何やってるんですか?


 疲れたらお散歩です。島の外をぐるりと回ります。あえて手を入れてないジャングル地帯もあって、足の運びを見つけながら進むのもいい。枝かと思ったら寝ているドラゴンさんだったのもありましたし、湿った森の匂いが好きな方向けなのでしょう。

 かくいう私もその一人、もう完全にオフモードなカラル君と一緒に探検です。冒険者と伴竜って感じがしてすごいかっこいい感じが出ています。

 ……その伴竜君が顔を木にぶつけました。大丈夫ですか?

 幸い私がでかい絆創膏をもってたので事なきをゲットです、お茶飲んで落ち着きましょう。


 さらに楽しいこと大好きなドラゴン達、この島の夜はお祭り騒ぎです。屋台が沢山並んで、故郷エスペランザの町の秋祭りを想い出しますね。焼きそばもクレープも買ってカラル君とシェアします。一緒に同じの食べて親密さが友達に傾き始めるようでワクワク、さらにこの海塩も頂きましょう。かなり大規模なキャンプファイヤーがバチバチ鳴ってます、皆も私も火照って素敵な気分。






 そんな感じで楽しんでいますと、ふと昔本で読んだことを思い出しました。今日は竜族における「古代火の祝日」、竜が初めて火を吹いたとされる日です。

 満点の星の夜空、平和で楽しげな声。どこからともなく旋律のような声が聞こえまして、竜の内の数匹が呼応するように緩やかに飛び上がっていきました。

 今向かってったのは全て火竜だと感づき、私は横のカラル君を見ます。彼は何かに取りつかれたように空を見ていまして。大丈夫か、と私が声をかける前にカラル君は飛び立って、キャンプファイヤーの上を回る火竜の円に加わりました。


 彼らは歌を歌いだしました。あれは何なのでしょう?全く知らない竜の言葉が不思議な音階を奏でます。

原始的で壮大に、けども繊細で端麗に。まるでゆらめく炎のようなそれが終わり、一呼吸の後……火竜達は一斉に火を吐いて、キャンプファイヤーを轟轟と燃やし、勇ましく火柱を上げました。


 何が起こったのか全然わかりません。わかりませんが、気づけば皆と一緒に拍手をしていました。竜のかっこよさについて私は実に無知ですが、その一端を見た気がします。カラル君は私の元に戻ってきて……


 何故恥ずかしそうにするのです?私には皆目見当もつきません!

 ほらあの大きな大きな綿飴、食べたそうにしてましたでしょう。見てましたとも!このひつじからの奢りです、どうぞ頂いてくださいな!

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