風の居場所、ノスティア

今日私が来たのはノスティア。2つ名を風の居場所と言いまして、観光地としてまあまあ有名。


 現在時刻は丁度お昼、乗り継いできた列車を降りると塩味の風が吹いてきます。駅のホームは切り立った崖に置かれていて、眼下には青黒な海がどこまでも広がっているのが見えましょう。


 そう、いわゆる海辺の町ってやつです。昨日のシグマットと違ってあっけらかんとした表情の町の駅前はこじんまりとした食堂と大きな土産屋と、あとは広場じみた道とまばらな家からできています。


 都会もいいけどこういう場所も好きです。からっとしている、といいますか、遠くまで来たのだなあ、と達成感を感じてしまいます。魔法瓶のポットを傾けてお茶を飲み、ゆっくり落ち着いてから歩いてみましょう……とんとんとリズムをとって、当てなく。風鈴のように心が軽くなります。


 さて、本題を進めましょう。良い意味で田舎なこの町、中でも異彩を放っているのがありまして、それが左手に見えるあの風情豊かで立派な旅館。今日私はあそこに泊まるのです、このために来たのだと言えるほどに楽しみにしてましたとも!


 勿論この旅館には語ることがいっぱいあります!

 まずはロビーから話しましょうか。ちょっと暗い照明、つるつる大理石の床。洒落た木の椅子にゆったりと腰かければ、周囲には南国風味の観葉植物が匂いすら感じるほどに鮮やかに飾られています。さらにすごいのは奥の方に緩やかに溢れている噴水が置かれていまして、そこからの水流が足元の水路に流れているのです!川遊びをしているときのような清々しさ!水路には可愛い橋が架かっていまして、これを超えるのがほんとに楽しいのです!


 お部屋もすごいです、おしゃれな絵が沢山の廊下を抜け扉を開ければもう広いのなんので思わず1人用か不安になるほどだし、そもそもこのひつじは旅館といったものに泊まったことなど皆無でございますから、声も所作も優しく美しい中居さんには同性ながらたじたじです。頂いたお茶はまろやかで甘くて最高、こうも嬉しいと逆にどんな顔すればいいのか分らなくなります……


 それからここの浴場は露天風呂です。私が行ったときは誰もいない貸し切り状態でしたね、岩に腕を乗せてぽかぽかに温まりながら海を見るのです。お空は優しい夕焼けで、ここに何時間だっていてもいい、と幸せな気分になります。


 上がった後はお饅頭を頂けて、それからすぐにご飯。コース料理ですよ、もちろん最初の炒飯からめちゃうまです。お腹具合が心配になるような大きさの肉鍋に照り焼きのお魚さん、どろっどろに甘い白プリン、でも一番は最後の方に出てきたちらし寿司!


 まだまだ続きます、薄暗くなった庭園をお散歩しましょう。足元のお花がぼんやり光って、それからホタルも少しいますね。高い所に休憩所、あそこでは甘酒を一杯貰えて、おまけに「あら?かわいいひつじさんね」と言われてなでなで。もう何しても楽しくて嬉しくて、夢見ごごちで石段の感触を楽しみにふらふら歩きまわります。


 お土産屋さんでは煎餅にカステラ、キーホルダーもバスボムも買っちゃいます。それからロビーをふと見ると、美しい音楽が聞こえてきましてね!あれは生演奏です、そのまま30分ほど聞き入ってしまいました。


 お部屋に戻ればもう寝る時間です。あったかいベットで眠りましょう。

 幸せです、とっても幸せです。明日も楽しみですね、おやすみなさい……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る