第103話 聖剣の団キルサス

「さすがに神樹の団は強いな」


 遠くから戦いを見ていた聖剣の団のキルサスが口を開いた。


「信者に取り囲まれていた時は全滅すると思っていたが」

「見てないで早く助けに行ったほうがいいんじゃない?」


 隣にいたエレナが言った。


「戦況は神樹の団が有利だけど、犠牲者もそれなりに出てるわ。ここで私たち十人が戦闘に参加すれば早く戦闘を終わらせることができる」

「まだだ」


 キルサスはロックオーガと戦っているアスロムを指さす。


「全てのオーガをアスロムが倒すまで待つんだ。そうすれば、僕たちのリスクが一気に減る」

「リスク?」

「ああ。僕は聖剣の団のリーダーだ。団員を守る責任があるからね。それに神樹の団の団員は、もう少し減ったほうがいい。そのほうが僕たちの戦力と均衡も取れる」

「キルサス……」


 エレナの眉間に深いしわが刻まれた。


「いいか、みんな!」


 キルサスは背後にいる八人の団員に声をかけた。


「突入の合図は僕がする。それまで絶対に動くなよ」


 八人の団員たちが無言でうなずいた。


 ――よし! 最高のタイミングで突入して、十二英雄のアスロムに貸しを作ってやる!


 キルサスの唇の両端が大きく吊り上がった。


 その時――。


 東側から、数十人の冒険者が戦場に突っ込んできた。

 その先頭には銀髪のツインテールの少女――十二英雄のシルフィールの姿があった。


 シルフィールは細長い円柱の両端に黄金色の刃がついた武器『双頭光王』で信者を斬りながら、ディドラに駆け寄る。


 ディドラがシルフィールに気づき、呪文を唱えた。数十本の炎の矢が宙に具現化する。その矢を双頭光王で叩き落としながら、シルフィールはさらに前に出た。


「くっ……」


 ディドラは黒い短剣を鞘から引き抜く。


「遅いっ!」


 シルフィールは双頭光王を真横に振った。黄金色の刃がディドラの腹部を斬った。


「があっ……ぐ……」


 ディドラは顔を歪めたまま、地面に倒れる。

 同時にアスロムが最後のロックオーガを倒した。


「にっ、逃げろっ!」


 信者たちが一斉に逃げ出した。


 その光景を見ていたキルサスが唇を強く噛む。


 ――しまった。まさか、月光の団のシルフィールが参戦してくるなんて。せっかく、アスロムに恩を売るチャンスだったのに。


 ぎりぎりと歯を鳴らしているキルサスを見て、エレナは深く息を吐き出した。


「シルフィール。感謝するよ」


 アスロムがシルフィールに駆け寄った。


「君たちのおかげで窮地を脱することができた」

「互角以上に戦ってた気もするけど」


 シルフィールは周囲に倒れている信者たちを見回す。


「まっ、いいわ。で、ゼルディアは見つけたの?」

「いや、ドールズ教の隠れ村も見つけてないよ」


 アスロムが首を左右に振る。


「ただ、ゼルディアが近くにいるのは間違いないようだ。君が倒したダークエルフの女はゼルディアの部下のようだしね」

「ふーん。じゃあ、まだゼルディアを倒すチャンスはあるってことね」


 シルフィールは唇を舐める。


「そのことだけど、いっしょにゼルディアを倒さないか?」

「んっ? あなたと?」

「ああ。神樹の団と月光の団で」


 アスロムは月光の団の団員たちを見る。


「君たちが協力してくれれば、ゼルディアを倒せる確率が上がる。君は十二英雄だし、月光の団はタンサの町で一番実力がある団だからね」

「それなら、あなたも十二英雄だし、神樹の団の実績もレステ国でトップクラスじゃない」


 シルフィールは首を右に傾けて頭をかく。


「まあいいわ。重要なことは六魔星のゼルディアを確実に倒すことだから」

「ありがとう。心強い味方ができて嬉しいよ。じゃあ……んっ?」


 アスロムは、近づいてくる十人の冒険者たちに気づいた。


 先頭にいるキルサスがアスロムの前で丁寧に頭を下げた。


「アスロムさん。僕たちも協力させてください」

「君はたしか……」

「聖剣の団のキルサスです」


 キルサスは白い歯を見せた。


「こんなところで十二英雄に会えるとは驚きです」

「君たちもゼルディア討伐が目的かな?」

「はい。多くの町や村を滅ぼした六魔星ゼルディアは絶対に倒すべき存在ですから。微力ですが、僕たちも手伝わせてください!」

「ああ。もちろんだ。よろしく頼む」


 アスロムはキルサスと握手した。


「聖剣の団……ね」


 シルフィールがキルサスに近づいた。


「今度は大丈夫なの?」

「今度は?」


 キルサスが首をかしげた。


「どういう意味ですか? シルフィールさん」

「行方不明になった調査団の救出の依頼のことよ。あなたたち聖剣の団は三十人中二十八人の犠牲者を出したでしょ」

「……あぁ。あのことですか」


 キルサスの眉がぴくりと動いた。


「あの時は、聖剣の団に入団したばかりの団員がミスをしてしまったようです。でも、今回はSランクで団のリーダーでもある僕がパーティーをまとめていますから」

「……そう。まあ、あなたはSランクみたいだし、戦闘力は問題なさそうね」

「もちろんです。十二英雄のお二人には及びませんが、お役に立てる自信はあります」


 キルサスの口角が吊り上がった。


 ――これでいい。十二英雄の二人が味方にいるのなら、相手が六魔星でも十分に勝算はある。そして、状況によっては僕がゼルディアに止めを刺す展開もあるかもしれない。


「アスロム様」


 戦士のテレサがアスロムに駆け寄った。


「負傷した信者を捕らえました。これで隠れ村の場所がわかると思います」

「じゃあ、早速、尋問をして……」

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