第101話 隠れ村の戦い3
その言葉と同時に二人のダークエルフが動いた。
短剣を握り締め、僕たちに突っ込んでくる。
「ピルン! アルミーネと二人で戦って!」
そう言って、僕は魔喰いの短剣を握り締める。
「死ねっ!」
右側にいたダークエルフが大きく左足を踏み出し、短剣を突き出した。
僕は魔喰いの短剣でその攻撃を受ける。
「まだだっ!」
ダークエルフは連続で短剣を突く。
僕は下がりながら、反撃の機会を待つ。
このダークエルフの攻撃、違和感がある。僕の手や腕ばかり狙ってくるし、強く刺そうとも考えてないみたいだ。
よく見ると、ダークエルフの持つ短剣には小さな穴がいくつも開いていて、そこから半透明の液体が染み出している。
毒か……。
僕は唇を強く噛んで、ダークエルフから距離を取る。
一瞬、視線を動かすと、狂戦士モードになったピルンがカラフルなマジカルハンマーを振り回し、ダークエルフを攻撃している。
ダークエルフは後方にいるアルミーネの魔法を警戒して、強く攻めることができないようだ。
早めに目の前のダークエルフを倒して、アルミーネたちをサポートするんだ。
僕は呪文を唱えているダークエルフに突っ込む。
ダークエルフの周囲に四つの赤黒い球体が具現化した。
その前にっ!
僕は靴底と同じ形に切り抜かれた透明の紙を五つ具現化してジャンプした。その紙を足場にして、さらに連続でジャンプする。
空中でジャンプを繰り返す僕の動きを見て、ダークエルフの目が大きく開いた。
「く……何だこいつっ!」
ダークエルフは慌てた様子で短剣を突き出す。その攻撃をジャンプでかわし、体をひねりながら、魔喰いの短剣を振った。青白い刃が一気に伸びて、ダークエルフの頸動脈を斬る。
青紫色の血がダークエルフの首から噴き出した。
「があっ……」
周囲に浮かんでいた赤黒い球体が消え、ダークエルフが倒れた。
僕はアルミーネたちと戦っているダークエルフに向かって走る。
「『風手裏剣』!」
コートのポケットにストックしていた紙の手裏剣を十本出す。風属性を付与した手裏剣が弧を描いてダークエルフの体に突き刺さった。
同時にピルンがダークエルフに突っ込み、マジカルハンマーを振った。ダークエルフの体が飛ばされ、円柱に激突する。
よし! これで残りは……。
視線を動かすと、キナコがザムドを圧倒していた。ザムドの服はキナコの爪で切り裂かれていて、青紫色の血が滲んでいる。
「くっ……猫人族ごときにやられるものかっ!」
ザムドは左手のひらをキナコに向ける。直径二十センチほどの光球がキナコに向かって発射された。キナコは頭を下げて光球をかわし、ザムドの左足首を左手で掴む。そのまま体を丸めるようにしてザムドの足に絡みついた。
ザムドの足がかくりと折れ、地面に倒れた。
「ぐっ……くそっ!」
立ち上がろうとしたザムドの胸元をキナコの肉球が叩いた。
ドンと大きな音がして、ザムドの胸が陥没する。
「がっ……あ……」
ザムドの口から血が流れ落ち、金色の目から輝きが消えた。
「バカな……」
ルーガルが色を失った唇を動かす。
「俺たちを甘くみたな」
キナコがルーガルに駆け寄る。
「ぐっ……」
ルーガルは素早く呪文を唱えて、半透明の壁を具現化した。
アルミーネが壁に走り寄り、呪文を唱える。
ガラスが割れるような音がして、壁の一部が消える。
それを見たルーガルは僕たちに背を向けて、祭壇の奥に消えた。
僕たちは壁に開いた穴を通り抜け、ルーガルを追いかける。
祭壇の奥には螺旋階段があった。
螺旋階段を駆け上がると、倉庫のような場所に出る。
視線を動かすと、扉から外に出て行こうとしているルーガルの姿が見えた。
逃がさない!
僕は紙の鎖を具現化した。紙の鎖は一直線に伸び、ルーガルの足首に絡みつく。
「ぐうっ……」
ルーガルは扉の前で呪文を唱える。
「そうはさせん!」
透明の壁が具現化するが、その前にキナコはルーガルに接近する。
「舐めるなっ!」
ルーガルは右手の指輪をキナコに向ける。青い宝石から光線が発射された。
「『肉球縮地』!」
キナコの体が前に傾くと同時に、一瞬でルーガルの側面に移動した。
ルーガルは慌てて呪文を唱えようとする。
「遅いっ!」
長く伸びた白い爪がルーガルの胸元に突き刺さった。
「ゴブッ……き、貴様ら……」
ルーガルはがくりと両ひざをついた。
「どうして……こんなに強い?」
「プレートの色で判断したお前のミスだ。俺は多くの魔族を殺し、AランクだがSランクの実力があると冒険者ギルドにも認められている」
キナコはベルトに挟み込まれた銀色のプレートに触れる。
「それに俺の仲間たちも全員が強者だからな」
「ぐうっ……」
ルーガルはキナコをにらみつけたまま、絶命した。
「ふん。死刑の日にちが早まったな」
キナコは白い爪についた血を払う。
僕は扉に近づき、隙間から外を確認した。
多くの家が燃えていて、白い煙が周囲に漂っている。
信者たちの声が遠くから聞こえてくる。
「もっと水をもってこい! このままじゃ、集会所も燃えてしまうぞ!」
「リックを呼べ。あいつなら水属性の魔法が使える」
「それより、ルーガル様に報告しなければ」
「俺が伝えてくる!」
茶髪の信者が僕たちのいる倉庫に近づいてきた。
僕たちは素早く倉庫の棚に隠れる。
扉が開き、茶髪の信者が倉庫に入ってきた。
茶髪の信者の視線が倒れているルーガルに向いた。
「るっ、ルーガル様!」
ルーガルに駆け寄った茶髪の信者にキナコが駆け寄った。
左手で茶髪の信者の髪を掴み、右手の白い爪を首筋に当てる。
「動くな。動くとお前も死ぬことになるぞ」
「……お、お前たち、何者だ?」
茶髪の信者が驚いた顔で僕たちを見る。
「質問は俺たちがする。神樹の団はどこにいる?」
「……神樹の団?」
「さっき、百人以上の信者が村を出て行ったな。神樹の団と戦うためだろ?」
「それは……」
「話す気がないのなら、ここでお前を殺す。文句はないだろ? それがドールズ教の教えなのだから」
「……み、南だ。南にある巨岩の近くの草原に神樹の団はいる」
「よかったな。捕まって死刑になるまで命が延びたぞ」
キナコは肉球で茶髪の信者の後頭部を叩いた。茶髪の信者は一瞬で気を失った。
「よし! これでゼルディアがいる場所がわかった。信者どもが混乱してるうちに村を脱出するぞ!」
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