第100話 隠れ村の戦い2

 薄暗い通路を進み続けると、視界が一気に広がった。


 円柱が均等に並んでいて、高い天井と繋がっている。奥には巨大な邪神ドールズの像が建っていた。

 像は高さが十メートル以上あって、頭部に無数のヘビを生やしている。


「ここがドールズ教の神殿だったのか」


 掠れた声が僕の口から漏れる。


 巨大な像から視線を落とすと、祭壇の前に司教のルーガルの姿があった。ルーガルの側には三人のダークエルフと老人がいる。

 老人の背丈は高く、額に赤い角が二本生えている。濃い紫色の服を着ていて、手足は長く細い。

 両手の甲には赤い宝石が埋め込められていた。


 あいつがゼルディアか。


「お前たち……」


 ルーガルが僕たちに気づいた。


「何故、ここにいる?」 

「そんなことはどうでもいい」


 キナコが一歩前に出て、ゼルディアをにらみつけた。


「やっと会えたぞ。六魔星ゼルディア」

「んっ……」


 ゼルディアがキナコと視線を合わせる。


「お前は誰だ?」


 しわがれた声がゼルディアの口から漏れた。


「俺はキナコ。ジャレゴ村の出身だ」

「ジャレゴ村?」

「お前が滅ぼした猫人族の村だ!」


 キナコが声を荒げた。


「お前は猫人族の死体を手に入れるために、村にいたほとんどの猫人族を部下に殺させた。老人も子供もな」

「それのどこに問題がある?」


 ゼルディアが首をかしげた。


「この世界は強者が支配する世界だ。猫人族のような弱い種族は殺されても仕方がない」

「仕方がないだと?」

「ああ。それがイヤなら戦って敵を殺せばいい。それがこの世界の理ではないか」

「……そうか。そういう考えなんだな」


 キナコがぶるぶると体を震わせた。


「ならば、俺がお前を殺しても問題ないってことだな」

「……ふっ。面白いことを言う」


 ゼルディアの青紫色の唇の両端が吊り上がった。


「猫人族ごときが我と戦うつもりか」

「そのために俺は生きてきたからな」


 キナコはゆっくりと前に出る。


「お前に殺された同族たちの復讐、ここで果たす!」

「お前はゼルディア様と戦うことなどできない」


 長身のダークエルフが口を開いた。


「なぜなら、俺に殺されるからだ」

「お前が護衛部隊の隊長のようだな」

「そうだ。俺はザムド。ゼルディア様の敵は全員俺が殺す」

 ダークエルフ――ザムドは紫色の短剣を構える。


「ザムド」


 ゼルディアがザムドの肩を叩く。


「その四人はお前たちにまかせる。我は十二英雄のアスロムを殺すとしよう」

「ん? アスロムだと?」


 キナコが首を右に傾けた。


「……そうか。神樹の団もエクニス高原に来てるんだな。それで、さっき信者たちが村の外に出て行ったわけか」

「知らなかったようだな」


 ルーガルが言った。


「どうやら、お前たちは単独で動いているようだ。ふふっ」

「何がおかしい?」

「頭が悪いと思っただけだ。たった四人だけでここに来るとは」


 ルーガルはゼルディアに向かって頭を下げる。


「ゼルディア様。こいつらは私たちにおまかせを。Aランクの冒険者が一人だけで、他は雑魚です。すぐに殺せます」

「わかった。お前たちは後から来い」


 そう言うと、ゼルティアは呪文を唱えた。


「逃げる気か! ゼルディア!」


 キナコが叫ぶと同時にゼルディアの姿が消えた。


「ちっ……転移の魔法かっ!」


 キナコはぎりぎりと牙を鳴らす。


「では、終わらせるとするか」


 ザムドがゆっくりとキナコに歩み寄る。


「この猫人族は俺が殺す。お前たちは後ろにいる三人を殺せ」

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