第99話 隠れ村の戦い
「アルミーネ。何があったの?」
僕はアルミーネに質問した。
「多分、他の冒険者が見つかったんだと思う」
アルミーネが言った。
「ゼルディアがエクニス高原にいる情報を知ってる冒険者は私たちだけじゃないから」
「俺たち以外にも無謀なことを考えている奴らがいるようだな」
キナコはふっと息を吐き出す。
「……だが、これで村への潜入がしやすくなった。信者の数が一気に減ったからな」
「そうだね。もうすぐ日が暮れるし」
僕は視線を西に向ける。木々の間から山吹色の太陽が見えた。
「多分、ゼルディアは穴の中にいると思う」
「どうしてそう思う?」
「ダークエルフの数からかな。信者といっしょに村から出て行ったダークエルフが一人で、それ以外に姿が見えているダークエルフが五人。だから、残り四人のダークエルフとゼルディアは穴の中にいるんじゃないかな」
「……なるほど。可能性は高そうだ」
キナコは鋭い視線を村の中央にある穴に向ける。
「となると、どうやって穴の中に入るかが問題だ。穴に入る階段の前にもダークエルフがいるからな」
「階段は使わなくていいよ。紙の足場でなんとかなるから」
「でも、それじゃあ、ダークエルフに見つかってしまうのだ」
ピルンが言った。
「ダークエルフは夜目が利くからな。危険で危ない相手なのだ」
「それなら、いい手があるかも」
僕は特別な紙が入っている上着のポケットに触れた。
作戦を話した後、僕たちは村の端にある家の前まで移動した。
「みんな準備はいい?」
僕の言葉にアルミーネ、ピルン、キナコがうなずく。
魔法のポケットに収納している紙を使って……。
僕は右手を前に出し、新たな魔式を脳内でイメージする。
数万枚の紙が重なり合い、頭部が三つある巨大なドラゴンを形作る。
「いけっ! 『ペーパードラゴン』!」
「ゴオオオオ!」
ペーパードラゴンに使用した特別な紙が僕の思考を読み取り、村に突っ込んでいく。
木製の家が壊され、近くにいた信者がペーパードラゴンの巨体に当たって弾き飛ばされる。
「どっ、ドラゴンだ! ドラゴンがいるぞ!」
信者の声が村の中に響き渡る。
「どうして、ドラゴンが村の中にいるんだ?」
「そんなことはいいっ! とにかくこいつを倒せ!」
信者たちは家を壊して暴れ回るドラゴンを取り囲む。
「ゴアアアアーッ!」
ペーパードラゴンは三つの口を開いた。その口から紙で作った小さな針が無数に吐き出される。 数十人の信者の体に針が突き刺さった。
「がああああっ!」
信者たちの悲鳴が聞こえてくる。
その騒ぎに気づいて、四人のダークエルフがペーパードラゴンに魔法攻撃を仕掛けた。
火球の魔法がペーパードラゴンの前脚に当たり、燃え広がる。
「火だっ! こいつには火の魔法が効くぞ!」
長身のダークエルフが叫ぶと、他のダークエルフたちも火の魔法を使用する。
火球が次々とペーパードラゴンに当たり、炎が全身に広がっていく。
「いいぞ。一気に燃やしてしまえ!」
信者たちがペーパードラゴンを取り囲む。
その時――。
ペーパードラゴンの巨体が爆発した。
周囲にいた信者たちの体が吹き飛び、飛び散った燃えている紙が周囲の建物に引火する。
「ひ、火を消せっ!」
焦っている信者たちの声が僕の耳に届いた。
ペーパードラゴンの体は紙でできているから火に弱い。でも、その特性を利用して、自爆攻撃で広範囲にダメージを与えられるような仕掛けを作っていた。それが上手くいったみたいだ。
「よし! 行こう!」
僕たちは頭を低くして、村に潜入した。音を立てないようにして穴に近づき、素早く紙の足場を具現化する。
視線を階段に向けると、その前にいたダークエルフが周囲にいる信者たちに指示を出していた。 今なら行ける!
僕たちは紙の足場を使って、穴に下りた。
穴は二十メートル以上の深さがあり、側面に石作りの通路がある。
その通路を進むと、ダークエルフの姿が見えた。
ダークエルフも僕たちに気づく。
「侵入者かっ!」
ダークエルフは腰に提げた鞘から黒い短剣を引き抜く。
同時にキナコが動いた。
一直線にダークエルフに近づき、白い爪で太股を斬り裂く。
「くあっ!」
ダークエルフは痛みに顔を歪めながら、短剣を突き出す。
キナコは頭を低くしてその攻撃を避けた。ダークエルフは左手のひらをキナコに向ける。真紅の火球が具現化する。
しかし、その火球が放たれる前にキナコが動いた。右の壁を足で蹴り、ダークエルフの背後に回り込む。
「かああっ!」
ダークエルフは体を捻りながら、蹴りを放つ。
「遅いっ!」
キナコはダークエルフの側面に移動して、肉球を突き出す。ドンと大きな音がして、ダークエルフの体が石壁にぶつかった。
「ぐっ、ぐ……」
ダークエルフの体が傾き、前のめりに倒れた。
「ふぅ……」
キナコは溜めていた息を吐き出した。
「なんとか速攻で倒せたな」
「さすがキナコなのだ」
ピルンがキナコに駆け寄った。
「強いダークエルフも楽勝で倒したのだ」
「楽勝じゃないぞ」
キナコが自分の肩を指さす。茶トラの毛の一部が赤く染まっていた。
「このダークエルフ、魔法の腕前はほどほどだが、剣技は見事だった」
「キナコっ、じっとしてて」
アルミーネがキナコに回復魔法をかける。
簡単にはいかないか。
僕は前方を警戒しながら、唇を強く噛む。
ただ、ここでダークエルフの数を一人でも減らせたのはよかった。
とにかく、ペーパードラゴンが上で暴れているうちにゼルディアを倒さないと。
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