第98話 隠れ村

 森の中を歩いていたアルミーネの足が止まった。

 アルミーネは半透明のカードを右目に当てて、結んでいた唇を開いた。


「あの大きな木……怪しいなぁ」


 アルミーネが指さした木は周囲の木と変わらないように見えた。


「何か変なの?」


 僕の質問にアルミーネは半透明のカードを僕の顔の前に差し出した。

 カード越しに木を見ると、木全体が青白く輝いている。


 僕たちは周囲を警戒しながら、その木に近づいた。

 アルミーネが木の幹に触れると、人が通れるぐらいの穴が開く。


「ちょっと待って」


 アルミーネは呪文を唱えて、穴に右手を入れる。


「……うん。問題なさそうね」


 アルミーネは木の中に入っていく。僕、ピルン、キナコもその後に続いた。

穴から出ると、目の前に村があった。


 村には百軒ほどの家が建っていて、中央に巨大な穴があった。穴の周囲には黒いローブを着た信者たちがいる。


「やっと見つけたね」


 アルミーネがキナコの肩を叩いた。


「……ああ。感謝するぞ」


 キナコは瞳孔を縦に細くして村を見つめる。

 僕はキナコの隣で村の様子を確認する。


 信者の数は……四百人以上はいそうだな。武器は……短剣が多いか。


 その時、穴の近くに司教のルーガルがいることに気づいた。ルーガルは数人のダークエルフと話をしている。


 ダークエルフもいるのか。


 ダークエルフは全員が銀髪で褐色の肌をしていた。耳はエルフと同じように尖っていて、整った顔立ちをしている。


「ゼルディアの部下だろうな」


 キナコが牙を鳴らす。


「ゼルディアは自分の軍隊から離れて動くことがある。そういう時にも十人のダークエルフの護衛だけはいっしょに行動している」

「強いの?」

「全員がAランククラスの冒険者だと思っておけ」

「Aランクが十人か……」


 僕は唇を噛んでダークエルフを見つめる。


 面倒だな。ルガールの盾の魔法もあるし、ドールズ教の信者にも強者はいるはずだ。


「……キナコ。夜になるまで様子を見よう。まずはゼルディアがどこにいるのか確認したほうがいい」

「そうだな」


 キナコは視線を村に向けたまま、口を動かす。


「村に潜入して情報を集めるにも夜のほうがいいだろう」

「それなら、僕は村の周囲を確認してくるよ。ゼルディアを倒した後に逃げるルートを見つけておきたいし」

「わかった。気をつけろよ」


 キナコは僕の腰を肉球で叩いた。


 その後、僕は森の中を移動しながら、周囲の地形を確認する。


 村を囲うように枝葉の多い木が生えてるな。それにトゲ草の茂みも多い。トゲ草は葉がノコギリのようにギザギザで肌や服を傷つける。多分、村が見つからないように信者たちが植えたんだろう。


 数十メートル移動すると、崖の上に出た。


「崖か……」


 この崖は利用できそうだ。ここで紙の橋を具現化すれば、逃げる時に距離を稼げる。


その時、村のある方向から、声が聞こえてきた。

 僕は音を立てないように移動して、木の陰から村を確認する。


 信者たちが武器を持って広場に集まっているのが見えた。

 ダークエルフの女が信者たちに向かって何かを話している。


 んっ? どうしたんだろう?


数分後、二百人を超える信者たちがダークエルフの女といっしょに森の中に入っていった。


 これは何かあったな。戻ったほうがよさそうだ。


 僕は頭を低くして、その場から離れた。


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