第85話 プラントドラゴン
「側面から攻めろ!」
メルトが叫んだ。
「まずは触手の数を減らすぞ!」
そう言って、メルトは側面からプラントドラゴンに突っ込む。
三本の触手がメルトに襲い掛かった。
「『烈風千撃』!」
メルトの体が竜巻のように回転して、三本の触手の先端が地面に落ちる。
「ギィイイイイ!」
プラントドラゴンが長い首を捻って、メルトに噛みつこうとした。その攻撃をメルトは素早くかわす。
「俺たちは逆方向から攻めるぞ!」
グレッグがロングソードの先端をプラントドラゴンに向けた。
「このデカブツに炎龍の団の力を見せてやれ!」
「おおーっ!」
団員たちが無数の触手と戦い始める。
早めに倒さないと、犠牲者が増えてしまう。
僕は正面からプラントドラゴンに突っ込んだ。
ポケットの中に入れていた闇属性を付与した紙を使って……。
僕は脳内で魔式をイメージする。
数百枚の紙が重なり合い、僕の頭上に巨大な槍が出現した。長さは五メートル以上あり、全体が青紫色に輝いている。
「『巨槍闇月』!」
巨槍闇月が動き出し、プラントドラゴンの胸に突き刺さった。
「ギィイイイイイ!」
プラントドラゴンは甲高い鳴き声をあげて、前脚を振り上げる。同時に僕はプラントドラゴンの側面に回り込んだ。
僕はポケットに収納していた紙を折って作った鳥――『操紙鳥』を十羽出した。
手のひらに乗るような大きさの操紙鳥が僕の意思に従って、プラントドラゴンの頭部に次々と突っ込む。
爆発音がして、プラントドラゴンの尖った歯が地面に落ちた。
近くにいたアルベルたちがぽかんと口を開けて、僕を見ている。
「アルベルっ! 今がチャンスだよ!」
「……あっ、くっ!」
アルベルは我に返った。
「ダズル、カミラ! 俺たちで後脚を狙うぞ!」
そう言って、アルベルは走り出す。ダズルとカミラもその後を追った。
プラントドラゴンは胸に巨槍闇月を突き刺したまま、暴れ回る。
くっ、しぶとい。
僕は襲い掛かってくる触手を魔喰いの短剣で斬りながら、僕は奥歯を強く噛んだ。
プラントドラゴンは心臓が三つある。しかも、その位置がわかりにくいから、倒しにくい。
頭部を落とすのが理想的だけど、触手が邪魔をしてくる。
「ヤクモっ!」
キナコが僕に体を寄せた。
「俺がプラントドラゴンの動きを止める」
「できるの?」
「触手の数が減ったし、大技を出せそうだからな。ただ、動きが止まるのは一瞬だけだ。その一瞬でお前が決めろ!」
「……わかった」
僕はキナコから離れて、プラントドラゴンの死角に移動する。
僕の位置を確認したキナコが側面からプラントドラゴンに突っ込んだ。
二本の触手がキナコを狙うが、その触手をメルトが切断する。
「いいぞ、メルト!」
キナコは深く息を吸い込み、両足を大きく開く。
「『肉球波紋掌』!」
右手の肉球がプラントドラゴンの体を叩いた。黄緑色のウロコに波紋が広がるが、プラントドラゴンの動きが止まらない。
「ならば、もう一発っ!」
キナコは腰を捻って、左手の肉球でプラントドラゴンを強く叩く。
「ギュ……」
プラントドラゴンの動きが止まった。
同時に僕は紙の足場を階段状に具現化する。その足場を駆け上がり、魔喰いの短剣に魔力を注ぎ込んだ。青白い刃が大剣のように長く分厚くなる。
最上段の足場をジャンプして、僕は魔喰いの短剣を振り下ろした。
刃がプラントドラゴンの首を深く斬り、巨大な頭部が傾く。
プラントドラゴンは黄色の体液を噴き出しながら、僕に噛みつこうとした。
まだ、動けるのか!
僕は別の足場を作って、その足場に跳ぶ。そして上半身を捻りながら、魔法のポケットに収納していた小さな赤い箱を出す。その箱は家を包むほどの大きさの紙を千回以上折って箱の形にしたものだ。
「『葬送花』!」
宙に浮かんでいた赤い箱がプラントドラゴンの口の中に入った瞬間、それが一気に開いた。箱が上下四方に広がり、赤い薔薇の形になる。その花びらがプラントドラゴンの頭部を破裂させた。
肉片が周囲に飛び散り、プラントドラゴンの頭部があった場所に紙の花が咲く。
数秒後、ぐらりとプラントドラゴンの巨体が傾き、横倒しになった。
よし! 倒せたぞ。
僕は深く息を吐き出して、動かなくなったプラントドラゴンを見つめる。
葬送花は巨大なモンスター用に考えた技だ。細かく折り曲げた巨大な紙が一気に開いて薔薇の形になる。その花びらのふちは磨かれた刃物のように薄く対象の体を傷つける。
普通の紙なら絶対に折れない回数を折ることで完成した技だけど、いろいろ応用が利きそうだな。だって、紙は四十二回折れば、月にだって届くんだから。
周囲にいた冒険者たちがぽかんと口を開けて、僕に視線を向けている。
見たことのない技でプラントドラゴンが倒されたから、驚いているんだろう。
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