第84話 テト

 全員の視線がテトに集中する。


「ま、待ってよ!」


 テトの頬がぴくぴくと動く。


「どうして、そんなこと言うんだよ。ヤクモ」

「君が信者だと確信してるからだよ。リッケルさんの死体を確認してきたからね」


「リッケルの死体?」


 メルトが視線を僕に向ける。


「はい。気になることがあったから」

「気になることとは何だ?」

「アーマーゴーレムがリッケルさんを穴に投げ込んだことです。そんなこと、やる意味がないですよね? 他の冒険者の死体はそのままにしてるのに」

「意味か……」


 メルトは青ざめた顔をしたテトを見る。


「だから、僕は紙の足場を使って穴の中に入ったんです。そしてリッケルさんの死体を調べたら、背中に刃物の傷口がありました」

「それは……」


 テトの言葉が途切れた。


「アーマーゴーレムの行動のことは僕にはわからないけど、傷口は穴に落とされた時に鋭い岩か何かにぶつかったせいじゃないかな」

「それはないよ。傷の厚みは均等だったし、少し皮膚が焼けてたから。あれは火属性の武器で傷つけられた時の特徴だよね」

「じゃあ、僕じゃないよ。僕の武器は杖だから」


 テトは引きつった笑みを浮かべて、持っていた杖を僕に見せる。


「そうだね。でも、魔法のポーチの中に火属性の短剣を隠し持っている可能性はあるんじゃないかな?」


 僕はテトの腰に提げているポーチを指さす。


「それにリッケルさんの傷口は見覚えがあったんだ」

「見覚えって?」

「森の中で見つけたラックスさんの死体の傷と同じだと思ってさ。あの時、君も近くにいたよね?」

「僕がラックスさんも殺したって言いたいの?」

「その可能性は高いと思うよ。君はライザとパーティーを組んでたけど、別行動をしてたみたいだし、ラックスさんを殺すチャンスはあったんじゃないかな」

「そっ、そんなの君の想像じゃないか」


 テトの声が微かに震えた。


「そんなことで信者扱いされるなんて、ありえないよ」


「それだけじゃないぞ」


 キナコが口を開いた。


「ヤクモから、お前を見ていてくれと頼まれてな。さっきの戦いの時も、お前の行動をチェックしていた」

「僕の行動?」

「ああ。お前は氷の矢の魔法をアーマーゴーレムの胸の真ん中に何度も当てていた。全く効かない魔法をな」

「それは僕がFランクだから」


 テトは自身のベルトにはめ込んだ白色のプレートに触れる。


「魔法が弱いのは仕方ないじゃないか」

「……ほぅ。ならば、アーマーゴーレムが一度もお前を攻撃していなかったのは何故だ? 俺はずっと見ていたぞ」

「そんなのウソだ。僕だって、アーマーゴーレムに狙われていたし」

「テト……」


 僕はテトの持っているいびつな杖を指さした。


「その杖に赤い宝石が埋め込まれているね。それ、最初に会った時にはなかったはずだけど?」

「……魔法の効果を上げるために、この仕事の前に杖につけたんだよ。『赤月石』を」

「赤月石にしては、少し色が違う気がする。その色……アーマーゴーレムの口の中にある宝石と同じに見えるよ。その宝石でアーマーゴーレムを操っていたんじゃないのかな」

「バカなこと言うなよ!」


 テトが声を張り上げた。


「そんなに僕を疑うのなら、ポーチの中も全部見せるよ。火属性の短剣どころか、普通の短剣だって入ってないから」


 そう言って、テトは魔法のポーチに手を入れる。


「そいつを取り押さえろ!」


 キナコが叫んだ。


「遅いよ!」


 テトはにやりと笑いながら、ポーチから紫色の水晶玉を取り出した。それを地面に叩きつける。

紫色の煙が広がり、巨大なドラゴンが現れた。


そのドラゴンは黄緑色のウロコに覆われていて、その巨体から無数の触手が出ていた。触手の先端には尖った歯が円形に並んでいて、ヘビのように細長い胴体をくねらせている。


「プラントドラゴン! 冒険者たちを殺せ!」


 テトが叫ぶと、プラントドラゴンの触手が呆然としている冒険者たちを襲い始めた。

 尖った歯が冒険者の頭部を噛み千切る。


「あははっ! ここでプラントドラゴンを使うのは想定外だったんだけど仕方ないかな」


 テトは舌を出して、奥の穴に向かって走る。

 数人の冒険者がテトを追ったが、プラントドラゴンの触手が彼らに行く手を塞ぐ。


「ギュイイイイ!」


 プラントドラゴンが甲高い鳴き声をあげて、赤い霧のようなブレスを吐いた。

 正面にいた冒険者たちの鎧と皮膚が溶ける。


「がああああっ!」


 冒険者たちは地面に転がり、ばたばたと手足を動かした。


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