第83話 洞窟10

 二時間後、メルトたちは地底湖を目指して移動を開始した。

 七十八名の冒険者たちは入り組んだ細い通路を進む。


 開けた場所に出ると、先頭を歩いていたメルトが足を止めた。


「……どういうことだ?」

「どうしたんですか?」


 隣にいたグレッグがメルトに質問する。


「気づいていないのか。囲まれているぞ」

「ゴ……ゴゴ……」


 岩陰から五十体以上のアーマーゴーレムが現れた。


「ばっ、バカな。この場所にはアーマーゴーレムなどいなかったはずだ」


 グレッグの声が掠れた。


アーマーゴーレムはメルトたちの背後にも回り込み、逃げ道を塞ぐ。


「そうか。こっちの動きを読んで、この場所にアーマーゴーレムを集めていたんだな」


 メルトが両手に持った短剣を握り締める。


「メルト様……」


 不安げな表情を浮かべた団員の両足ががくがくと震え出した。


「恐れるなっ!」


 メルトが叫んだ。


「これは好機だ! ここでアーマーゴーレムを全滅させるぞ! 全員、全ての力を絞り出せ!」


 冒険者たちとアーマーゴーレムの戦いが始まった。

 アーマーゴーレムが長い腕を振り回し、冒険者たちをなぎ倒す。

 数分で十人以上の冒険者が殺された。

 しかし、冒険者たちも七体のアーマーゴーレムを倒す。


 メルトの背中に冷たい汗が滲んだ。


 ――まずい。アーマーゴーレムの数が多すぎる。このままではこっちが全滅する。


「メルトっ!」


 キナコがメルトに駆け寄った。


「俺とお前で右側のアーマーゴーレムを倒すぞ」

「右側?」

「そうだ。壁を利用して守りの陣を敷くんだ」

「しかし、アーマーゴーレムの突進は陣では止められないぞ?」

「いいからやれ! 全員を右に集めるんだ!」

「わかった」


 メルトは右側にいるアーマーゴーレムを倒しながら、冒険者たちに指示をする。

 全員が壁際に移動すると同時に、アルミーネが呪文を唱えた。

 空中に巨大な魔法陣が現れ、その魔法陣から黒い霧が出る。霧はアーマーゴーレムたちの体を包み、その動きが鈍くなった。


「今のうちにこいつらを倒すぞ!」


 キナコがアーマーゴーレムに突っ込み、肉球で頭部を叩く。閉じた口の中で宝石が割れた音がして、アーマーゴーレムの巨体が倒れる。


 他の冒険者たちも守りから攻撃に転じた。

 動きが鈍くなったアーマーゴーレムが次々と倒される。


「ゴ……ゴゴ……」


 五体のアーマーゴーレムがキナコを取り囲んだ。


「今度は俺か」


 キナコは白い牙を鳴らした。


「強者を狙う手は悪くないが、少し遅かったようだな」


 弧を描いて飛んできた紙の手裏剣がキナコの正面にいたアーマーゴーレムの口の中に入った。

 甲高い音がして、赤い宝石が割れる。


「ゴッ……ゴ……」


 アーマーゴーレムが倒れた。


「これでなんとかなりそうだな」


 キナコは走ってくるヤクモとピルンを見て、にやりと笑った。


 ◇ ◇ ◇


 全てのアーマーゴーレムを倒すと、冒険者たちはその場に座り込んだ。


 僕はアルミーネに声をかける。


「アルミーネ、ケガはない?」

「なんとかね」


 アルミーネはふっと息を吐き出した。


「ただ、三十人以上やられちゃったけど」

「……そっか」


 僕は周囲に倒れている冒険者を見回す。


 もう少し早く合流していれば、犠牲者の数を減らせたかもしれないのに。


「ヤクモ」


 キナコが僕の太股を叩いた。


「お前の読みは間違ってなかったぞ」

「じゃあ……」


 僕は片膝をついて、キナコと話をする。


「ヤクモ、助かったぞ」


 メルトが額の汗を拭いながら、僕に近づいてきた。


「お前とお前の仲間のおかげで全滅をまぬがれた。感謝する」

「いえ。こっちこそ別行動を取ってすみませんでした」

「前に倒したアーマーゴーレムを調べに行ったらしいな。何かわかったか?」

「いえ、それはウソです」

「はっ? ウソ?」


 メルトがぱちぱちとまぶたを動かす。


「しかし、キナコがそう言ってたぞ」

「僕がキナコに頼んだんです。本当の目的が漏れたら、ドールズ教の信者に逃げられるかもしれないから」

「ドールズ教の信者? 信者が近くにいるのか?」

「はい。冒険者の中にいます」

「……はぁ? 冒険者の中に信者がいるって言うのか?」


 メルトの声を聞いて、周囲にいた冒険者たちが集まってきた。


「何を言ってる?」


 グレッグが眉を吊り上げて、僕に歩み寄った。


「そんなことあるわけがない! 俺たちは何度もアーマーゴーレムに襲われて、死にかけてるんだぞ」

「だから、みんな考えなかったんです。冒険者の中に信者がいることを」


 僕は冒険者たちを見回す。


「でも、信者がいれば、リーダーであるメルトさんを集中して狙うような指示をアーマーゴーレムに出せるし、ここで待ち伏せすることもできます。地底湖に向かうことは、みんなが知ってたから」

「……誰が信者なんだ?」

「それは……」


 僕はいびつな杖を持った少年に視線を向ける。


「君だよね? テト」


「……え?」


 テトがぽかんと口を開けた。


「僕がドールズ教の信者? な、何言ってるの?」


 テトは目を丸くして、後ずさりする。


「そんなことあるわけないだろ」


「そうだよ!」


 ライザが口を開いた。


「テトはFランクの冒険者で、まだ十五歳なんだよ」

「それは君がテトから聞いた情報だろ」


 僕はテトから視線を外さずに言葉を続ける。


「強く見せるのは難しいけど、Fランクのふりをするのは誰にでもできるからね。わざと攻撃をミスしたり、転んだりして」

「あ……」


 ライザは大きく開いた口に手を当てる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る