第82話 洞窟9
最後の一体のアーマーゴーレムをメルトが倒すと、周囲にいた冒険者たちが息を吐き出した。
僕も額に浮かんだ汗を拭って、荒い呼吸を整える。
なんとか倒せたけど、犠牲者も十人以上出たか。
僕は倒れている冒険者たちを見て、唇を強く噛む。
「ヤクモ」
Dランクのライザが近づいてきた。
「あなた、強いのね。一人で何体もアーマーゴーレムを倒してたでしょ」
「何度も戦ってアーマーゴーレムの動きがわかってきたから」
「アーマーゴーレムの動き?」
「うん。腕の攻撃範囲とか、光球を発射する前の手の動きとか、いつも同じだから。集団での連携のパターンも同じだよ。ただ……」
僕はグレッグと話しているメルトを見る。
「十体のアーマーゴーレムが一斉にメルトさんを狙ったんだ。今まで、そんな動きをしたことがなかったのに」
「それって、メルトさんがリーダーってわかってたってこと?」
「うん。そんな気がする」
「もし、そうなら……」
ライザの眉間にしわが寄る。
「ドールズ教の信者が近くにいて、アーマーゴーレムに指示を出していたんじゃないの?」
「その可能性は高いと思うよ」
僕は穴が開いた壁に視線を向ける。
穴の数は三十以上あるし、隠れて指示をすることはできるか。
僕は唇を噛んで、アーマーゴーレムの死体を見つめる。
アーマーゴーレムがリーダーであるメルトを狙う動きをしたのは事実だ。それまでは近くにいた冒険者を狙う戦い方をしていたのに……んっ?
「どうかしたの? 変な顔して」
ライザが僕の顔を覗き込んだ。
「……いや、ちょっと気になることがあって」
「全員、聞いてくれ!」
メルトが声をあげて、みんなを集めた。
「アーマーゴーレムの襲撃で十二人の犠牲者が出て、私たちの数は八十人になった。これ以上、犠牲者を出すことはできないので、全員で行動する」
「全員で出口を探すんですか?」
ライザが質問する。
「そうだ。効率が悪くなるが仕方ない」
メルトは壁際に並べられた冒険者たちの死体を見つめる。
「今から休憩を二時間取る。その後に出発だ。全員、準備をしておいてくれ」
メルトが離れると、冒険者たちが小さな声で話し始めた。
「後手に回ってるな」
「ああ。アーマーゴーレムがここを攻めてくるのは予想外だったんだろう」
「だが、犠牲は最小限に抑えられていると思うぞ。Sランクのメルトがいなかったら、俺たちは、とっくに全滅していただろう」
「でも、このままじゃ、どっちにしても全滅だわ」
「そうだな。出口が見つからなければ、食料がなくなって餓死することになる。水は地底湖があるからなんとかなるが……」
その言葉に冒険者たちの表情が暗くなる。
「ヤクモっ!」
ピルンが僕に駆け寄った。
「休憩だから、一緒に寝るのだ」
「いや、その前に、ピルンにお願いがあるんだ」
「わかったのだ」
ピルンは唇をすぼめて、僕に顔を近づける。
「こんな時にちゅーしたいなんて、ヤクモは大胆なのだ」
「いや、キスじゃないよ」
僕はピルンに突っ込みを入れながら、彼女の耳に口を寄せた。
◇ ◇ ◇
メルトはグレッグと会話をしていた。
「出口がありそうなのは地底湖があった場所だな。上部に裂け目も見えた」
「そう……ですね」
グレッグは地図を見つめる。
「たしかにこの辺りは調べていない通路も多くあります。それに靴跡もありました
し」
「ドールズ教の信者の靴跡の可能性があるか」
「はい。そして信者がいるのなら……」
「出口もあるか」
メルトはオレンジ色の髪に触れながら考え込む。
「……よし! まずは地底湖を目指す。全員に伝えておいてくれ」
「わかりました」
グレッグが離れると、キナコがメルトに声をかけた。
「メルト、一応、伝えておくぞ。俺たちのパーティーのヤクモとピルンは別行動している」
「別行動?」
メルトは首をかしげる。
「どういうことだ?」
「前に倒したアーマーゴーレムが気になるので調べたいと言ってたな」
キナコは白い爪で頭をかく。
「まあ、あの二人なら問題ない。アルミーネが遠話の魔道具も渡しているから、離れていても連絡は取れる。後から合流できるだろう」
「……そうか。たしかにヤクモは強かったからな。Bランク程度の力はあるようだ」
「Bランク程度か」
キナコはふっと笑った。
「お前もヤクモをわかってないな」
「わかってない?」
「そうだ。ヤクモの強さはSランク……いや、もしかしたら、十二英雄レベルかもしれない」
「……ほぉ。『魔族殺しのキナコ』が、そこまでヤクモを認めているとはな」
メルトは自分の腰ほどしかないキナコを見つめる。
「しかし、それなら、Aランクのお前よりもヤクモが上になるぞ」
「もう、そうなっているかもしれん。単純な白兵戦なら俺のほうが上だが、ヤクモは紙が使えるからな」
「たしかにヤクモは紙を目くらましに使って、アーマーゴーレムを倒していたな。あの技は見事だった」
メルトは頭をかいた。
「まあ、強い者が仲間にいるのは有り難い。まだ、多くのアーマーゴーレムがいるかもしれないからな」
「……そうだな」
キナコは休憩を取っている冒険者たちを見回した。
◇ ◇ ◇
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