第81話 洞窟8

 その後、僕たちは次々とアーマーゴーレムを倒し続けた。


 ランクの高い冒険者を選別しただけあって、僕たちが不利になった戦いはなかった。


 炎龍の団の団員の連携は完璧だったし、他の冒険者たちも強い。

 僕も魔喰いの短剣メインで戦って、【紙使い】のスキルはほとんど使わなかった。


 休憩中、左右の壁が広がった通路でメルトが僕に声をかけた。


「ヤクモ、さっき、君がアーマーゴーレムを倒した短剣を見せてくれないか?」

「あ、これですか」


 僕はメルトに魔喰いの短剣を渡した。

 その短剣の刃をメルトはじっと見つめる。


「……なるほど。魔力を注ぎ込んで威力を上げる短剣か」

「はい。アルミーネが作った武器です」


 僕はピルンといっしょに水を飲んでいるアルミーネを指さす。


「すごく使い勝手がいい武器で助かってます」

「だが、この武器、大量の魔力が必要だな」


 メルトの持っている魔喰いの短剣の刃が数センチ伸びる。


「君は【魔力強化】の戦闘スキルを持っているのか?」

「……いえ、ユニークスキルの【魔力極大】です」


 僕は正直に答えた。


「はぁ? 【魔力極大】?」


 メルトのダークグリーンの目が丸くなった。


「【魔力極大】は伝説の大魔道師カイトが持ってたユニークスキルじゃないか?」

「はい。アルミーネが水晶玉で鑑定してくれたから間違いないです」

「では、君の基礎魔力はいくつなんだ?」

「……730万マナです」

「なっ……730万っ?」


 メルトは僕に顔を近づける。


「常人の三千倍以上ではないか」

「ええ。だから、魔喰いの短剣との相性がいいんです。大量の魔力を使えるから」

「そう……だろうな。それに高位の攻撃魔法を連打することもできる」

「それは無理です」


 僕は首を左右に振った。


「僕のもう一つのユニークスキル【紙使い】の影響で、通常の魔法を使う時に悪影響が出るんです。詠唱も時間がかかるし、威力も大きく減るから」

「そうか……んっ、もう一つのユニークスキル?」

「はい。僕は二つのユニークスキルを持ってるんです」

「そんな人族がいるとは聞いたことがないが……君がウソをついているようには見えんしな」


 メルトは頭をかく。


「キナコが君を認めている理由がわかったよ」

「メルト様!」


 女の団員がメルトに駆け寄った。


「グレッグ様より遠話で連絡が入りました。拠点がアーマーゴーレムに襲われているようです」

「なんだとっ!」


 メルトの声が大きくなった。


「戦況は?」

「最初はアーマーゴーレムの数が少なく、なんとか撃退していたのですが、今は数が多く苦戦しているようです」

「わかった。全員、戻るぞ!」


 僕たちは休憩を中止して、走り出した。


 多くの穴が開いている円形の場所に戻ると、冒険者たちが三十体以上のアーマーゴーレムと戦っていた。


「全員でアーマーゴーレムを倒すぞ!」


 メルトが叫ぶと、僕の周りにいた団員たちが気合の声をあげる。

 視線を動かすと、アーマーゴーレムと戦っているアルベルたちの姿が見えた。

 アルベルはロングソードを振り回しているが、アーマーゴーレムにダメージを与えていない。


 僕は魔喰いの短剣を握り締め、アーマーゴーレムに突っ込んだ。

 アーマーゴーレムは手のひらをアルベルに向ける。


 光球を発射するつもりか。


 僕は意識を集中する。


「『魔防壁強度七』!』


 アルベルの前に金属の性質を持つ紙の壁が現れた。その壁がアーマーゴーレムから発射された紫色の光球を弾いた。


「ゴ……ゴゴ……」


 アーマーゴーレムは右手を大きく振り上げる。


 その前にっ!


 僕は側面からアーマーゴーレムに近づき、魔喰いの短剣を突き出した。

 青白い刃が長く伸び、その先端が釣り針のように曲がる。尖った先端がアーマーゴーレムの口の中に入り、赤い宝石を砕いた。


「ゴッ……」


 アーマーゴーレムは前のめりに倒れる。


「あ……」


 アルベルたちは、ぽかんと口を開けて僕を見つめる。

 三人とも……ケガはしてないみたいだな。

 周囲を見回すと、十体のアーマーゴーレムたちが一斉にメルトに襲い掛かった。長い腕を振り回し、メルトを壁際に追い詰める。


 んっ? メルトを狙っているのか。


 それなら――。


 僕はアルベルたちから離れて、メルトを狙っているアーマーゴーレムに突っ込んだ。

 アーマーゴーレムは後ろから近づく僕に気づいていない。


 僕は意識を集中させて、魔喰いの短剣に大量の魔力を注ぎ込む。青白い刃の先端が針のように細くなった。その刃を力を込めて突き出す。

 尖った刃がアーマーゴーレムの後頭部と首の間の小さな隙間に入り込む。

 ガラスの割れるような音とともり、赤い宝石の欠片が地面に落ちる。


 アーマーゴーレムが倒れると、周囲にいた他のアーマーゴーレムたちの視線が僕に向いた。


「いいぞ、ヤクモ!」


 メルトは倒れたアーマーゴーレムの体を足場にして高くジャンプした。腰を大きく捻って、青白い刃が突き出た右足で蹴りを放つ。

 アーマーゴーレムの口の部分が斬れ、宝石が砕ける音がした。


 地面に着地したメルトに別の二体のアーマーゴーレムが襲い掛かる。


「ヤクモ、一体はまかせる!」

「わかりました!」


 メルトに返事をしながら、僕は右にいたアーマーゴーレムの前に数十枚の紙を具現化した。

 アーマーゴーレムは僕の姿を見失って、動きを止める。


 僕は意識を集中させて、宙に浮かんだ紙を一枚だけずらす。

 数センチの隙間ができて、そこにアーマーゴーレムの口が見えた。その隙間めがけて、魔喰いの短剣を突き出した。尖った先端が赤い宝石を砕いた。


 視線を動かすと、メルトも左にいたアーマーゴーレムを倒していた。


「メルト様!」


 グレッグがメルトに走り寄った。


「助かりました。これで、こっちが攻めに転じることができます」

「ああ。一気にアーマーゴーレムを全滅させるぞ!」

「おおーっ!」


 炎龍の団の団員たちが声をあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る