第80話 洞窟7
一時間の休憩の後、僕たちはアーマーゴーレムを倒すために動きだした。
パーティーのメンバーは、僕、アルミーネ、ピルン、キナコ、メルト、そして炎龍の団の団員が六人、それ以外の冒険者が三人の十四人編成になった。
数十分ほど進むと、開けた場所に出た。
その場所は大きな岩が転がっていて、左右の壁から白く輝く水晶が突き出ていた。
数十メートル先にアーマーゴーレムが四体いるのを見て、メルトのオレンジ色のしっぽが逆立った。
「……四体か。ならば、お前たちは手を出さなくていいぞ」
メルトは腰に提げていた二つの短剣を手に取った。その短剣の刃が赤く輝いている。
火属性の魔法剣か。柄の部分に太陽石を埋め込んで、魔力を増幅してる。相当高価な武器だな。
メルトは真っ直ぐアーマーゴーレムに近づいていく。
「ゴ……ゴゴ……」
四体のアーマーゴーレムがメルトに気づいた。
先頭にいたアーマーゴーレムが巨体を揺らして、メルトに駆け寄る。太くて長い腕が斜めに振り下ろされた。
メルトはその攻撃を左手の短剣で受けた。
ドンと大きな音がして、メルトの両足が地面にめり込む。
僕は口を半開きにして、メルトを凝視する。
アーマーゴーレムの攻撃を片手で止められるのか……。
「この程度か」
メルトはダークグリーンの目でアーマーゴーレムをにらみつける。
「リッケル……ジム……タッカス……ユーリ……。霊界から見ていろ。お前たちを殺したアーマーゴーレムが無惨に壊れるところを!」
「ゴゴ……」
アーマーゴーレムは左手を開いた。手のひらに開いた穴から紫色に輝く光球が発射される。
「遅いっ!」
メルトは首を捻って光球をかわし、伸びたアーマーゴーレムの腕を関節部分から斬った。
「ゴ……ゴゴ……」
アーマーゴーレムは逆の手でメルトを叩き潰そうとする。メルトは素早く下がって、その攻撃を避けた。
アーマーゴーレムの手が地面にぶつかり、小石が飛び散る。
メルトはその手に飛び乗り、左手の短剣でアーマーゴーレムの口の中にある赤い宝石を狙った。
アーマーゴーレムの口が閉じたが、メルトは攻撃を止めなかった。そのまま、短剣を突き出す。
赤く輝く刃がアーマーゴーレムの口を貫いた。
ガラスが割れるような音とともにアーマーゴーレムの巨体が倒れる。
左右から二体のアーマーゴーレムがメルトに攻撃を仕掛けた。
「今度は二体か……」
メルトは両足を軽く開いて、不敵な笑みを浮かべた。メルトの黒色のブーツの先端から青白い刃が突き出た。
「痛覚がなくてよかったなっ!」
メルトはアーマーゴーレムの腕を避けながら、蹴りを放つ。青白い刃がアーマーゴーレムの手首を斬った。
金属音とともに太い手が地面に落ちる。
「まだまだっ!」
メルトは右足の刃でアーマーゴーレムの足を斬り、さらに左右の短剣で鎧を斬る。
二体のアーマーゴーレムがバランスを崩して倒れた。
メルトは倒れたアーマーゴーレムの口に短剣を突っ込み、赤い宝石を割った。
「ゴオオオッ!」
最後の一体のアーマーゴーレムがメルトに突っ込んでくる。
メルトはぐっと腰を落とし、唇を強く結ぶ。
メルトの体が一瞬でアーマーゴーレムの背後に移動する。
「『烈風千撃』!」
アーマーゴーレムが振り向いた瞬間、メルトの体が竜巻のように回転した。
赤色と青色の刃がアーマーゴーレムの体を細切れにする。
「強い……」
僕は半開きになっていた唇を動かした。
アーマーゴーレム四体を一分もかからずに倒してしまった。
しかも、最後の技は剣筋が見えなかった。あれを避けることができる者は、ほとんどいないだろう。
「さすが四刀流のメルトだな」
キナコが胸元で腕を組む。
「パワーとスピードが圧倒的な上に攻撃も変則的で避けにくい。戦う側からしたら、やっかいな相手だろう」
「そうだね。もし、相手が人族なら、最初の一撃を避け損なっただけで勝負がつくし」
僕は細切れになった青黒い鎧を見つめる。
十二英雄のシルフィールは魔法戦士で、攻撃魔法と武器で戦っていた。メルトは攻撃魔法を使わずに、基礎魔力を身体強化に回しているだろう。【腕力強化】や【スピード強化】の戦闘スキルも持っているはずだ。
やっぱり、Sランクは違うな。
「よし! 次の場所に移動するぞ」
メルトは地図を見ながら言った。
「まずは全てのアーマーゴーレムを私たちが倒す。その後に出口探しだ!」
「メルト様」
炎龍の団の団員の男がメルトに近づいた。
「次は俺にやらせてください。リッケルは俺のダチでしたから」
「……そうだったな。ダラス」
メルトは男――ダラスの肩に触れる。
「わかった。次のアーマーゴーレムはお前たちに譲ろう。ただ、油断はするなよ。奴らの攻撃を避け損なったら、死ぬと考えておけ」
「ええ。すぐに死んだら、霊界でリッケルに何て言われるかわかりませんからね。絶対に死ねませんよ」
ダラスの言葉に背後にいた他の団員たちも大きくうなずいた。
◇ ◇ ◇
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