第79話 洞窟6
十分ほど入り組んだ通路を進むと、先頭を歩いていたテトの足が止まった。
「あれ? ここでリッケルさんが殺されたんだけど……」
「おいっ! 何もないぞ」
メルトが視線を動かす。
「メルト様!」
近くにいた団員が口を開いた。
「この下に……リッケルがいます」
団員は震える手で深い穴を指さした。
僕たちは穴に近づき、下を覗き込む。
頭部から血を流して倒れているリッケルが見えた。
アーマーゴーレムに投げ込まれたのか?
僕は唇を強く噛む。
「リッケルさんはアーマーゴーレムの攻撃を避け損なったんだ」
隣にいたテトの声が耳に届いた。
「すごく大きいのにスピードが速くて……」
「……リッケル」
メルトの瞳が揺らいだ。
「お前……生まれたばかりの子供がいるのに、何をやってるんだ」
その言葉を聞いて、周囲にいた団員たちがすすり泣く。
僕はまぶたを閉じて、呼吸を整える。
Bランクの冒険者でも、ちょっとしたミスが命取りになる。アーマーゴーレムのパワーはオーガ以上だから、なおさらだ。
その時、通路の奥からライザが姿を見せた。その隣には炎龍の団の団員もいる。
「ライザっ!」
テトがライザに走り寄った。
「よかった。逃げられたんだね」
「うん。でも、炎龍の団の団員がアーマーゴーレムに殺されて……」
「ジムとタッカスがやられました」
ライザの隣にいた団員が小さな声で言った。
「ぐっ……」
メルトはまぶたを強く閉じて、天を仰いだ。
その後、僕たちは穴がたくさんある円形の場所に戻った。
他のパーティーも戻ってきて、全員で今後のことを話し合うことになった。
「まずは被害状況から伝える」
副リーダーのグレッグが口を開く。
「アーマーゴーレムに殺された者は十三人、四人が行方不明になっている」
「行方不明って何だよ?」
アルベルが質問した。
「連絡が取れなくなっているということだ。その四人はパーティーだから、多分全員殺されたんだろう」
グレッグの言葉に冒険者たちの顔が強張る。
「現在、ここには九十二人の冒険者がいる。その中でランクが高い者を選び、新たにパーティーを組む。そのパーティーでアーマーゴーレムを倒していくのが大まかな作戦だ」
「俺もそのパーティーに入れるのか?」
「……君はダメだ。Eランクだからな」
グレッグはきっぱりと答えた。
「新しいパーティーはCランク以上の者で組む。残りはそのサポートだ。無意味に死なせるわけにはいかないからな」
「待ってくれ!」
アルベルはグレッグの前に立った。
「俺はEランクだが、戦闘スキルを三つも持ってるんだ。だから、実力はCランク以上はあるはずだ」
「ダメだ! 今回、例外は二人だけと決めているからな」
「例外?」
「ああ。Dランクで狂戦士のピルンとEランクのヤクモだけは新たに組むパーティーに入ってもらう」
「ヤクモが?」
アルベルは驚いた顔で僕を見た。
「どうして、ヤクモが例外になるんだよ?」
「Aランクのキナコがヤクモを推薦したからだ」
グレッグが言った。
「それにヤクモはキナコたちといっしょにアーマーゴーレムを十体も倒している。ならば問題ないだろう」
「それは魔族殺しのキナコがパーティーの中にいたからだろ!」
アルベルは茶色の眉を吊り上げる。
「俺のほうがヤクモより戦闘力が上なんだ!」
「そうよ」とカミラが言った。
「私だって、Cランクの魔道師レベルぐらいの魔法は使えるから」
ダズルも口を開く。
「ヤクモは紙を具現化することしかできないんだ。そんな奴より、複数の戦闘スキルを持ってる僕たちを新しいパーティーに入れるべきだよ」
「……君たちは聖剣の団の新人だったな?」
グレッグの質問にアルベルたちがうなずく。
「そうか。ならば、君たちに才能があるのは間違いないだろう。だが、今回はサポートに回ってもらう」
「何でだよっ!」
アルベルが荒い声を出した。
「俺たちはヤクモより実力があるって言ってるだろ!」
「そうかもしれんが、君たちには欠点があるからな」
「欠点?」
「そうだ。君たちは自信過剰で手柄を上げたいと思う気持ちが強すぎる」
「自信過剰だとっ!」
「ああ。そういう者はミスを起こす可能性が高い」
「俺たちはミスなんてしない!」
「そうか? 洞窟の罠にかかった原因の一つは君の仲間がニセの情報を伝えたからだと思っているのだが」
その言葉にダズルの顔が歪んだ。
「とにかく、君たちはサポートの仕事をしっかりとやってもらいたい。そっちも重要だぞ」
「……ちっ!」
アルベルは舌打ちをしてグレッグに背を向けた。
アルベルたちは相変わらずだな。
僕はため息をついた。
三人とも才能があって、戦闘力が高いのは間違いない。
でも、パーティーでの戦い方はいまいちだ。ただ、目の前の敵を倒そうとするだけで、戦況の確認もできていない。
アルベルたちは不満だろうけど、グレッグの判断は正しいと思う。
アーマーゴーレムとの戦いは、一瞬のミスが命取りになるんだから。
僕は穴の中で死んでいたリッケルの姿を思い出した。
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