第70話 ドールズ教

 数時間後、僕たちはガホンの森の北側を移動していた。


 森の中は薄暗く、どこからか鳥の鳴き声が聞こえている。空気は冷えていて、少し湿り気を感じる。多分、近くに水場があるんだろう。


 先頭を歩いていたピルンが足を止めた。


「ヤクモ、神殿はどのぐらい大きいのだ?」

「それはわからないよ」


 僕は周囲を見回しながら、口を動かした。


「ただ、洞窟みたいな地下にあるんじゃないかな。地上にあったら、とっくに見つかってるだろうし」

「じゃあ、洞窟の入り口を探せばいいのか?」

「そうだね。でも、入り口は隠されてると思うよ。森の中だから、岩や草木で隠せば見つけるのは難しいし」

「なら、ピルンたちが見つければ、大手柄になるのだ!」


 ピルンの紫色の瞳が輝く。


「神殿を見つけて、ピルンのすごさを証明するのだーっ!」


「頑張ってね。ピルン」


 アルミーネが笑いながら言った。


「私たちのパーティーがどんどん実績を上げれば、国に認められて『混沌の大迷宮』に入れるようになるから」

「まかせておくのだ。アルミーネの願いはピルンが叶えてあげるのだ」


 ピルンはポンと自身の胸を叩いた。


その時――。


 アルミーネの後方にある茂みが微かな音を立てた。


 視線を動かすと、茂みの奥に黒い服を着た男がいた。

 男はアルミーネに向かってナイフを投げる。


 ドールズ教の信者かっ!


 僕は意識を集中させて、手のひらサイズの強化した紙を数枚具現化した。

 その紙にナイフが当たり、甲高い音を立てる。


 僕と同時に信者に気づいたキナコが茂みに突っ込んだ。


「くうっ!」


 信者は腰に提げた短剣を引き抜き、キナコに振り下ろす。


「遅いっ!」


 キナコは一瞬で信者の側面に回り込み、ピンク色の肉球で脇腹を叩いた。

 ドンと大きな音がして信者が飛ばされる。

 信者の体が木の幹に当たり、そのまま地面に倒れた。


「アルミーネっ! 拘束具はあるか?」

「う、うん」


 アルミーネは魔法のポーチから青い紐を取り出して、キナコに渡した。


 キナコはその紐で信者の手足を拘束する。


「ありがとう、ヤクモくん」


 アルミーネが僕に礼を言った。


「私、狙われてることに気づいてなかったよ」

「いや。君を守るのが僕の役目でもあるから」

「守る……」


 アルミーネの頬が少し赤くなった。


「ヤクモくん……」

「んっ? どうかしたの?」

「あ、ううん。何でもないよ」


 アルミーネは僕から顔をそらす。


「そっ、そうだ。信者を見つけたことを炎龍の団に報告しないと」


 僕に背を向けて、アルミーネは遠話の魔道具を使用した。

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