第71話 狂信者
一時間後、僕たちは炎龍の団と合流した。
「早速、狂信者どもが動いたか」
炎龍の団の副リーダー、グレッグが拘束された信者を見下ろして言った。
グレッグは三十代半ばの男で身長が百八十センチを超えていた。がっちりとした体格で魔法の鎧を装備している。太いベルトにはAランクの証である銀色のプレートがはめ込められていた。
「よくやってくれた。君たちを警戒地域に配置しておいたのは正解だったな」
「警戒地域?」
アルミーネが首をかしげた。
「ああ。この辺りは洞窟が多いからな。信者の目撃情報もあった。そういう地域には強いパーティーを配置するようにしてたんだ」
グレッグはちらりとキナコを見た。
「このパーティーにはAランクのキナコがいるし、君はCランクの冒険者だが、上級の錬金術師の資格も持っているからな」
「ちゃんと調べてるんですね」
「もちろんだ。ヤクモのパーティーを今回の作戦に加えたのは、ラックスを見つけてくれた礼のつもりだったが、ここまで仲間が実力ある者たちだったとはな。予想外の幸運だ」
「ヤクモくんも強いですよ」
「ん? ヤクモはEランクだろ?」
「それでもヤクモくんは強いんです。うちのパーティーの要ですから」
「……ほぅ」
グレッグは値踏みするかのように僕を見つめる。
「君は戦闘スキルを持っているのか?」
「いえ。ユニークスキルだけです」
僕はグレッグの質問に答える。
「紙を具現化する能力ですけど」
「……かっ、紙か。それはまた……珍しい能力だな」
グレッグの頬がぴくぴくと動く。
やっぱり、紙の具現化の能力はいまいちと思われるな。それは仕方のないことかもしれない。
Sランクのキルサスだって、全く認めてくれなかったし。
「とにかく、この信者が神殿の場所を知ってるかもしれない」
「残念だが……」
捕らわれていた信者が口を開いた。
「俺は神殿の場所を知らん。だから、攻撃をまかされたんだ」
「……なるほど。雑魚ってことか」
グレッグは冷たい視線を信者に向ける。
「だが、尋問はさせてもらうぞ。その言葉がウソかもしれないからな」
「好きにしろ……と言いたいところだが、お前たちにつき合う理由がないからな」
信者は素早く呪文を唱えた。
「貴様っ!」
グレッグは右手で信者の首を掴み、呪文を止めた。
「この状況で逃げられると思っているのか」
「……逃げる気など……ない……があっ!」
突然、信者の目と口から血が流れ出し、体が小刻みに痙攣した。
「邪神ドールズ様……最後に我が肉体を捧げ……」
信者は言葉を言い終える前に絶命した。
「毒か……」
キナコがぼそりとつぶやいた。
「あらかじめ体に毒を仕込んでおいて、簡単な呪文で自死できるようにしていたんだろう」
「そんなことまでするのか……」
僕の口から掠れた声が漏れる。
ドールズ教の信者は組織的に行動して、多くの人々を殺している。だから、捕まると死刑になることが多い。
だけど、自分で死を選ぶなんて。
「狂信者の考えなど、常人にはわからん」
僕の考えが読めたかのように、キナコが言った。
「ただ、自分の死を恐れていない者と戦う時は注意しろよ。予想外の攻撃を仕掛けてくる場合もあるからな」
キナコの忠告に僕は首を縦に動かした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2024年2月29日、この小説の2巻が発売されます。
タイトル:「雑魚スキル」と追放された紙使い、真の力が覚醒し世界最強に ~世界で僕だけユニークスキルを2つ持ってたので真の仲間と成り上がる~ 2
出版社:双葉社(Mノベルス) 作者名:桑野和明
応援してやるか、と思った方は、ぜひ、購入よろしくお願いいたします。
今回の話の続きがすぐに読めて、書き下ろし小説もあります。
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