第69話 炎龍の団のリーダー

 その時、周囲にいた冒険者たちが騒ぎ始めた。


 僕の視界にこっちに近づいてくる冒険者たちが見える。数は八十人ぐらいで、全員が魔法の武器を装備している。


 さすが実力ナンバー1の炎龍の団だな。Cランク以上の団員が多いし、表情や歩き方からも強さが滲み出ている。


 それに――。


 僕は先頭を歩いているメルトを見つめる。

 オレンジ色の髪をなびかせて大股で歩く彼女の姿は輝いているように見えた。


「『四刀流のメルト』か」


 隣でキナコがぼそりとつぶやいた。


「四刀流?」

「ああ。メルトのブーツには仕掛けがあってな。先端から火属性の刃が突き出るようになっている。これで両手の短剣と合わせて四つだ」

「足って、そんな戦い方ができるの?」

「できるから、メルトはSランクなんだ。まあ、味方にいれば頼りになる存在ではあるな」

「そう……だよね」


 メルトは僕たち冒険者の前で足を止め、真一文字に結んでいた唇を開いた。


「勇敢なる冒険者の諸君。今回の依頼を受けてくれて感謝する!」


 凜としたメルトの声が響いた。


「君たちにはドールズ教の神殿の捜索をしてもらうことになる。パーティーごとに探す地域を決めてあるので、見逃しのないように頼む」


「メルトさんよぉ」


 四十代の体格のいい男が口を開いた。


「神殿があるってことは、信者も多く集まってるよな? 大規模な戦闘になる可能性はあるのか?」

「ある……と思ってもらったほうがいいな」


 メルトは冒険者たちを見回しながら答えた。


「ドールズ教の信者の中にも戦闘に長けた者がいるのは間違いない。炎龍の団の団員も最近三人殺されたし、向こうから攻めてくるかもしれない」


 その言葉に冒険者たちの表情が引き締まる。


「だが、こちらも荒事に強い団員八十人を用意した。仮に戦闘になっても、私たちが前線で戦う。君たちはサポートに徹してくれればいい」


「なるほどな。まあ、Sランクのあんたがいれば安心か」


 男は頭をかく。


「では、ガホンの森の詳細な地図を渡す。パーティーのリーダーは取りにきてくれ」


 メルトがそう言うと、隣にいた若い男が魔法のポーチから数十枚の地図を取り出した。


 パーティーのリーダーらしき冒険者たちが地図を取りに行く。


「これは楽な仕事になりそうなのだ」


 ピルンが言った。


「ドールズ教の信者が強くても、炎龍の団の団員のほうがもっと強いからな。それにリーダーのメルトは二つ名持ちのSランクなのだ」

「でも、油断はしないほうがいいよ」


 僕は森に視線を向ける。


「ガホンの森は広いし、神殿探しはパーティーでやるみたいだから。奇襲されたら、炎龍の団に連絡する時間はないし」


「そうだな」


 キナコがうなずいた。


「Sランクの冒険者が格下の相手に奇襲されて殺されることもある。相性の差で殺されることもある。最強がいつも勝つわけじゃないことは覚えておくことだ」


 最強がいつも勝つわけじゃない……か。


 キナコの言う通りだな。一瞬の判断ミスで強者が死ぬことはある。運命の神ダリスはきまぐれだから。


 僕は炎龍の団の団員から地図を受け取っているアルミーネを見つめる。

 アルミーネはCランクの冒険者で上級の錬金術師でもある。素材を利用して高位魔法を使えるし、回復魔法の質も高い。でも、白兵戦は得意じゃない。


 ピルンとキナコは基本攻撃担当だし、僕がアルミーネを守らないと。

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