第63話 ソロの仕事2
その時、木の陰から少年が姿を見せた。
少年は十代半ばぐらいで、華奢な体格をしていた。背は百六十センチちょっとで髪は黒髪、色白の肌をしている。服は濃い緑色で、いびつに歪んだ杖を持っていた。
「あ……やっと見つけた」
少年はほっとした表情でライザに近づく。
「待ち合わせ場所にいないから探したよ……んっ?」
少年の視線が僕に向けられる。
「この人は?」
「Eランク冒険者のヤクモ。ソロで素材探しをやってたみたい」
ライザが答えた。
「で、テト。『甘香草』は見つかったの?」
「依頼分の十束は見つけたよ……うわっ!」
少年――テトが死体に気づいて大きな声をあげた。
「な、何これ?」
「冒険者の死体よ。見てわかるでしょ」
「い、いや。そういうことじゃなくて、どうして死んでるの?」
「ドールズ教の信者に殺されたみたい」
「ドールズ教って……」
テトは口元を押さえて、死体を覗き込む。
「この近くにドールズ教の信者がいるってこと?」
「今はわからないけど、何時間か前にはいたんでしょうね」
「それって、危険ってことだよね?」
「ええ。信者が一人だけじゃないかもしれないし」
「それなら、もう帰ろうよ。ライザも白銀狼を三匹も倒したんだろ。二人パーティーなら十分な成果だよ」
テトが心配そうな顔で周囲を見つめる。
「とにかく、タンサの町に戻ろうよ」
「……そうね」
ライザは視線を僕に向けた。
「ねぇ、ヤクモ。あなたの依頼は終わってるの?」
「うん。一応」
僕はライザの質問に答えた。
「なら、いっしょにタンサの町に戻らない? あなただって、Dランクの私がいたほうが安心でしょ?」
「そうだね。冒険者ギルドに死体のことも報告しないといけないし」
「じゃあ、決まりね。あなたも私が守ってあげるから」
ライザはぐっと親指を立てた。
ライザとテトは最近パーティーを組んだらしい。
ライザは戦士で【体力強化】のスキルを持っている。テトは魔道師で水属性の魔法が使える。
ライザが言うには、テトはまだ戦闘に慣れてないけど、将来性はあるらしい。
テトが強くなれば、戦士と魔道師で相性もいいし、さらに人数が増えれば、強いパーティーになるかもしれない。
「ねぇ、ヤクモ」
僕の後ろを歩いていたライザが垂直の崖を指さした。
「ここ、行き止まりじゃないの?」
「いや、大丈夫だよ」
僕は意識を集中させて、紙の足場を具現化した。
「これで崖の上まで行けるから」
ライザとテトの目が丸くなった。
「へーっ、これがあなたの能力なんだ」
ライザは一段目の紙の足場に乗って、軽くジャンプする。
「いいユニークスキルね。移動に役立ちそう」
「……うん。すごいよ、これ」
テトが紙の足場に触れる。
「こんなスキル、初めて見た」
「そうね。戦闘向けじゃないけど、いろいろ使えると思う」
ライザの言葉に僕は頭をかいた。
やっぱり、紙を具現化する能力って戦闘向けじゃないと思われるよな。でも、それが普通の反応だろう。聖剣の団のリーダーでSランクのキルサスだって、【紙操作】のユニークスキルを雑魚スキルと思っていたし。まあ、あの頃は【魔力極大】のユニークスキルがなかったからってこともあるけど。
僕たちは紙の足場をジャンプしながら、崖の上に移動した。
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