第61話 孤児院

 二日後、僕はタンサの町の北地区にある孤児院に向かった。


 その孤児院は僕が育った孤児院だ。


 古びた門から中に入ると、幼馴染みのリリスが僕に駆け寄ってきた。

 年齢は僕と同じ十六歳、ロングの髪は淡い金色で、つぎはぎだらけのクリーム色の古着を着ている。


「ヤクモくん! 何それ?」


 リリスは僕が持っていた紙袋を指さす。


「クッキーだよ。中央地区の菓子屋で買ってきたんだ。みんなで食べて。リリスも甘い物大好きだろ」

「うん。ありがとう」


 リリスは青い瞳を輝かせて、紙袋を受け取る。


「でも、中央地区のお菓子屋さんって高いよね? こんなにいっぱい大丈夫なの?」

「高い報酬が手に入ったからね。今日は寄付も多くできるよ」

「……また、危険な仕事をしてたの?」


 リリスの眉が眉間に寄る。


「うん。ドラゴン退治だから、危険ではあるかな」

「ドラゴン退治?」

「うん。ニードルドラゴンだよ」


 僕はリリスの質問に答えた。


「危険なドラゴンだけど、僕たちのパーティーは仲間が強いから」

「……それならいいけど……無理はしたらダメだよ」

「わかってる。リリスは心配性だな」


 僕は笑顔でリリスの肩に触れた。


「で、フローラ院長はいる?」

「ううん。ガノック男爵のところに行ってるよ」

「ガノック男爵って、孤児院の地主の?」

「……うん」


 リリスの表情が曇った。


「あのね。この前、ガノック男爵が孤児院の家賃を上げるって言ってきたの」

「家賃を上げる?」

「そう。一年で大金貨一枚分増やすって」

「えっ? そんなに?」


 僕は驚きの声をあげた。


「突然、上げすぎじゃないかな」

「うん。だから、フローラ院長は交渉に行ったの。もっと安くして欲しいって。でも……」


 数秒間、リリスの言葉が途切れた。


「多分、無理だと思う。ガノック男爵は孤児院を潰したいから」

「どうして?」

「この土地に新しい屋敷を建てたいみたい。息子さんが結婚するみたいだから」

「……そうか。それで家賃を上げたんだね。家賃が払えなければ、合法的に孤児院を潰せるから」


 僕は古い孤児院を見上げる。


 壁の一部にひびが入っていて、窓から見えるカーテンは色褪せていた。

 フローラ院長は頑張ってるけど、孤児院の運営にはお金がかかる。それなのに家賃が値上げになるなんて。


 僕は魔法のポーチから大金貨を二枚取り出し、リリスに渡した。


「これ、フローラ院長に渡しておいて」

「えっ? 大金貨二枚?」


 リリスの目が丸くなった。


「こんなにいっぱい寄付してくれるの?」

「うん。フローラ院長に伝えて。また、寄付をしにくるって」


 僕は唇を強く結ぶ。


 もっと、お金を稼ごう。そして、この孤児院を僕が守るんだ!

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