第60話 夜の草原の戦い2

「やったのだーっ!」


 ピルンが僕に抱きついてきた。


「魔王より強いニードルドラゴンを倒したのだ!」

「いや、魔王よりは強くないよ」


 僕はピルンに突っ込みを入れる。


「でも、殺傷力の高いニードルドラゴンを倒せたのはすごいことだと思う。トゲと青い炎の攻撃で殺された冒険者は多いから」


「そうだな」


 キナコがピンク色の肉球でニードルドラゴンの頭部に触れる。


「こいつの討伐に十人組のパーティーが失敗して複数の死者も出ている。それを俺たちは四人で倒した。しかも、ケガ人を出すこともなく」


 キナコが視線を僕に向けた。


「やはり、お前のユニークスキルは役に立つな。紙の壁で仲間を守ることもできるし、いろんなパターンの紙の攻撃も強力だ。しかも、【魔力極大】のおかげで、とんでもない量の紙を出せる。Eランクの冒険者とは思えないぞ」


「ヤクモくんはAランク以上の実力があるからね」


 アルミーネが僕の肩を軽く叩く。


「もしかしたら、Sランクレベルかも」

「そんなことないって」


 僕は首を左右に振る。


「SランクやAランクは才能ある人たちばかりだから。冒険者になって一年も経っていない僕とは違うよ」


「いや、そうでもないぞ」


 キナコが言った。


「ヤクモの強さは変則的だが、Aランク冒険者より上に思える。正直、こいつがSランクの証である金色のプレートをつけていても驚くことはないな」

「だよね」


 アルミーネがうんうんとうなずく。


「ヤクモくんがパーティーに入ってくれて本当によかったよ。おかげでニードルドラゴンも倒せたし、報酬と素材込みで大金貨十枚以上にはなると思うよ」


「大金貨十枚かっ!」


 ピルンが紫色の瞳を輝かせた。


「天文学的数字なのだ」

「いや、そこまで大きな数字じゃないよ」


 アルミーネが手の甲でピルンの腕を叩く。


「まあ、今回は錬金術の素材もあまり使ってないし、一人大金貨二枚は渡せると思うよ」

「それだけあれば、黄金牛のステーキがいっぱい食べられるのだ」


 ピルンは口元に垂れたよだれを拭う。


 その仕草を見て、僕の頬が緩んだ。

 ピルンのお金の使い道は食べ物か。ピルンらしいな。


「じゃあ、ニードルドラゴンを回収して、エジン村に戻ろうか。村長に依頼完了の報告もしないといけないしね」


 アルミーネはそう言うと、収納用のマジックアイテムの箱を手に取った。

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