第55話 仲間たち

 三日後、僕はアルミーネの家で金貨七枚を受け取った。


「ごめんね。経費が増えたから、報酬が少なくなったの」


 アルミーネが胸元で両手を合わせて謝った。


「魔炎爆弾を使っちゃったし、回復薬も全部なくなったから」

「問題ないよ。そのおかげで僕たちは生きて戻れたんだし」


 僕がそう言うと、隣にいたキナコが口を開く。


「錬金術師がパーティーにいれば、経費が増えるのは当たり前だ。だが、その分、安全になるからな」

「ピルンも問題ないのだ!」


 ピルンが右手を上げる。


「これだけあれば、美味しいものがいっぱい食べられるのだ」

「みんな、ありがとう」


 アルミーネは僕たちに頭を下げた。


「で、その代わりってわけじゃないけど、私たちのパーティーの評価が相当上がったみたいよ」

「ダグルードを倒したから?」


 僕の質問にアルミーネがうなずく。


「それが一番の要因ね。あの魔族は相当強かったから」

「シルフィールさんがいてくれて助かったよ。彼女がいなかったら、ダグルードは倒せなかったと思う」


 僕の脳裏にダグルードの姿が浮かび上がる。


 本当に強い魔族だった。一歩間違えていたら、僕たちは全員殺されていただろう。


「まあ、シルフィールさんには感謝しないとね。月光の団が出した報告書には、私たちがしっかり仕事したことも書かれてたみたいだし」

「そうなんだ?」

「うん。ヤクモくんが気に入られたおかげかも」

「気に入られたのかな?」

「そうでないと、月光の団に誘われないよ」


 アルミーネは笑った。


「でも、本当によかったの? 月光の団の団員になったほうが名声もお金も多く手に入るし、部屋だってもらえるんでしょ?」

「いや、僕はこのパーティーがいいんだ」


 僕はテーブルを囲んでいるパーティーの仲間たちを見回した。


「だから、追放されない限り、ずっとこのパーティーにいるよ」

「ヤクモくんを追放するわけないでしょ。必死に引き留めたんだから」


 アルミーネは呆れた顔で僕を見た後、ふっと笑みを洩らす。


「……ありがとう、ヤクモくん。あなたがパーティーに入ってくれて、本当に幸運だったよ」


「やはり、聖剣の団に感謝すべきだな」


 キナコが口を開いた。


「あいつらがヤクモを追放したおかげで、ヤクモは俺たちの仲間になったんだからな」

「だよね」


 アルミーネはキナコの言葉に同意する。


「そういや、聖剣の団はいろいろと大変みたいだよ」

「えっ? 大変って?」


 僕はアルミーネに質問した。


「今回の依頼で二十八人も団員が死んで、早々に撤退しちゃったからね。団の評価がすごく落ちたみたい」

「でも、ダグルードはすごく強い魔族だったよ。強化された骸骨兵士も五百体以上いたし」

「それでも、月光の団はダグルードを倒して、調査団を救出したからね。それにおまけだった私たちのパーティーも活躍したし。これから、聖剣の団への依頼も少なくなるんじゃないかな。実力が不安視されちゃったから」


 アルミーネは首を右に傾けて頭をかいた。


「と、そんなことより、これからのことを話そうか。夕食でも食べながら」

「ピルンはお肉が食べたいのだーっ!」


 ピルンが瞳を輝かせた。


「西通りの月の宝石亭に黄金牛のお肉が入荷したからな。あれは食べておかないと人生百年は損するのだ」

「じゃあ、そこにしようか。キナコもいいよね?」

「問題ない。美味い肉をつまみにして酒を飲むのも悪くない」


 キナコが答える。


「ヤクモくんもいいかな?」

「うん。もちろん」


 僕の頬が緩んだ。


 仲間といっしょに食事って、やっぱりいいな。聖剣の団にいた頃は、下に見られてたせいか、食事に誘われたこともなかったし。


 アルミーネの家を出ると、既に夜になっていた。


 夜空の東側に巨大な月が昇っていた。柔らかな月の明かりが前を歩く仲間たちの姿を照らす。


 僕は足を止めて、みんなの後ろ姿を見つめる。


 このパーティーの一員になれて、僕は幸せだな。みんな信頼できて、僕を認めてくれる大切な仲間たちだ。


【魔力極大】のユニークスキルが復活して、僕は強くなった。

 でも、この世界は危険に満ち溢れている。ダグルードより強い魔族や町を滅ぼす災害クラスのモンスターもいる。


 そして六魔星や魔王も……。


 そんな相手と戦うためには、もっと強くならないと!


「ヤクモっ!」


 数十メートル先の十字路でピルンが僕の名を呼んだ。


「急ぐのだ。黄金牛のお肉がなくなってしまったら、最悪の事態なのだ」

「あ、ごめん!」


 僕はピルンに謝りながら、月明かりに照らされた道を走り出した。

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