第56話 エピローグその1
聖剣の団の屋敷の一室に、キルサスと幹部のエレナ、そしてガルディがいた。
イスに座ったキルサスは机の上に黄白色の紙を置いた。
「報告書を読ませてもらった。失態だったな、ガルディ」
「い、いや、待ってくれ!」
ガルディの声が微かに震えた。
「そこに書いてある通り、ダグルードの強さは六魔星に近いレベルだった。しかも強化された骸骨兵士が百体以上もいて、俺とアドルが生きて帰れただけでも奇跡なんだよ」
「六魔星に近いレベル……か」
キルサスは人差し指でトントンと机を叩いた。
「そこまで強い魔族だったのなら、なぜ、月光の団はそいつを倒せたんだ?」
「それは……十二英雄のシルフィールがいたからだ」
「銀月のシルフィールか。たしかに彼女なら、強い魔族を倒すこともできるだろう」
「あ、ああ。それに魔族殺しのキナコもいたんだ。あいつらが協力して、ダグルードを倒したんだろう」
「どうして君も協力しなかった?」
キルサスはじっとガルディを見つめる。
「十二英雄のシルフィールと協力すれば、君は楽にその魔族を倒せてたはずだ。そうすれば、二十八人も団員が死ぬことはなかっただろう」
「それは……」
ガルディの頬がぴくぴくと動いた。
「君は戦闘スキルを三つも持っているAランクの冒険者だ。戦闘能力を疑う必要はないが、パーティーをまとめるリーダーとしての資質は疑問だね」
「疑問だと?」
「そうだ。僕なら、月光の団といっしょに行動して、シルフィールとダグルードが戦っている時に参戦するね。そうすればリスクが軽減され、リターンが大きい。特にキナコもいたのならな」
キルサスは淡々とした口調で言葉を続ける。
「君がシルフィールやキナコといっしょにダグルードを倒していれば、聖剣の団の評価は上がったはずだ」
「だが、月光の団と出会う機会がなかったんだ。俺たちが出会ったのはキナコたちのパーティーだけで」
「ならば、そのパーティーを利用する手もあった。キナコのパーティーなら、それなりの実力があるだろうからな」
「いや、あのパーティーは生意気な錬金術師の女がリーダーをやっていて……そっ、そうだ。このパーティーを追放された男もいたぞ」
「追放された男?」
「ああ。たしか……ヤクモだったかな」
「ヤクモ……」
キルサスの眉がぴくりと動いた。
「ヤクモがキナコのパーティーにいるのか?」
「あ、ああ。それで俺も奴らと協力する意味がないと思ったんだ。あんたが追放した男がいるようなパーティーなんだから」
「……それは関係ない。パーティーに役立たずのヤクモがいたとしても、キナコがいれば、そのパーティーのレベルは平均以上になるからな」
「だ、だが……」
「言い訳はいい。君の失敗で聖剣の団の信用が落ちたのは事実だ。それを否定することはできないだろ?」
「ぐっ……」
ガルディは反論できずに両肩を震わせた。
「ガルディ……」
キルサスがイスから立ち上がる。
「君の給料を一年間半分にする。文句はないな?」
「はっ、半分だと?」
ガルディの目が丸くなった。
「ふざけんなっ! そんなに減らすつもりなのかよ!」
「妥当な金額だと思うがね。君の指揮で二十八人もの団員が死んでしまったのだから」
「……ぐっ……くそっ!」
ガルディは舌打ちをして、部屋から出ていった。
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