第43話 作戦

 数十分後、僕たちは裏通りにある建物の中で月光の団と合流した。


 僕は団員に指示を出しているコリンヌに声をかけた。


「コリンヌさん、シルフィールさんの意識は戻りましたか?」

「……いえ、まだです」


 コリンヌは眉間にしわを寄せて首を左右に振る。


「突き刺さった破片が内臓を傷つけています。回復魔法をかけてますが……」

「そう……ですか」


 僕は座り込んでいる団員たちを見つめる。


 リーダーのシルフィールが負傷して、心が折れている団員が多そうだ。命を落とした団員も十人近くいるし。


 調査団の人たちも不安げな表情で体を寄せ合っている。

 僕は月光の団の団員を真っ二つにしたダグルードの姿を思い出す。


 ダグルードはメタリックドールや強化した骸骨兵士を従えているだけじゃなく、強力な武器を持ち、本人も戦闘慣れしているように思えた。月光の団の団員の攻撃にも焦る様子がなかった。


「まずい状況だな」


 回復薬を飲み干したキナコが口を開いた。


「ここもすぐに見つかると思うぞ。ダグルードは五百体以上の骸骨兵士を動かせるからな」

「うん。すぐに移動したほうがいいかも」

「ただ、問題はどこに逃げるかだ。上に逃げる道は知られていると考えたほうがいい」


 僕は半壊した扉の隙間から、外を見る。

 数十メートル先にある大通りを数体の骸骨兵士が歩いていた。


 僕たちを捜せとダグルードに命令されているんだろうな。


「こうなったら、アレを使うしかないか」


 アルミーネがぼそりとつぶやいた。


「ん? アレって?」

「『魔炎爆弾』よ」


 アルミーネはアイテムを収納している魔法の指輪を僕に見せる。


「多数の敵を一気に倒せる爆弾なの。使うのは初めてだけど、これなら骸骨兵士の数を減らせると思う。ただ……」

「ただ、何?」

「骸骨兵士を一箇所にまとめないとダメかな。魔炎爆弾は一個しかないから」

「一個だけなんだ?」

「だって、これ一つ作るのに大金貨五枚以上かかるから」

「大金貨五枚以上っ!?」

「うん。レア素材をいくつも使ってて、『赤炎草の粉』も一キロ以上詰め込んでるし」


 アルミーネは、ふっと息を吐く。


「と、それより、どこに仕掛けるかね。広くて骸骨兵士を集めやすい場所がいいんだけど」

「それなら、この近くに円形闘技場があったよ」


 僕は南の方向を指さす。


「ここからだと、走って五分ぐらいかな」

「うん。悪くない。あとはどうやって円形闘技場に骸骨兵士を集めるかね」

「僕がおとりをやるよ」

「えっ? ヤクモくんが?」

「うん。僕の能力が一番おとりに向いてるからね。紙の壁をいっぱい作れるから」

「基礎魔力は大丈夫なの?」

「まだ、四割ぐらいは残ってるよ」

「あれだけ紙を具現化して、まだ四割も残ってるんだ? やっぱり【魔力極大】ってすごいスキルね」


 アルミーネは感嘆の声をあげる。


「じゃあ、キナコは私といっしょに円形闘技場で魔炎爆弾の設置を手伝って。ピルンは……」

「ピルンはヤクモといっしょにおとりをやるのだ!」


 ピルンが僕の腕に手を回す。


「おとりが一人だと怪しまれるからな。だから、ピルンもいたほうがいいのだ」

「……危険な仕事だよ?」

「だから、ピルンがやるのだ。アルミーネの回復薬を飲んで体力もばっちり回復したからな」


 ピルンはぐっと親指を立てる。


「それなら、私もおとりをやる」


 ミルファが右手を上げた。


「おとりなら、Eランクの私でもやれるはず。手伝わせて」


「俺もやるぞ」


 若い男の団員が立ち上がった。


「その作戦が上手くいけば、シルフィール様や調査団を守ることができるからな」


 さらに数人の団員が右手を上げた。


「じゃあ、作戦に参加する人は集まって」


 アルミーネが手を上げた団員たちを集めて、作戦を話し始めた。

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