第42話 Aランク冒険者キナコ

「ヤクモ、あいつらは俺にまかせろ」


 キナコが僕の前に立って、腰に提げたひょうたんを手に取った。そのフタを外し、

中の液体を飲み干す。周囲にチュル酒の香りが充満した。


「こんな時にお酒っ?」

「ふっ、そのほうが俺は強くなるからな」


 そう言って、キナコはにやりと笑った。


「酔えば酔うだけ強くなる。これが俺の肉球酔拳だ」


 ゆらゆらと上半身を揺らしながら、キナコは前に出た。


 二体のメタリックドールが左右から同時にキナコに攻撃を仕掛けた。その攻撃をキナコは上半身を大きくそらしてかわす。さらにその状態から体を半回転してメタリックドールの左足に背中を当てる。その状態からキナコは体を捻って、メタリックドールの腹部を肉球で叩く。メタリックドールの体が五メートル以上飛ばされた。


 もう一体のメタリックドールが右手を伸ばし、キナコの頭を掴もうとする。


「おっと……」


 キナコはぺたんと背中を地面につけた。メタリックドールは腰を曲げて、右手のこぶしをキナコの頭部に振り下ろした。その攻撃をキナコは首を曲げてかわす。メタリックドールのこぶしが地面に穴を開けた。


「残念だったな」


 キナコは本物の猫のように体をくねらせて立ち上がり、メタリックドールの首の下を肉球で叩いた。

 ガラスが割れるような音とともにメタリックドールが地面に倒れる。


 キナコは素早くその場から離れて爆発を避けた。


「ふっ、俺の肉球なら、皮膚が硬くても中の核にダメージを与えることができる」


 キナコはふらふらと体を揺らしながら、近くにいた骸骨兵士に攻撃を仕掛ける。


 さすがキナコだ。ここは問題ないな。


 僕はミルファと戦っていた骸骨兵士に走り寄り、側面から魔喰いの短剣を突いた。長く伸びた青白い刃が骸骨兵士の首の骨を砕き、頭部が地面に落ちる。


「ミルファ! 月光の団のみんなに伝えて! 南側に橋があるって」

「……あ……う、うん。わかった」


 ミルファは戦っている団員たちに僕の言葉を伝える。


「撤退だ! 下がるぞ!」


 Bランクの団員が叫ぶと、全員が戦闘を停止して南側に走り出す。

 団員と骸骨兵士の距離が開くと、僕は意識を集中させる。


「『魔防壁強度七』!」


 骸骨兵士の前に金属の性質を持つ紙の壁が具現化する。


 これで時間が稼げるはず。


 そう思った瞬間、壁の一部が斬り裂かれて、そこからダグルードが姿を見せた。その手には黄金色の剣が握られている。


 くっ! 強度七の魔防壁が一瞬で斬り裂かれた。あの剣、要注意だな。


「ヤクモ! 俺たちも下がるぞ」


 キナコが僕に駆け寄った。


「この状況ではダグルードを狙うのは難しい。骸骨兵士の数が多すぎる」

「うん。下がったほうがよさそうだね」


 僕はダグルードの側にいる二体のメタリックドールを見つめる。


 ダグルードを狙うなら、メタリックドールと骸骨兵士をなんとかして、こっちが有利な状況で戦わないと。


 僕は唇を強く結んで、キナコといっしょに走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る