第44話 魔炎爆弾
一時間後、僕とピルンは数十体の骸骨兵士から逃げていた。
裏路地に入ると、僕は紙の壁を具現化して道を塞ぐ。
「ピルン! こっちだ!」
僕とピルンは十字路を右に曲がり、細い道を走り抜ける。
あの紙の壁は十秒で消える。でも、それだけの時間があれば十分だ。
僕たちは建物の中に入り、身を潜めた。
骸骨兵士たちが僕たちの前の道を通り過ぎていった。
「だいぶ、骸骨兵士が集まってきたね」
「うむ。作戦通りなのだ」
ピルンが尖った歯を見せて笑った。
「ヤクモが紙の壁を出せるから、逃げるのが楽なのだ」
「うん。特にこの場所は狭い道が入り組んでいるからね。壁で封鎖するのが楽だよ」
「やっぱり、紙を出す能力は役に立つな」
「うん。最近、自分もそう思うようになったよ。【紙使い】は雑魚スキルじゃないって」
「ピルンはみんなで水晶ドラゴンを倒した時から、わかっていたのだ」
ピルンが自慢げに胸を張る。
「ヤクモは強くてファッションセンスがあるいい男なのだ」
「ははっ、ありがとう」
僕はピルンの頭を軽く撫でた。
その時、首元につけた魔道具のバッジからアルミーネの声が聞こえてきた。
『ヤクモくん。こっちの準備は終わったよ』
「あれ、予想より早いね」
『月光の団のみんなが手伝ってくれたからね』
「じゃあ、円形闘技場に行くよ」
『よろしく。西側でおとりをやってるミルファたちにも伝えておくから』
「よし! 行こう、ピルン!」
僕はピルンといっしょに建物を出て、円形闘技場に向かった。
僕たちは多くの骸骨兵士に追われながら、円形闘技場に入った。
細い通路を抜けると、開けた場所に出る。その場所には黄土色の砂が敷き詰められていて、所々に資材が積まれていた。
視線を動かすと別の通路の入り口で、月光の団の団員たちが骸骨兵士と戦っているのが見えた。その中にはミルファの姿もある。
「ヤクモくん!」
階段状の観客席からアルミーネが手を振っていた。
「準備はできてるから!」
「わかった!」
僕は観客席から飛び降りてきたキナコに駆け寄る。
「キナコっ! これから骸骨兵士がたくさんここに来るから」
「予定通りってことだな」
キナコが細い通路から現れた骸骨兵士たちをちらりと見る。
「よし! まかせておけ。数が増えるまで俺がなんとかしてやる」
そう言うと、キナコは近づいてきた骸骨兵士を肉球で突き飛ばす。
ピルンもマジカルハンマーで通路から出てくる骸骨兵士を倒している。
ここからはタイミングが大事だ。犠牲者が出たら意味がない。僕が判断しないと。
周囲を見回すと、既に闘技場の中に五十体以上の骸骨兵士がいた。その骸骨兵士たちをキナコやピルン、月光の団の団員たちが連携を取って倒していく。
しかし、それ以上の数の骸骨兵士たちが通路から中に入ってくる。
すぐに骸骨兵士たちの数が百体以上に増えた。
そろそろ、準備しておいたほうがいいか。
僕は意識を集中させて、紙の階段を具現化する。
さらに骸骨兵士の数が増えたのを確認して、僕は叫んだ。
「みんな、観客席に逃げてください!」
僕の声を聞いて、ミルファたちが階段を駆け上がる。キナコとピルンがその後に階段を上った。
これでいい。
僕は魔喰いの短剣を構えたまま、階段を上がる。
すぐに骸骨兵士たちが追いかけてくる。
僕は自分がいる場所から下の階段を消す。三体の骸骨兵士たちが地面に落ちた。
「アルミーネ! 全員、脱出したよ!」
「了解っ!」
アルミーネは下にいる骸骨兵士の数を確認する。
「数は二百体ちょっとか」
ポケットから黒い円柱を取り出し、先端の部分を親指で押し込んだ。
その瞬間、大きな爆発音がして、円形の地面にオレンジ色の炎が広がった。炎は意思を持っているかのように骸骨兵士たちに遅いかかる。
骸骨兵士の白い骨が黒く変色し、目と口から炎が噴き上がった。
「ガ……ガガ……」
骸骨兵士たちの動きが緩慢になり、次々と倒れていく。
その光景を僕たちは観客席から眺めていた。
二百体以上の骸骨兵士たちが数十秒で全滅するなんて。とんでもない武器だな。
「……すごい」
隣にいたミルファが掠れた声を出した。
「こんなに威力がある爆弾なんて、見たことも聞いたこともないよ」
月光の団の他の団員たちもぽかんと口を開けて、動かなくなった骸骨兵士たちを見つめている。
「さすが大金貨五枚ね」
アルミーネが言った。
「これで一気に骸骨兵士の数を減らせたよ」
「うん。キナコたちが魔炎爆弾の爆発前にも四十体ぐらい倒してるから、二百四十体以上は減らせたと思う」
僕は額に浮かんでいた汗を手の甲で拭った。
「みんな、逃げましょう」
アルミーネがみんなに言った。
「派手に煙が出てるから、ダグルードがすぐにここに来るはず」
「うん。急ごう」
僕たちと月光の団の団員七人は円形闘技場の出口に向かって走り出した。
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