第40話 シルフィールとダグルード
「無意味な攻撃だな」
ダグルードがつぶやいた。
「それが本気なのか?」
「違うわ。今のは人形の動きを確認してたの」
「……動きの確認?」
「そう。その人形は人の形をしてるくせに動きが変則的だからね。それを確認しておこうと思ったの。それと」
「それと何だ?」
「この人形、頭や腹は守る気がないのに、首の下だけは手で防ごうとするのよね。そこに弱点があるのかな?」
シルフィールの言葉にダグルードの眉がぴくりと動いた。
「……ほぅ。メタリックドールの核の場所に気づいたか。だが、それに気づいても無意味だ。お前の攻撃ではメタリックドールの流体皮膚を貫くことはできないのだからな」
「ふーん。その考えが間違ってることを教えてあげる」
シルフィールは呪文を唱えながら、メタリックドールに突っ込む。双頭光王の刃の輝きが増し、その先端が針のように細くなった。
メタリックドールは両手を交差させるように振り下ろす。
「もう遅いから」
シルフィールは双頭光王でメタリックドールの両腕を斬り落とす。
「これで首の下は守れないわね」
大きく左足を踏み出し、双頭光王でメタリックドールの首の下を突いた。黄金色の先端が銀色の皮膚を貫く。
ガラスが割れるような音がして、メタリックドールの動きが止まった。
「はい。私の勝ちね」
シルフィールがそう言うと、月光の団の団員たちが歓声をあげた。
「さすがシルフィール様だ。圧勝じゃないか」
「あ、ああ。やっぱりうちのリーダーは最高だよ」
「シルフィール様、万歳っ! 月光の団、万歳!」
強い。圧倒的な強さだ。
双頭光王の刃でメタリックドールを貫いているシルフィールを僕は見つめる。
武器強化の魔法をかけて、硬いメタリックドールの体を貫いたのもすごいけど、その前の動きもとんでもない。一瞬で両方の腕を斬り落とすなんて。
「さあ、約束は守ってもらうわよ」
シルフィールは視線をダグルードに向けた。
「あなたの人形は壊れたんだから」
「そうだな。見事な腕前だった」
ダグルードは胸元で両手を二度叩いた。
「だが、お前の勝ちではない」
「ん? 勝ちじゃない?」
「ああ。この勝負は引き分けだ」
ダグルードの口角が吊り上がると同時に、双頭光王の刃に貫かれていたメタリックドールの体からカチカチと小さな音がした。
危険を察知したんだろう。シルフィールは双頭光王を引き抜き、素早く呪文を唱えた。シルフィールの体が黄白色に輝き出すと同時にメタリックドールの体が爆発する。シルフィールは背後にあった建物の壁に強くぶつかった。
「ぐっ……」
シルフィールは唇を歪めて、自分の体を見る。その腹部には銀色の破片が突き刺さっていた。
シルフィールの体がぐらりと傾き、地面に倒れた。
「シルフィール様っ!」
蒼白の顔をしたコリンヌがシルフィールに駆け寄り、回復魔法を使用する。シルフィールの体が青白く輝くが、彼女が起き上がる様子はなかった。
「さて……」
ダグルードは円柱のボタンを押した。
すると、九体のメタリックドールが建物の中から現れる。
「他にメタリックドールと戦いたい者はいるか? 条件はさっきと同じで構わないが」
「ふざけるなっ!」
白銀の鎧を装備した大柄の団員が怒声を発した。
「勝負はシルフィール様が勝っていた。それなのにこんな卑怯な手を使うなんて。魔族には誇りがないのかっ?」
「誇りなど、何の意味もないな」
ダグルードは感情のない声で答えた。
「そんなものを気にして、戦いに負けるのであれば害悪でもある。人族はそんなこともわからないのか?」
「ぐっ……卑怯者めっ!」
団員がロングソードを引き抜き、ダグルードに駆け寄った。
ダグルードは黄金色の剣を具現化し、柄の部分を右手で掴む。その剣を近づいてきた団員に向けて振り下ろした。団員の体が白銀の鎧ごと真っ二つに斬れた。二つに分かれた体が同時に倒れ、地面を赤く濡らす。
「ふむ……やはり、ただの人間では、この武器が強いのか弱いのかわからんな」
ダグルードはいびつに歪んだ刃を見つめる。
「まあいい。実験はこれで終わりにするか。骸骨兵士たちよ、冒険者どもを全員殺せ!」
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