第39話 魔族ダグルード

「へーっ、そんなことでいいんだ?」 


 シルフィールの口角が吊り上がる。


「私とその人形、一対一で戦うのね?」

「そうだ。骸骨兵士も俺も戦わん。そっちがお前だけで戦うのならな」

「……いいわ。私の強さを教えてあげる」


「シルフィール様っ!」


 コリンヌがシルフィールに駆け寄った。


「危険です。あの人形がポルタ文明の魔道具であれば、予想外の攻撃を仕掛けてくる可能性があります」

「あんなガラクタに私が負けるとでも?」

「いえ、ですが、リーダーのシルフィール様が一人で戦うのは……」

「そのほうが犠牲が出ないでしょ。さすがにこの数の骸骨兵士に攻められたら、全員を守るのは難しいし」


 シルフィールはくるりと双頭光王を回す。


「まかせておきなさい。私が負けることなんて、絶対にないんだから」


 そう言って、シルフィールは銀色の人形……メタリックドールの前に立った。


 この状況は予想外だな。


 僕は上半身を揺らしているメタリックドールを見つめる。


 でも、シルフィールが勝てば、僕たちは犠牲者なしで、地下都市から脱出することができる。

 それは僕たちにとって、悪くない条件かもしれない。


「準備しておけよ」


 キナコが隣にいる僕だけに聞こえる声で言った。


「魔族の約束は当てにならん。何か仕掛けてくる可能性があるぞ」

「……うん。そうだね」


 僕は周囲を取り囲んでいる骸骨兵士たちを見回した。


「では、始めるとするか」


 ダグルードは数歩下がって、持っていた円柱を口元に近づける。


「メタリックドール! 目の前にいる女を倒せ!」

「……ヴウウ」


 メタリックドールは細く長い手足を動かして、真っ直ぐにシルフィールに近づく。


「バカな人形」


 シルフィールは素早く前に出て、体を半回転させながら、双頭光王を振った。黄金色の刃がメタリックドールのくびれた腰に当たる。

 耳が痛くなるような金属音が響き、銀色の体に小さな傷がついた。

 シルフィールは銀色の眉を僅かに動かしてメタリックドールから距離を取る。


「……ふーん。予想より堅いのね」

「堅いだけじゃないぞ」


 ダグルードがそう言うと、メタリックドールの傷口から銀色の液体が染み出してきて、その傷を塞いだ。


「どうやら、その武器ではメタリックドールを壊すことはできないようだな」

「そう思ったのなら、あなたの目は節穴ね」


 シルフィールは腰を落として上唇を舐める。


「今の攻撃は全然本気じゃないから」

「そうか。それは楽しみだ」


 ダグルードの言葉と同時にメタリックドールが走り出した。一気にシルフィールに近づき、細長い腕を振り下ろす。シルフィールは低い姿勢でその攻撃をかわし、メタリックドールの側面に移動した。


 その瞬間、メタリックドールの腕の関節が逆方向に曲がった。尖った銀色の指先がシルフィールの首を狙う。シルフィールはぎりぎりでその攻撃をかわす。


「シルフィール様っ!」


 戦いを見ていたコリンヌが悲鳴のような声をあげた。


「当たってないから!」


 そう言って、シルフィールは数歩下がる。


「へーっ、逆方向に腕が曲がるなんてね。ちょっと予想外だったかな。でも、こいつの力量も見えたわ。こんなガラクタじゃ私には……勝てないっ!」


 シルフィールは双頭光王をくるくると回しながら、メタリックドールを攻撃する。連続で金属音が鳴り、メタリックドールの銀色の肌に無数の傷がつく。


「ヴ……ヴヴ……」


 メタリックドールの肌が水面のように揺れ、全ての傷が一瞬で消えた。

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