第21話 昇級試験5

 森の中の開けた場所に数十人の冒険者たちが集まっていた。


 周囲には冒険者ギルドの職員がいて、冒険者たちが手に入れた素材を確認している。


「……『飛行亀の甲羅』が二つで……金貨一枚と大銀貨二枚ですね。おめでとうございます。条件クリアでEランクに昇級です」

「おっしゃ! やったぜ!」


 茶髪の少年がぐっとこぶしを握る。


「これで俺もEランクだ!」


 隣にいた少女が口を開く。


「私も運よく虹色鳥を捕まえたから、楽にクリアできたよ。運命の神ダリスに感謝しないと」

「ああ。今回の試験は運の要素が強いからな。実力があってもモンスターを見つけられなければ、どうにもならないし」

「そうね。まだ、条件をクリアできてない人たちもいるみたい」

「まだ、戻ってない奴らはまずいな。試験終了まで残り二時間を切ってるし」


 その時、木の陰からアルベルが姿を見せた。


 アルベルは魔法のポーチから取り出した黄金色の毛皮を職員に放り投げた。


「こ、これは『黄金熊の毛皮』ですか?」


 職員の目が丸くなった。


「ああ。小さいサイズだが、これで金貨六枚にはなるだろ」

「は、はい。しかし、よく黄金熊を倒せましたね。こいつはDランクの冒険者でもソロで倒すのは厳しいモンスターですよ?」

「多少は手こずったがな」


 アルベルは白い歯を見せて胸を張る。


「まあ、俺は聖剣の団の団員だからな。ぎりぎりの金額で条件クリアなんて、恥ずかしいことはできないんだよ」

「さすが、アルベルね」


 カミラがアルベルの肩に触れた。


「黄金熊を倒してくるなんて、やるじゃない」

「まあな。で、お前はどうなんだ?」

「一角ウサギや紫トカゲを大量に殺して、なんとか金貨一枚分の素材を集めたわ」

「ぎりぎりかよ。ダサいな」

「しょうがないでしょ。高い素材になるモンスターが見つからなかったんだから」


 カミラは赤色の髪に触れながら、唇を尖らせる。


「私だって、黄金熊を見つけたら、火属性の魔法で倒せるから」

「それじゃあ、素材の毛皮が焦げちまうだろ」


 アルベルはカミラの腕を軽く叩く。


「で、ダズルは?」

「僕も三時間前に条件クリアしたよ」


 カミラの背後から、ダズルが姿を見せる。


「僕は全部で金貨一枚と大銀貨五枚ぐらいかな」

「そうか。まあ、全員Eランクになれたのなら、よしとするか」

「おいっ、あいつら、聖剣の団の団員みたいだな」


 周囲にいた冒険者たちがアルベルたちに視線を向ける。


「黄金熊を倒すなんて、たいしたもんだぜ」

「あ、ああ。俺の団のDランクの先輩は黄金熊に殺されたんだよな」

「まあ、聖剣の団が団員にするぐらいだから、もともと素質がある連中なんだろう。複数の戦闘スキル持ちとかさ」

「さすが聖剣の団だな。いい新人を団員にしてるぜ」


 称賛の言葉にアルベルの口角が吊り上がった。


「ちょっと目立ちすぎたかな」

「まっ、目立つのにも慣れとかないとね」


 カミラが言った。


「Aランクの冒険者になったら、顔と名前は町中に知られちゃうんだし」

「どうせなら、Sランクになって、ゲム大陸にいる人族全員に俺の名前を覚えさせてやるさ!」


 アルベルは茶色の前髪を指先で払う。


「あ、そうだ。面白い話があるんだ」


 ダズルが口を開いた。


「ヤクモのことだけどさ」

「んっ? ヤクモがどうかしたのか?」

「実はさ……」


 ダズルはヤクモが手に入れた『雷リスのしっぽ』を蹴って、焚き火の中に放り込んだことをアルベルたちに話した。


「……だから、ヤクモは素材集めが間に合わないかもしれないよ。この時間になっても、戻ってきてないしね」

「へーっ、そいつは面白いな」


 アルベルがにやりと笑った。


「聖剣の団を追放されて、Eランクの昇級試験にも落ちるか。まあ、あいつの実力じゃ、順当な結果だが」

「だよね。今までは運に助けられてたけど、今回はダメかもしれないね。ひひっ」


 ダズルは甲高い笑い声をあげる。


「これでヤクモを勧誘したパーティーのリーダーも気づくだろうね。あいつが使えない紙使いってことをさ」

「ははっ、そうかもな」


 アルベルたちは笑い出した。


 その時、細い獣道から、ヤクモが姿を見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る