第22話 昇級試験6

 集合場所に戻ると、アルベルたちの姿が見えた。


 アルベルが会話を止め、僕に近づいてくる。


「おい、ヤクモ。金貨一枚分の素材は手に入ったのか?」

「なんとかね」


 僕は素材が入った魔法のポーチを軽く叩いて、近くにいた職員に歩み寄る。


 背後からアルベルの舌打ちが聞こえた。


 僕が素材を集められないことを期待していたんだろう。


「すみません。素材の確認をお願いします」

「はい。わかりました。では、素材を見せてください」


 職員の男がにっこりと笑って、右手を差し出す。


「ちょっと大きいので、地面に置きます」


 僕は魔法のポーチに手を入れて、目の前の地面に鎧ムカデの頭部を出現させた。


「鎧ムカデの頭部です。触角が素材になるはずですが、このほうが素材を傷つけないと思って」

「……はっ?」


 職員の男がぽかんと口を開けて、鎧ムカデの頭部を凝視する。


 数秒後――。


「鎧ムカデを倒したんですか?」


 その言葉に冒険者たちが集まってきた。


「おっ、おい! マジで鎧ムカデの頭じゃねぇか」

「あ、ああ。あんな化け物を倒したのかよ?」

「う、ウソだろ? 鎧ムカデをソロで倒すなんて、Bランクの冒険者でも無理だぞ」


 周囲の視線が僕に集中する。


「おいっ、ヤクモ!」


 アルベルが荒い声を出した。


「お前っ、どうやって、鎧ムカデの頭を手に入れたんだ?」

「え? 倒したからだけど」


 僕はアルベルの質問に答える。


「いや、お前が鎧ムカデを倒せるはずがない! こいつは紙なんかで倒せるようなモンスターじゃないんだ!」

「そんなこと言われても、倒したのは事実だし」


 僕は職員の男に視線を向ける。


「問題ないですよね?」

「そう……ですね」


 職員の男はしゃがみ込んで、鎧ムカデの頭部を確認する。


「……問題ありません。間違いなく鎧ムカデの頭部です。触角は全く傷ついていませんから、これだけで、えーと……大金貨一枚と金貨二枚になります」

「じゃあ、僕はEランクに昇級できますか?」

「もちろんです」


 職員の男はきっぱりと答えた。


「というか、素材の価値はあなたがダントツで一番ですよ。二番目が『黄金熊の毛皮』で、金貨六枚ですから」

「へーっ、黄金熊を倒した人もいるんだ」

「はい。でも、あなたのほうがすごいですよ。まさか、Fランクの冒険者がソロで鎧ムカデを倒すなんて」


 職員の男は目を輝かせて、僕を見つめる。


「あなたの名前を教えてください!」

「僕はヤクモです」

「ヤクモさんですね。あなたの名前、覚えておきますよ。きっと、あなたは将来Aランクになるでしょうから」


 その言葉に冒険者たちが騒ぎ出した。


「いやぁ、驚いたぜ。黄金熊を倒した奴もすげぇと思ったが、それよりも危険な鎧ムカデを倒す奴がいたとはな」

「ええ。ほんと信じられない。私たちの団に入団してくれないかな?」

「いや、あれだけ強いのなら、もう、どこかの団に入っているだろうさ」


 団から追放されて、今はパーティーに入っているけどね。


 僕は心の中で、そう答えた。


「ヤクモ……」


 アルベルが僕の肩を強く掴んだ。


「お前、覚えてろよ」

「ん? 覚えてろって何を?」

「俺に恥をかかせたことをだ!」


 アルベルは歯をぎりぎりと鳴らした。


「えっ? 恥って?」

「黄金熊を倒したのは俺なんだよ」

「じゃあ、いいじゃないか。お互いにEランクになれるし」

「そういうことじゃねぇ! お前は俺のプライドを傷つけたんだ!」


 怒りの表情を浮かべて、アルベルは言葉を続ける。


「どんなトリックを使って鎧ムカデを倒したかはわからねぇが、お前は戦闘スキルを持ってない弱い冒険者だ。それは間違いない」

「たしかに僕は弱いよ。鎧ムカデとの戦いもぎりぎりだったし」


 僕は鎧ムカデの頭部を見つめる。


「運が悪ければ死んでいたと思う」

「また、運かよ!」


 アルベルは短く舌打ちをした。


「ほんと、イラつく男だな。お前は」


 そう言うと、アルベルは僕に背を向けて離れていった。

 ダズルとカミラも僕をにらみつけた後、アルベルの後を追う。


 僕はふっと息を吐いて、頭をかく。


 聖剣の団にいた頃は、ここまで敵意は持たれてなかったのにな。

 まあ、その頃から、アルベルたちは僕を下に見てたし、好意は持たれてなかったか。


 一瞬、アルミーネやピルン、キナコの姿が脳裏に浮かんだ。


 アルミーネたちはアルベルたちとは違う。まだ、仲間になったばかりだけど、僕と対等の立場で接してくれる。冒険者ランクはアルミーネたちのほうが上なのに。


 やっぱり、聖剣の団を追放されてよかったな。


「ヤクモさん」


 職員の男が僕に黄土色のプレートを渡した。


「これがEランク冒険者の証であるプレートです。Fランクのプレートは回収させていただきますので」


 僕は受け取った黄土色のプレートを見つめる。


 これで僕もEランクの冒険者か。


 きゅっと身が引き締まる気がした。


 いや、まだまだこれからだ。アルミーネの目的は混沌の大迷宮の最下層を目指すことだ。

 それなら、Eランク程度じゃ話にならない。Bランク……いや、Aランクの冒険者を目指さないと。


 僕は黄土色のプレートを強く握り締めた。

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