第11話 新たな仲間2

 冒険者ギルドの掲示板には多くの依頼書が張ってあった。


【ゴブリン退治、約三十体 場所、エジン村周辺、依頼料金貨二枚】

【ウオチ村までの護衛、募集人数、Dランク以上二名、依頼料大銀貨三枚】

【『腐肉キノコ』の採集、一本銀貨七枚】

【ナコミ高原のダンジョン探索のサポート、依頼料金貨四枚】

【逃げ出した飼い猫捜し、銀貨五枚】


 アルミーネは掲示板に顔を近づけて、依頼所を確認していく。


「うーん……ダンジョン探索のサポートが金貨四枚か。でも、ナコミ高原は遠いなぁ。これだと移動に五日以上かかっちゃう。んっ……こっちの依頼は団限定ね。それじゃあ、パーティーでは受けられないなぁ」

「魔王ゼズズの討伐なら、大金貨一万枚はもらえるのだ」

「そんな依頼が掲示板に張ってあるわけないでしょ」


 アルミーネはピルンに突っ込みを入れる。


「まあ、最低でも大金貨二枚以上の……あ……」


 アルミーネは一番端にあった依頼書を手に取る。


「これいいかも。実績にもなりそうだし」


【水晶ドラゴンの討伐、場所、メガド山の鉱山、依頼料大金貨二枚と水晶ドラゴンの素材の権利、条件、Aランク以上の冒険者がいるパーティーか団】


「これなら大金貨二枚だし、水晶ドラゴンの素材の権利をもらえるのもいいね。ドラゴンの素材は高く売れるから」

「え? ドラゴン討伐の依頼を受けるの?」


 僕は驚きの声をあげた。


 ドラゴンは最強種と言われている危険なモンスターだ。全長二十メートルを超える個体も多く、魔法耐性があり、鋭い爪や広範囲のブレス攻撃で殺された人族は多い。最高Cランクの三人パーティーで倒せるようなモンスターじゃない。


「無茶だと思うよ。それにAランク以上の冒険者がいるパーティーか団でないと受けられないんじゃ?」


 僕は条件が書かれた箇所を指さす。


「大丈夫。もう一人、パーティーに誘う予定だから」

「誘う予定って……」

「うん。彼ならAランクだし、依頼の条件もクリアできるよ」

「Aランクか」


 Aランクの冒険者が仲間にいるのなら、ドラゴンを倒せる可能性はあるな。最高ランクのSランクには及ばないけど、Aランクも戦闘の天才ばかりだし。


「よし! まずは依頼を受けてから、彼がいそうな酒場に行きましょ」

 そう言って、アルミーネは受付に向かった。


 ◇ ◇ ◇


 町外れの小さな酒場に入ると、酒の匂いが鼻腔に届いた。

 中には冒険者らしき男たちが十数人いて、顔を赤くして酒を飲んでいる。丸い木製のテーブルの上には焼いた鳥の肉やチーズが並んでいる。


 昼間から酒か。まあ、冒険者は依頼がない時は、だらけている人が多いからな。


「あ、いたいた」


 アルミーネは木製のテーブルの間をすり抜けて奥に向かう。


 その先には小さなイスに腰をかけている猫人族の男がいた。


 猫人族は背丈が五歳の子供ぐらいで、顔は猫そのものだ。全身の毛の模様は茶トラで首には銀色の大きな鈴をつけている。ぶかぶかのダークグリーンのズボンを穿いていて、腰のベルトの側面には赤茶色のひょうたんの水筒が提げられていた。


 猫人族がAランク? 珍しいな。猫人族は小柄で戦闘向けの種族じゃないのに。


 猫人族の男は金色の瞳でアルミーネを見上げた。


「アルミーネか」


 渋い男の声が牙を生やした口から漏れた。


「また、俺の勧誘か? 無駄だぞ」

「そんなこと言わずにさぁ。私たちにはキナコが必要なんだよ」


 アルミーネは猫人族の名前を口にした。


「最強の格闘家で、『魔族殺しのキナコ』の二つ名を持つあなたがいれば、私たちのパーティーはもっと強くなるし」

「だろうな」


 そう言って、キナコはテーブルの上に置かれた木のコップを手に取る。その中には赤い葡萄酒が入っていた。


「だが、前にも言ったように俺はお前のパーティーには入らん。弱い仲間と組んでも俺に利益はないからな」

「ところがそうでもないの」

「そうでもない?」

「うん。有望な新人が入ってくれたからね」


 そう言って、アルミーネは僕の肩を叩いた。


「私のパーティーに新しく入ったヤクモくんだよ。Fランクだけど、強いユニークスキルを持ってるの」

「強いユニークスキルか」


 キナコは僕をちらりと見た。


「ユニークスキルが強くても強者とは限らない。スキルを盲信して鍛錬を怠る者もいるし、戦闘センスがない者もいる」

「ヤクモくんは戦闘センスもあると思うよ」

「……ほぉ。ならば、多少は期待できるのかもしれんな」


 キナコは葡萄酒を飲み干すとイスから立ち上がった。


「いいだろう。お前をテストしてやる」

「えっ? テストですか?」


 僕は驚きの声を出した。


「そうだ。俺についてこい」


 キナコはふらふらと上半身を揺らしながら、出口に向かって歩き出した。

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