第10話 新たな仲間

 三日後、僕はアルミーネの家で完成したばかりの新しい服を着せてもらった。

 それは青色を基調とした服で上着とコート、ズボンには多くのポケットがついていた。


 このポケットは多くの物を持ち運べる魔道具の魔法のポーチと似た効果がある。これは僕がアルミーネに頼んでつけてもらったものだ。事前に魔法のポケットに具現化した紙を入れておけば、基礎魔力を使わなくてすむ。魔法のポケットの中なら具現化時間を消費しないし、難しい魔式の紙でも瞬時に出すことができる。


「うん。サイズもばっちりだね」


 アルミーネはくびれた腰に両手を当てて、満足げにうなずく。


「最高の服ができたよ。久しぶりにいい仕事したなぁ」

「ありがとう。でも、本当にいいの? これを売れば、とんでもない値段がつくと思うよ」

「売るわけないでしょ。ヤクモくんのために丹精込めて作ったんだから」


 そう言って、アルミーネは僕の胸を手の甲で叩く。


「これで本格的に難易度の高い依頼を受けることができるようになるわ」

「あ、そうだ。もう一人の仲間って誰なの?」

「もうすぐここに来るはずだよ。ヤクモくんを紹介するって伝えておいたから」


 その時、扉が開いて、十代半ばぐらいの少女が家に入ってきた。


 少女は紫色の髪を腰まで伸ばしていて、すらりとした体形をしていた。瞳も紫色で、僅かに開いた口からは尖った歯が見えている。服はいくつもの色違いの布を重ね合わせたような上着とショートパンツ。長めの赤茶色のブーツを履いていた。


 すごくカラフルな服を着てるな。上着のポケットも左右で色が違うし。まるで七色蟲みたいだ。


「むむっ、この痩せた男が新しい仲間なのか?」


 少女は僕の顔を覗き込む。


「あんまり強そうでないのだ」

「そんなことないよ、ピルン」


 アルミーネが言った。


「ヤクモくんはFランクだけど、強いユニークスキルを持ってるから」

「うむむ。そうなのか」


 少女――ピルンはうなるような声を出して、僕に歩み寄る。


「狂戦士のピルンなのだ。今はDランクだけど、将来Sランクになって、魔王を倒す女になるので覚えておくといいのだ」

「魔王を倒すって、すごい目標だね」

「ピルンが本気になれば楽勝なのだ。アルミーネが作ってくれた魔法の武器と服もあるし」

「言っとくけど、その服の色とデザインはピルンの希望だからね」


 アルミーネがピルンの服を指さした。


「私としては、もっと落ち着いた色合いの服が好みだから」

「むむっ、服の色はいっぱいあったほうがいいのだ。綺麗だし、かっこいいのだ!」


 ピルンは頬を膨らませる。


「ヤクモもピルンの服はかっこいいと思ったはずなのだ」

「あ、えーと……」


 僕は口をもごもごと動かした。


「そう……だね。オリジナリティがあっていいと思うよ。子供っぽ……いや、かわいいし」

「かわいい……」


 ピルンの紫色の瞳が輝く。


「ヤクモはファッションセンスがあるのだ。これなら、パーティーの仲間として認めてあげてもいいのだ」

「あ、ありがとう」


 よくわからないけど、ピルンに認めてもらえたようだ。


 それにしても、狂戦士か。狂戦士は戦闘時に自身の戦闘力を圧倒的に上げ、感情のままに戦う戦士だ。冷静沈着な戦い方は苦手だが攻撃力は高く、味方にいれば頼もしい存在でもある。


「そうそう。ヤクモくん。これも渡しておくね」


 アルミーネが僕に青白い刃の短剣を手渡した。


「これも私が作った『魔喰いの短剣』だよ。使用者の意思に反応して水属性の刃の形状が変化するの。長く刃を伸ばしたり、斧のように厚みを持たせたりしてね。斬れ味も魔力の量に応じて、鋭くなるよ。ただし、欠点もあるけど」

「欠点?」

「うん。刃を変化させるには、大量の魔力が必要なの。だから、魔喰いの短剣は基礎魔力が多い人でないと使えないんだよね。だから、高価な素材を使って作ったのに売れなかったの」

「魔喰いの短剣か……」


 僕は受け取った短剣を見つめる。短剣の刃は半透明で柄の部分には青い宝石が埋め込まれている。これは……水属性の効果を強化できる『水魔石』だ。


 魔力を大量に使う武器か。魔法戦士向けだな。ただ、この短剣に魔力を使いすぎると、他の魔法が使いにくくなる……か。


 ただ、紙以外の攻撃方法があるのはいいな。しかも、具現化時間を気にする必要がないし、斬れ味も紙の剣よりありそうだ。問題は……。


「僕に使いこなせるかな?」

「大丈夫だと思うよ。ヤクモくん、基礎魔力を増やすスキル持ってるでしょ?」

「う、うん。多分」

「んっ? 多分って、自分のスキルを鑑定してないの?」


 アルミーネが首をかしげた。


「鑑定なんて、すぐにできるでしょ? 安価な鑑定器も売ってあるし、鑑定の魔法を使える人もいっぱいいるから」

「いや、最近、頭を打って、子供の頃になくなってたスキルが復活したみたいなんだよ」

「へーっ、そんなことがあるんだ。何のスキルが復活したの?」

「……【魔力極大】かな」

「んっ? 【魔力極大】ってユニークスキルじゃない?」

「うん。基礎魔力の量がとんでもなく増えたから、多分そうじゃないかなって」

「ちょ、ちょっと待って!」


 アルミーネは棚の上にあった黒い水晶玉を手に取る。その水晶玉を僕の顔に近づけ、呪文を唱えた。


 水晶玉の表面に赤い文字が浮かび上がる。


「……ホントだ。【魔力極大】と【紙使い】のスキルがある。で、基礎魔力の量は……730万マナっ!?」


 アルミーネの声が大きくなった。


「730万マナって……人族の平均的な基礎魔力の三千倍以上だよ!」

「やっぱり、そうか」


 僕は水晶玉に浮かんだ文字を見つめる。


【魔力極大】がないと、キマイラと戦った時に、あんなに紙を具現化できるはずがないからな。


「いやぁ、これは予想外ね」


 アルミーネが頭をかいた。


「まさか、ヤクモくんの基礎魔力が230万マナもあるなんて。しかも、ユニークスキル二つ持ちか。とんでもないFランクを勧誘しちゃったな」

「とんでもない……かな?」

「Sランクでもユニークスキルを複数持ってる人なんて、聞いたことないよ。もちろん、それで強さが決まるってわけでもないけど、すごいポテンシャルがあるのは間違いないよ」


 アルミーネはじっと僕を見つめる。


「……とりあえず、冒険者ギルドで依頼を受けてみようか」

「え、今から?」

「うん。ヤクモくんの戦い方も見ておきたいし。それにいっぱいレア素材を使ったから、しっかり稼いでいかないと」


 そう言って、アルミーネは右手の親指を立てた。

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