第6話 冒険者ギルド

 次の日の朝、僕はタンサの町の中央にある冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドは四階建ての大きな建物で、中には多くの冒険者たちがいた。


 ロングソードを腰に提げている人間、弓矢を背負ったエルフ、革製の鎧を装備している頭部に獣の耳を生やした亜人。


 彼らは真剣な表情で、掲示板に張り出された依頼の紙を見ている。


「ちっ! ろくな依頼が残ってないな。オーガ退治の仕事で大金貨二枚はないだろ」

「そうだな。オーガなら、最低でも大金貨三枚ってところだろう」

「それなら、盗賊退治の仕事はどう? ミファ村が依頼出してるわよ」

「いやいや、盗賊退治は人数の多い団がやる仕事だろ? 俺たちみたいな四人パーティーじゃ厳しいって」

「今回は素材採集の仕事にしておくか。安い依頼でも死ぬよりはマシだからな」


 僕は冒険者たちの間をすり抜け、受付に向かう。

 そこには白い絹のシャツを着たエルフの女性がイスに座っていた。


「すみません。団員の募集をしている団はありませんか?」

「いらっしゃいませ。入団希望の冒険者の方ですね」


 エルフの女性は、僕のベルトにはめ込まれたFランク冒険者の証である白いプレートを目で確認する。


「Fランクの冒険者ですか。となると、新人の冒険者の育成を考えている団になりますね。それなら……」


 エルフの女性は木製のテーブルの上に数十枚の紙を並べる。


「……今だと、新人の冒険者を募集している団はありませんね」

「そう……ですか」


 僕の口から暗い声が漏れた。


 団はリーダーがBランク以上で団員が五十人以上いないと、冒険者ギルドに認定されない。ただ、認定されると、国の補助を受けることができて、報酬の高い依頼を受けやすくなる。


 この町には三十以上の団があったはずだけど、どこも新人は募集してないのか。


「大人数の団に入れば生存率が上がりますし、給料を受け取れて生活が安定します。ただ、当然、団のほうも即戦力か将来性のある冒険者を団員にしたいと思っていますので」


 エルフの女性は値踏みするかのように僕を見つめる。


「戦闘スキルはお持ちですか?」

「いえ。戦闘スキルは持ってませんが……難しいでしょうか?」

「……うーん。募集がありませんからねぇ」


 エルフの女性の眉が眉間に寄る。


「団ではなく、少人数のパーティーに入る選択はいかがでしょう? ソロで依頼を受けるより安全ですよ」

「募集しているパーティーがあるんですか?」

「えーと……たしか……」


「ゴミスキルしか持ってないこいつを入れるパーティーなんて、あるわけないだろ」


 突然、背後から声が聞こえた。

 振り返ると、そこにはアルベルが立っていた。


「よぉ、ヤクモ」


 アルベルはにやにやと笑いながら、僕の肩を叩く。


「新しい仲間探しか。大変だなぁー」


 アルベルは周囲にいる冒険者たちにも聞こえる声で言った。


「こいつは将来性のない弱い冒険者って判断されて、団を追放されたんだぜ」


「おいっ、マジかよ?」


 青髪の男がアルベルに声をかけた。


「追放って、おだやかじゃねぇな」

「それだけ、こいつがダメだったってことさ」


 アルベルが僕の頭を人差し指で突く。


「こいつは紙を具現化するだけのユニークスキルしか持ってねぇし。そりゃあ、追放もしたくなるって」

「……ふーん」


 青髪の男はちらりと僕を見る。


「たしかにそれじゃあ、団どころかパーティーに入れたいと思う者もいねぇだろうな」

「というわけさ、紙使い」


 アルベルは僕に顔を近づけて舌を出す。


「これからは冒険者ギルドで記録係でもやったらどうだ? それならお前の雑魚スキルも役に立つだろ。あ、でも、具現化する紙は時間が経つと消えちまうから、意味ねぇか。ははっ」


 周囲にいた冒険者たちが笑い出した。


「そりゃ、使えないユニークスキルだな。戦闘以外にも役に立たないのか」

「運が悪かったな、坊主。強いユニークスキルだったら、Sランク冒険者になれたかもしれねぇのに」

「戦闘センスのないヤクモじゃ、強いスキルを持っててもSランクなんて無理だって」


 アルベルが笑いながら言った。


「まっ、Sランクになるのは、戦闘スキルを三つ持ってる俺さ」

「……ほぉ。お前、戦闘スキルが三つもあるのか?」


 青髪の男が目を丸くした。


「二つはたまにいるが、三つは珍しいな。お前、強くなるぜ」

「そのつもりさ。スキルだけに頼るつもりはないからな」

「おいっ、お前、俺たちの団に入らないか?」


 背の高い男がアルベルの肩に触れた。


「戦闘スキルを三つも持ってるなら、将来、うちの団のエースになれるぞ」

「それは無理だな。俺は聖剣の団の新人だから」

「あーっ、聖剣の団か。あそこはAランクが四人もいるからな。うちの団より格上か」


 背の高い男はがっくりと肩を落とした。


 結局、パーティーの仲間募集の依頼もEランク以上の冒険者を求めていて、Fランクの僕では条件が合わなかった。


 仕方なく、僕は薬草採取の仕事を受けることにした。これなら、Fランクのソロでも受けることができるから。


 今は地道にやるしかない。もうすぐ昇級試験もあるし、そこでEランクになれたら、団は無理でも、どこかのパーティーには入れるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る