第41話

「でね、右手にはんだごて持って左手に磁石持って頭にシウマイ蒸すメカみたいな銀のアレかぶって『無敵』とか言ってんの 」


「いやいや芽衣ちゃん、小学生男子にしたら欲しい物全て手に入れた状態なんだよソレって」


「いつの時代の小学生よ」


「あははは 上田君らしいね、全然変わってないのね小学生から」


「うん、ヒロト君も達哉も、あの三人はたぶん変わることなんて無いわねこの先も。 きっとおじいさんになっても危なっかしい事ばっかりやっていつも誰かに怒られてるわよ」


「誰がデンジャラスじーさんじゃい!」


ポカッ


「痛っ、 ちょっと達哉何すんのよ! 」


「やかましわい! 黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって」


もう一度右手に握った丸めたプリントで芽衣の頭を叩こうとしたが「甘いわ」と左手でガードされたので二段攻撃で芽衣の右頬をつねってやった。


「ダイエット続けてるのか? サボってんじゃないのか? 」


軽く冗談で言っただけなのに芽衣の右は俺のボディに深く突き刺さり数センチ浮かび上がった俺の身体は危うくそのまま膝から崩れそうになった。

これ絶対体重ウェイト増してやがる。


「そりゃ瀬野が悪いわ、芽衣ちゃん俺たち見張っててやるから思う存分やっちゃいな」


上田がそう言うとヒロトも渋い顔で同意していた。


「ああもう気分悪い! 川澄さんあっちに行きましょう 」


ヤバい、ここで芽衣の機嫌を損ねてしまうとせっかく川澄と自然な感じで元の関係に戻ろうという俺の計画が崩れてしまう。


「ちょ! ちょ! ちょい待ち! ほら母ちゃんの卵焼き! 芽衣お前の大好物、 ほらほらせっかく5人揃ってるんだし楽しく昼飯たべようぜ、 な? 」


芽衣は少しの時間フリーズしていたが無言で近付いて来ると俺の弁当箱を奪って川澄に差し出した。


「川澄さん、 達哉なんかどうだっていいんだけどナオミちゃんの卵焼きだけは一度食べておいた方がいいわよ 」


母ちゃんの卵焼きのおかげでその場はなんとか治まり俺たちは輪になって屋上で弁当を拡げた。


「ほんと! すっごく美味しい、 こんな美味しい卵焼き初めて 」


芽衣に差し出された俺の弁当箱から箸で卵焼きを取ると川澄は一口では食べきれず半分ほど食べてその味に驚き、残りもそのまま口に入れた。


「瀬野君のお母さんって凄く若くて美人よね 」


たしかに俺は母ちゃんが17歳の時の子供だから同級生の母ちゃんたちと比べると若いんだろうとは思うけど、化粧っ気もないしいつもジーンズにTシャツやトレーナーでおしゃれしている所なんかも見たこと無いし母ちゃんを美人だなんて思ったことは一度もなかった。


「でしょ? ウチのお父さんなんかも昔からナオミちゃんのファンなんだもん、 凄いよね、働いて子育てして、ずっと一人でやってたんだもん。 なのに息子はこんなに非行に走ってしまって可哀想よ 」


「は? 俺が非行少年? 非行少年が「母ちゃんの卵焼きサイコー」とか喜びながら人に勧めたりするか? あれ? 卵焼きが一個無い! こら上田お前何勝手に食ってんだよ 」


「いやそれだけ言われりゃやっぱり食いたくなるじゃん 」


「おいヒロト! お前その延ばした箸で何を狙ってんだよ? あ~もう誰も信用出来ねえお前ら食べ終わるまでこっち近付くんじゃねえぞガルルルル! 」


「生まれたばかりの仔犬を守る母犬か!」


「ウ~ンこれは母性ですねぇ これは動物の世界ではよくあることなんです。見ててください、こうやってこちらに敵意が無いことを見せてやればですね」


「おお!ヒロゴロウさんだ!」


ガブッ

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